第32話・こちらに来ないで!
しばらくして私は寝台の中で目が覚めた。私は自分の寝室にいた。誰かが気を失った私を部屋まで運んでくれたらしい。身じろぐ私に気がついたのか寝台の外から声がかけられた。
「気がつかれましたか?」
「ノギオン?」
そこには久しぶりに会うノギオンがいた。彼の顔を見て安堵した。
「私、気を失ったのね? あなたが運んでくれたの?」
「はい。あなた様は今まで気を張りすぎて疲れが出たのでしょう。陛下からは無理をせず公務の方はしばらく休むようにと言付かっております」
「良いのかしら?」
「大丈夫でしょう。陛下の睡眠時間が削られるだけですよ」
事も無げに言うノギオンが可笑しかった。
「ノギオン。側にいてくれる?」
「はい。アリーダさまのお側におりますよ。向こうの方は大方片がついたので」
「良かった。私、また変な夢を見たの」
「例の怖い夢ですか? 子供の頃に見ていた?」
「そうよ。白銀の髪に青い目をした……」
そう言っていて私はその相手がある人に良く似ていたことを思い出した。身体が震えてくる。
「そんな。嘘……?」
「アリーダさま。このお茶を。気を静めてくれます」
ノギオンが差し出して来たカップを手にして口に含むと爽やかな香りが口内を満たし喉へと嚥下した。
「悪夢の影響がまだ残っているようですね。これで気は落ち着くかと思いますが──」
そうノギオンが言っていた時にノック音がしてルーグが駆け込んできた。
「アリーダ。大丈夫か?」
彼と目が合った瞬間、再び例の男が思い出された。ルーグに男の姿が被る。
「いやあ! こっち来ないで!」
「どうしたんだ? アリーダ?」
「アリーダさまは子供の頃にあった嫌なことを思い出されまして今は気が立っておられるのです。どうぞこちらへ」
そう言ってノギオンは戸惑うルーグを引っ張るように連れて退出して行った。子供の頃にあった嫌な事とは口実だと分かっている。ノギオンはそう言って誤魔化してくれたに違いなかった。
しばらくしてノギオンだけが戻って来た。その晩、ルーグが部屋を訪ねて来ることはなかった。
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