第27話・あなたが?


「余の最愛の女性フォドラだ」

「……初めまして。アリーダです」


 皇帝の紹介に驚いた。公妾フォドラはあのオリティエの姉と聞いていたから、てっきり彼女に似た亜麻色の髪に薄青色の瞳をした儚げな容姿の女性に違いないと思い込んでいた。でも彼女はオリティエには全然似ていなかった。そればかりかオリティエには異性に媚びるような女性特有の嫌らしさが見えたのにフォドラにはそれは見られなかった。


「あなたがフォドラさま?」


 私の失礼な発言にフォドラは気を悪くすることもなくくすりと笑った。


「はい。わたくしがフォドラです。もしかしたら妹に似てなくて驚かれました?」

「まあ、その……」

「大体は予想できましたから大丈夫です。妹がそちらでは大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「謝らないで下さい。あなたのせいではないのですから」 


 何だか信じられない思いだった。オリティエにこのようなしっかりした姉がいたなんて。私にとってオリティエは常識外れな女でしかなかった。

頭を下げる彼女を見て彼女はきっと今までオリティエに何度も振り回されてきたに違いないと悟った。そんな彼女に妹のことでこれ以上、謝罪はさせたくなかった。これはオリティエの罪だ。彼女のせいじゃない。


「気にしないで下さい。あの方とキランと色々ありましたがこれで良かったのかも知れないと思いつつあるんです」


 私の発言にアダルハートとフォドラは顔を見合わせる。


「私達に振り回された形で申し訳なく思っています。本当にごめんなさい」


 フォドラは心から私に対して済まないと思っているようだ。今度は自分達の都合に巻き込んで申し訳なかったと言って深々と頭を下げてきた。アダルハートはフォドラを援護するように言った。


「フォドラはあなたの事をずっと案じていた。キランと親しくなっていくオリティエに、何度も注意して別れるように諫めていた。それにオリティエは耳を貸さず愚弟の手を借りてゲルト国に向かってしまった。愚弟にはしばらく謹慎を申し渡していたのだが一向に反省する気はなかったようだな」


 彼の晩餐会での言動や、昨晩のことで皇帝は頭が痛いようだった。


「そなたには本当に申し訳ないことをした。悪かった」

「皇帝までどうしたのですか? 二人で謝られたら困ります。謝罪は入りません。それより座りませんか?」


 二人をソファーへと促す。二人は仲良く三人掛けのソファーに腰を下ろした。私は話題を変えることにした。


「お二人はお付き合いされてどのくらいなのですか?」

「そうだな。フォドラとは付き合いは長いんだ。彼女は余の乳母の娘で幼い頃はよく遊んだ」

「そうなんですか? それがいつからかお互いを気にする仲に?」

「ああ。でも余が7つくらいの頃に乳母の夫が突然事故で亡くなり、乳母は再婚して職を辞した。それからは交流が途絶えたんだが数年後、フォドラが女官として余の母に仕えるようになってから再会した」

「フォドラさまとオリティエさまはもしかして異父姉妹となるのですか?」

「いいえ。義理の姉妹です。オリティエは母の再婚相手の連れ子なのです。母親を幼少期に亡くしたらしく義父はそれを不憫に思って育ててきたようで、私達母子のことを今でもよく思っていない部分がありまして──」


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