第26話・そちらの女性は?

 この銀の腕輪をくれたノギオンに感謝の気持ちしかない。そう言えばと思う。


「ここに来てからノギオンを見てない気がするけどどこにいるのかしら?」

「ノギオンならオウロ宮殿で見かけたぞ。使用人達の教育係をしているそうだ。皇帝がゲルト国の王城の使用人達の統率が取れているのに感心して、自国の宮殿の侍従らもそのように養育して欲しいと頼み込んだらしい」

「へぇ。そうだったの。ノギオンも一言言ってくれても良いのに」


 私に黙ってオウロ宮殿に行ってしまうだなんて。と、不満に思うとルーグに聞かれた。


「寂しいか?」

「ノギオンはいつも私の側にいてくれたから。何か変な感じがしているだけ」


 言われてみればそうなのかもしれない。何だか胸の中に隙間風が吹いているような変な感覚。ノギオンは子供の頃から頼りになる大人だった。いつも自分の側にいてくれるのが当たり前のように考えていたから、急に側からいなくなって寂しいのかもしれない。

 この訳が分からないような意味不明なもどかしさはそれかもしれなかった。


「そのうちひょっこり戻って来るんじゃないか。ノギオンだからな」

「そうね。ノギオンだもんね」


 考えてみればノギオンは気がつけば側にいた。いつから彼がいたのかは覚えてないが、私が物心ついたときからいたのは確かだ。

 その晩、私はルーグの腕に包まれていつの間にか寝入っていた。




 翌日。私の元へ皇帝が顔を出した。隣には一人の女性を連れていた。栗毛に黒い瞳をした彼女は髪をひとまとめにして後ろで束ね、質素な紺色のドレスに身を包んでいた。女官だろうか?

書類上の妻である私は派手ではないものの、皇帝の前に出ても恥ずかしくない明るめなブルー系のドレスに身を包んでいた。


「カルロスのことは聞いた。済まなかった。あの愚弟はあなたの気の済むようにしてくれて構わない」

「ありがとうございます。この宮殿に忍び込んだ経緯をただ今、取調中です。もしかしたら手引きした者がいる可能性もあるので。そういった者は連座で処分して構いませんか?」

「勿論だ。てっとり早く首を切ってくれても構わないぞ」

「はい」


 昨晩のことは皇帝の耳に入っていたようだ。彼はカルロスや関係者を処刑して構わないと言ったが、私に彼らの処分については一任してくれるようだ。


「ここでの暮らしには慣れそうか?」

「ええ。何とか。このような素敵な宮殿を賜り感謝しております。そちらの女性は?」

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