第23話・侵入者
「まさか兄上が皇妃を迎えるとはね」
カルロスの含む言い方にアダルハートが眉根を寄せた。
「何だ? 何か言いたいことでもあるのか?」
「いやだな。怒らないでよ。兄上。別に深い意味はないよ。僕は只、フォドラを皇妃に迎えるのかと思っていたから……」
「フォドラは公妾だ。あれは身の上を弁えている」
「ふ~ん。まあ、良いけど。お義姉さま。どうぞ末永く宜しくお願い致します」
カルロスは怪訝そうな目を向けてその場から離れていった。その背をアダルハートの目が追う。そこには兄弟への愛情らしきものよりは警戒の方が強く感じられた。
「カルロスさまとはあまり仲は良くないの?」
「あれは幼い頃からなんでも余のものを欲しがってきた。気をつけろ」
その言葉にアダルハートが自分を皇妃に選んだ理由が分かったような気がした。
「あなたは一途な方だけど、あの御方は先代皇帝に似たと言うことかしら? でもまあ大丈夫だと思うわ。私は恐らく彼好みじゃないみたいだし?」
「まあな」
「そこは嘘でも違うと言うべきところじゃない?」
「そなたには嘘は通じないだろう?」
そこは嘘でもカルロス対策の為に利用される私の為にリップサービスの一つでももらいたいところだ。あなたのフォドラの為に盾になろうとしているのにと、言えばアダルハートはあなたを信じていると返してきた。
「あなたの不利にならないように立ち回って見せますよ。皇帝陛下」
「宜しく頼む。余の皇妃殿下」
シュガラフ帝国皇帝は心の底から安堵したような笑みを見せた。破顔すると容姿は全く違うのにどことなくルーグを思わせて胸が疼いた。
その晩。晩餐会から帰ってくると気疲れしたのか瞼が重くなった。欠伸が次から次へと出た。それを見て女官長のロアナには「お疲れでしたね」と、労いの言葉をもらい、すぐに就寝についた。
ルーグが言った「また後でな」という言葉は眠気の前には何の用も果たさず私はぐっすり眠り込んでいた。まさかその自分に害を及ぼそうとする人物がすぐ側まで来ているなんて思いもせずに。
「ん……」
異変を感じたのはベットの軋む音を耳が拾った時だった。
「警戒もなく寝ちゃってさ」
──ルーグ?
その声はどこかで聞いたような?と思った時に、相手が背後から抱きついて来た。
「思ったより胸あるじゃん」
「……!」
荒々しく胸を掴んできた男の声はルーグじゃなかった。冷や水を浴びたように一気に目が覚めた。
「だ。だれ?」
「起きたのか?」
──ルーグ!!
「おっと。騒がれると困るな」
横向きで寝ている状態で口元を大きな手で塞がれた。
「ん……!んんっ」
抵抗しようとした私を男は足を乗せて押さえ込んできた。口元を塞がれている状態でうなじに男の鼻息がかかる。このままでは貞操の危機だ。この得たいの知れない男に犯される。そんなの嫌だ。助けて!ルーグ。
「やっ……!」
口元を塞ぐ男の手を外そうとして抗っていると、利き手の腕輪が上下に揺れた。そうだ。この腕輪!
──ルーグ!!
慌てて銀の腕輪を擦ると目映い光が発生した。転移の召喚術が発動したようだ。
「うわっ」
何が起こったか分からない男は突如起こった光に目を奪われて私から手を離した。その隙に寝台から転がり落ちた。
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