第28話・オリティエの嘘


「なるほど。大変でしたね。フォドラさまも」


 つまりあの彼女のことだ。新しい母と姉にあたりがきつかったのかも知れない。フォドラは言葉を濁してはいるが彼女の実父が大層甘やかしてきたのだろう。

キラン達の挙式には腹立たしく思われて参加してなかったので、恐らく実の娘の挙式に参加したと思われる父親にも会っていないが、こんなことになるぐらいなら参加して文句の一つぐらい言っておくのだったと思った。後の祭りだけど。


「それは父親であるビーサス伯爵が甘やかした結果だ。あなたは奴には会ったことがあるか?」

「いいえ。キラン達の挙式には参加されていたようでしたが私は参加しなかったので。そのうち顔を会わせる機会もありますかね?」

「オリティエの父は産業大臣で各地を飛び回っている。なかなか宮殿に顔出す暇もなさそうだがなんとかしよう」

「宜しくお願い致します」

「まあ、そのうち向こうから接触してくるとは思うがな」


 含みを持たせたような言い方を皇帝はする。私は昨晩の事件もありある事が気になっていた。


「オリティエさまはカルロスさまと親しかったのですか?」

「ええ。夜会で知り合って親密にしていたのであの子が結婚すると言ったときに、まさかその相手がキランさまとは思いませんでした」


 私の質問に答えたのはフォドラだった。フォドラはオリティエが結婚するならカルロスだろうと思っていたらしい。


「アダルさまはその辺りは知っていたのですか?」

「まあな。きな臭いものを感じて調べていた。一夜の過ちとは言っていたが恐らくキラン殿はあの二人に嵌められたのだろう」

「あの。オリティエは何かしたのでしょうか?」


 私と皇帝が目配せあうとフォドラは怪訝そうに聞いてきた。彼女はオリティエの嘘を信じていたようだ。


「あれは他の男との間に出来た子をキラン殿の子だと偽ったのだ」

「……! そんなあの子はキランさまとの子を授かったのだと嬉しそうに報告してきて……」

「オリティエさまはキランに少しも似ていない褐色の肌に金髪、金色の瞳を持つ赤子を産みました。本人は曾祖父に似たのだと言い訳しておりましたが……?」

「そんな馬鹿な。あり得ません」


 フォドラさまは首を横に振った。


「でもあなた方は義理の姉妹でしょう? もしかしたら彼女の母方の曾祖父がそうなのかも知れないのでは?」

「いいえ。私の曾祖父は彼女の母方の曾祖父と兄弟なので良く知っています。その縁で母は再婚したのですから。父方の方でも褐色の肌に金髪、金目の人物がいたとは聞いていません」

「つまりオリティエさまは嘘を言っていたと?」

「申し訳ありません。あなたさま方に嘘を言うなんて。あの子はなんてことを……!」


  アダルハートは嘆くフォドラの肩を引き寄せた。


「この件についてもカルロスさまを尋問の上、明らかにさせます。それで宜しいですか? 陛下」

「あなたに一任する。あれにはほとほと手を焼いていたのだ。オリティエを恐らく誘導したのはあれだろう」

「私もそう思います。彼女一人ではそんな大それたことが出来そうには思えませんから」


 フツフツと怒りが湧いてくると「好きなようにしばいて構わないぞ」と、私の心の内を慮ったように言って皇帝はフォドラを連れて退出して行った。

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