第21話・ルーグの嫉妬


 首筋から顔をあげた彼は鎖骨にキスを落としていた。


「おまえがどうしようもなく恋しかった」

「あ……」

「ここ2,3日はあいつに嫉妬していた。もしかしたらあいつにおまえが惚れられていたらどうしようかと悶々としていた」

「大丈夫だってば……。あ……」


 苛立たしげな様子を滲ませてルーグは執拗に攻めてきた。


「皇帝とは何も無かったから」

「本当か?」


 こちらを見るルーグには嫉妬の色が見えた。


「本当よ。ルーグはどうしてそんなに自己評価低いの? 自信持ってよ。私はあなた以外、目移りしないわ」

「そっか……」


 彼の頭を両腕で抱き寄せると安心したように顔を伏せる。しばらくそのままにしていたら動かなくなった。


「ルーグ? ルーグってば」

「ん……? んん……」


 すやすやと寝息のようなものがしてきた。寝てしまったらしい。彼も色々あったみたいだし疲れているのだろう。


「仕方ないわね」


 ルーグの頭を撫でていたら自然と欠伸が出て寝てしまった。私よりも17歳も年上の彼が嫉妬して寝顔を見せているのが大きな子供のように思えて何だか可笑しかった。





 翌日。目覚めると彼の姿はなかった。先に起きて部屋に戻ったらしい。私が目覚めたのは昼過ぎのようで日がだいぶ高くなっていた。


「皇妃さま。皇帝陛下よりオウロ宮殿にてお披露目がありますので晩餐会に出席するようにとのことです」

「皇妃? お披露目?」


 皇妃という呼ばれ方に自覚がなくてきょとんとしていたら、マナが「アリーダさま」と小声で呼びかけてきて気がついた。私はこのシュガラフ帝国の皇帝と婚姻し皇妃となった事を思い出した。


「お支度をなさいませ」


 これから支度? と、言われて戸惑ったが入浴だ、着替えだ、化粧だとマナを含めた数名の女官に取り囲まれて支度が全て終わった頃には夕刻になっていた。

 支度の途中でサンドイッチが運ばれてきたが食べた気がしなかった。

 そして晩餐会の時間が迫り、迎えに来たルーグのエスコートでオウロ宮殿へと向かう。オウロ宮殿はプラダ宮殿とまた違った趣で、白壁に大理石の床はプラタ宮殿と同じだけれども贅沢にも潤沢な金と、宝石の装飾で飾り立てられていた。


「圧倒されるわね」

「凄いだろう? 目がチカチカして俺としては長居したくない場所だな」


 思わず感想を漏らすと、エスコートするルーグが苦笑を漏らした。


「そんなこと言っていていいの?」

「構わないさ。誰か聞いても戯れ言だと聞き流してくれるだろうよ」


 プラダ宮殿に用意されていたドレスは私の髪色を意識したのか、宵闇色のドレスで銀の刺繍があちらこちらに施されていた。手間のかかったことだろうドレスに違和感を覚える。首飾りや耳飾りは青真珠で、夜空に色を添える星のようにシャンデリアの光を受けて瞬いていた。

 このようなドレスや青真珠はそう簡単に1日や二日で用意出来るものではないことは確かだ。皇帝の求婚は突然だったけれども、まるで誰かの為に用意されていたのではないかと思わせるぐらい用意が良かった。特にドレスは無事着られて良かったけれど。


「どうした?」

「ううん。ちょっとね。このドレスがあまりにも──」

「おまえのために俺が用意したものだ。それぐらいはさせてもらうことにした。おまえをあいつの横に立たせるのも不本意だがあいつにおまえのドレスを贈らせたくない」


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