第33話・ごめんなさい。私の為に
翌日。ノギオンが黒髪の男と共に顔を出した。黒髪の男は誰かと思えばルーグだった。青い瞳は変わりなかった。
「まだ俺が怖いか?」
「ううん。平気、大丈夫」
ルーグは黒髪にしただけなのに別人のように見えた。見目が麗しいのは変わらないけど、白銀の髪の時には人間離れした美しさを感じてとっつきにくい印象を覚えたのに黒髪にすると身近なお兄さんのように感じられた。
「良かった。これでおまえに嫌われたならどうしようかと思った」
「良く似合っているわね。素敵よ。ルーグ。でもその髪の毛はどうしたの? 染めたの?」
「おまえが前の髪色だと嫌なことを思い出しかねないとノギオンが言うから思いきって黒髪にした」
黒だと一度染めるとなかなか落ちないからなとルーグは笑った。申し訳ないけど今のルーグなら私も嫌な気はしないし、怖くもなかった。
白銀よりも黒髪の彼の方が抵抗を感じずに済んだ。
「ごめんなさい。ルーグ。私の為に……」
「アリーダ。気にしなくてもいい。俺にとっても丁度良いイメージチェンジになった」
ルーグは優しかった。昨日は突然、私に拒絶されて傷ついた表情をしていたのに彼は私を責めなかった。あの時、私は愛おしい彼に向かってどうしてあんな事を言ってしまったのだろうと後悔した。言ってしまった言葉は取り消せない。彼を傷つけた自分が許せなかった。
「ルーグ。あなたはそれでいいの? 地毛を染めたことへの抵抗はないの?」
「全然気にしてないぞ。逆に前の髪色には忌まわしい思い出もあったからな」
ルーグは何かを思い出すような素振りをした。双子の妹のことだろうか? 彼に良く似た妹だったと聞いている。一時、鏡を見るのも嫌になったことがあったと10年前、出会った彼が言っていたのを思い出した。
「アリーダさま。気にしなくても大丈夫ですよ。ルーグは以前の銀髪よりも黒髪の方が結構気に入っているのですよ。前の色だと頭髪が薄く見えがちなのを悩んでいましたから」
「おい、ノギオン。何を言う。アリーダの前で」
「良いじゃないですか。お悩み解決で。黒髪にしたら地肌が目立たなくなって浮かれていたくせに」
「ノギオンっ」
「別に隠すようなことには思えませんけどね。この男はアリーダさまの前ではいい格好しいなんだから」
「悪いか? 俺は惚れた女の前では少しでも格好良く思われたいんだよ」
開き直りですか? と、呆れた様子のノギオンに顔を真っ赤にして言い訳するルーグが可笑しかった。
クスクス笑っていると二人は顔を見合わせ苦笑する。
「アリーダ。そうそうおまえは笑っている方がいい」
微笑むノギオンの前でルーグが私の頭を撫でる。子供扱いは恥ずかしいはずなのに、ルーグにそうされるのも悪くないと思えた。
ルーグが近衛兵達に指示を出すために退出して行ってから私はノギオンに聞きたいことがあった。昨日、意識を失った私を抱き上げて言った彼の言葉を耳が拾っていてずっと気になっていたのだ。
「ねぇ、ノギオン。あなた何か隠しているわよね?」
「どうしたのですか? アリーダさま。藪から棒に」
「あなた昨日、私が意識を失う前に言っていた生き直しているとは何? 私は一度死んだことがあるの?」
「何を言い出すかと思えば──」
「誤魔化さないで。ノギオン。あなたは大賢者なのでしょう?
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