第20話・恥ずかしいものは恥ずかしいの

「だ……だれ? ルーグ?」


 就寝時間を迎えてロアナ女官やマナが下がった後、すぐに寝付かれずに寝台の辺りをうろうろと歩き回っていたら隣室側の壁から声がして驚いた。そこには衝立が置いてあってその後ろからガウンを纏ったルーグが現れた。

 衝立の裏には隣室と繋がるドアがある。その説明は昼間にロアナ女官長から聞いていた。ルーグはその隣室から来たようだ。


「……あなたがどうしてここに?」

「皇妃の警護は皇帝陛下のなかで重要課題だ。俺は特別にプラタ宮殿内に部屋を宛がわれることになった」

「つまり私の隣室に部屋を賜ったということね? そのことをロアナ女官長は?」

「知っている。陛下が命じたからな。それに彼女は大賢者に心酔しているから陛下と大賢者が決めたことには絶対反対しない」

「何だか凄い人なのね。大賢者って?」

「何を他人事のように言っているんだ? おまえの側にいただろうが?」


 ロアナが心酔する大賢者。この帝国に入ってからその言葉が耳につく。疑問符が湧いてくると、さらにそれが増えるようなことをルーグが言いだした。大賢者が私の側にいた? ますます分からないんだけど?

 彼は私の手を引いて寝台に近づく。私を寝台に座らせると肩口に額を押しつけてきた。


「そんなことより俺を癒やしてくれないか? 陛下の無茶ぶりで疲れた」

「お疲れさま」


 ルーグの背をよしよしと撫でてあげると、彼の整った顔が近づいていて唇が奪われていた。それと同時に身体に纏うだけの寝間着の中に彼の手が忍び込んできた。


「ここ2,3日、呼び出しが無いから心配した」

「アダルさ──陛下との移動中、あなたを呼び出すと問題になりそうで我慢したもの。側にマナがいたしね」


 いつも夜中にお互いの手首に付けている魔法の銀の腕輪を擦ってルーグを呼び出していた。彼はいつも私に呼び出されるのを待つ側だったが実は彼から呼び出す事も可能なのだ。それなのにしなかったのは彼も皇帝の動きを薄々察していたからだろう。


──鉢合わせしたら気まずいものね。  


皇帝の事をアダルさまと言いかけると、ルーグの目が剣呑の輝きを放ったような気がして陛下と言い直した。彼の前で皇帝の愛称呼びは止めようと思った。


「身体の方はどうだ? まだ痛むか?」

「ううん。痛みはあの時だけでもうないわ。大丈夫」

「それは良かった」


 そう言いながらルーグがガウンを脱ぎ捨てる。なんと彼はその中には何も着てなかった。


「裸? 用意の良いことで……」


 直視するのが躊躇われて目を泳がすと「おまえも脱ごうな。はい、万歳」と、両手をあげさせられて器用にも寝間着を脱がされていた。

 彼の前で晒された胸元を慌てて腕で押さえると「復習しないな」と耳元で囁かれた。優しくシーツの上に押し倒されたと思ったら両手首を大きな手に掴まれていた。


「だって恥ずかし……」

「あの日、散々俺を求めてきたくせに」

「あ……」


 首筋にルーグが顔を伏せた。初めてルーグに捧げた時を思い出すと尚更、恥ずかしい。そんなに日が経ってないだけにリアルにあの時のことも思い出せる。

彼と繋がりあった時は、愛した人と一つになったうれしさに浮かれてそれだけしか考えられなくなっていた。だから裸を見られるのにも慣れたはずではないのかと言われると抵抗を覚える。


「恥ずかしいものは恥ずかしいの」


 言うことは言っておかないと誤解されそうだと思い口にしたら、思ったよりも強気の発言になってしまった。


「そうか。俺も恥ずかしい」

「え?」

「おまえにジロジロ見られるのには慣れてないんだよ」

「ルーグも?」

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