第29話・誰かが背後にいる?

 その後、すれ違うようにルーグが入室してきた。ルーグは早朝から配下と共にカルロスを尋問していた。その知らせに来たに違いなかった。


「彼はどう?」

「あっさり吐いた。やはり昨晩はおまえを犯そうと忍び込んだらしい。街のならず者に金を渡して騒ぎを起こさせ、その騒ぎに便乗して部屋に忍び込んだようだ。部屋の場所の特定にはこの宮殿の最近入ったばかりの女官を言いくるめて案内させたようだ」

「どうして私を狙ったのかしら?」

「カルロスは陛下を妬んでいる。平民出身である同母を持ちながら本来なら回ってこないはずの皇位が兄に回って来たことが許せなかったらしい」

「それで私を襲って憂さ晴らししようとしたの?」

「そういう事らしい」

「呆れた。あの人一体いくつなの?」

「37歳だ」


 大人げないという意味で言ったのだけど、律儀なルーグは年齢を教えてくれた。ルーグより3歳も年上だなのに落ち着きが感じられない。しかも30代にもなって自分のしでかしたことの大きさに気がつかないなんてもしかして──?


「カルロスさまは馬鹿なの?」

「馬鹿だ。まともな人ならこのようなことをしでかさないはずだ。奴をどうする?」

「夜這い未遂も許せないことだけど、彼には余罪があるからそれも追及したいわ」

「余罪?」

「ルーグに話してなかったかしら? オリティエが産んだ子はキランに似てなかったこと」

「いや、おまえから出産したという話までは聞いたけどその後の話は聞いてないな」

「そうだったかしら? ああ、ごめんなさい。王城では箝口令が敷かれていたからあなたにも話してなかったわね。実はねオリティエが産んだ子は褐色の肌に白金の髪をして金色の瞳をしていたの」

「……!」


 私の言葉にルーグは瞠目した。


「その子はキランにもオリティエのどちらにも似てなくて皆が不思議がっていたのよ。驚いた?」

「ああ」

「皇帝が来訪した時に彼女の産んだ子が皇帝に良く似ていることに気がついたわ。皇帝はフォドラさまを寵愛しているし彼女に手を出すわけがない。だとしたら彼女の産んだ子供の実の父親は皇帝に良く似た人。そう考えたら一人しかいないじゃない?」

「今、牢屋で気を失っている馬鹿か?」

「ええ。彼しかいないでしょう?」

「あの馬鹿はとんでもないことをしてくれたな」


 ルーグがこめかみを引き攣らせ深いため息を漏らした。


「でもね、カルロスは単純なのよね?」

「……? 何が言いたい?」

「このようなことをしでかすなんて誰かに唆されたような気がしてならないの。彼とオリティエだけでこのような事出来るかしら?」

「つまり何者かが彼らの背後にいるかもしれないと言うことか?」

「まあね」

「その辺も早急に探らせよう」

 

 ルーグは足早に退出して行った。




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