第22話・男が女にドレスを贈る意味を知っているか?

 一応、私は書類上とはいえ皇妃という立場にある。夫ではない皇帝からの贈り物であるドレスを着てお披露目となる場に出ても良いのだろうか? と思うとルーグは声を落として耳元で囁いた。


「男が女にドレスを贈る意味を知っているか? そのドレスを脱がせたいという意味があるんだ」

「……!」

「そんなこと仮の夫だろうがあいつに任せられない。それにこのことはあいつの許しをもらっている」


 ドレスにそんな意味があったなんて初耳だ。ルーグは私にドレスを贈ることは皇帝のお許しを得ていると言ったけどこれはかなりの高級品だ。将軍職にあるとはいえルーグにとっては痛い出費だったのではないだろうかと心配してしまう。取りあえずお礼を言えばルーグは満足そうに頷いたので余計な詮索をするのは止めることにした。


「ここからはあいつのエスコートになる」


 大広間の控え室の前まで来ると名残惜しそうにルーグは私の手を離し「後でな」と、囁いた。控え室では皇帝アダルハートが待っていた。


「お待たせ致しました。皇帝陛下」

「さあ、行こうか。皇妃殿」


 ここからはエスコートがルーグから仮の夫、アダルハートへと変わる。


「アダルハート皇帝陛下並びにアリーダ皇妃のおなーりー」


 扉の前に立つ侍従が中で待つ者達に私達の来場を声高らかに告げれば、ざわめいていた声が静まるのを感じた。

 二人揃って中に入ると晩餐の席に着いている大勢の不躾な視線が集まってきた。今まで公妾を持ちながら皇妃を持とうとしなかった皇帝だ。その彼が選んだ女性を見極めようとする目は少なくなかった。


「皆にこの場で知らせがある。余はこの度、ゲルト国から王女アリーダ殿を皇妃に迎えた。彼女は余と並び立つ存在だ。皆にも祝ってもらいたい」

「おめでとうございます。皇帝陛下。皇妃さま、あなたさまの輿入れ大変、嬉しく思います。末永く宜しくお願い致します」


 一人の男が席から立ち上がって言祝げば、皆が口々に「おめでとうございます」と言いだした。


「皆の気持ち大変ありがたく思う。皇妃には余自ら足を運んで求婚したくらい大切な存在だ。皆、宜しく頼む」


 皇帝が頭を下げると皆がざわついた。皇帝が頭を下げるなんてなかなかないこと。驚いたのだろう。その後、皇帝に促されて簡単に「お願いします」と、頭を下げて終わった。その言葉少ない私の態度に何か指摘されることもなく普通に会食が進み、会食の合間に一言ご挨拶をと押し寄せてきた貴族達を愛想笑いで乗り切りそろそろ晩餐会も終盤になってきた時だった。一人の男が近づいてきた。


「初めまして。皇妃さま。これからお義姉さまとお呼びしても?」

「これは余の同母の兄弟でカルロスと言う。皆にはリーゼロ公爵と呼ばれている」

「初めまして。宜しくお願い致しますね。リーゼロ公爵さま」


 皇帝アダルハートに良く似た風貌をしていて褐色の肌に瞳が金色をしていた。リーゼロ公爵カルロスは私を品定めでもするような目つきでジロジロ見てきた。それが不躾に思われた。

 話しに聞く彼らの父親で今は亡き先代の皇帝は、後宮に沢山の女達を集め大勢の子を成したらしい。でも子供達は次々夭逝し、無事に成人を迎えたのは皇帝とこのカルロスに3名の皇女さまのみ。皇女達は次々輿入れをしてこの国には誰も残ってはいなかった。

 先代の皇帝と皇妃は政略結婚。夫婦仲は良くなかったそうで二人の間に子はいない。そんな中、先代皇帝から後継者として指名を受けたのは踊り子出身の寵妃を母に持つアダルハート。それを実弟であるカルロスは面白く思っていないとも聞く。彼は兄の失脚を企んでいるとも聞いていた。

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