第19話・厄介な主人を抱えたルーグ
その後、簡単な食事を済ませ、マナから色々と今までの事をグチグチと追及されてしどろもどろになっていたら女官長のロアナから来訪者の訪れを告げられた。
「皇妃さま。皇妃宮付き近衛総隊長がご挨拶に参られました」
「どうぞ」
入室許可を出せば私を追い詰めていたマナが離れる。女官長の言葉にアダルハートが言っていたことを思い出したことを。女官長は一人の凜々しい若者を連れていた。その彼を見て目を見張った。
「このような時間に失礼致します。わたくしはこの度、プラダ宮殿の警備や皇妃さまの警護を陛下より仰せつかりましたルーグ・リマノフと申します。よしなにお願い致します」
「ルーグ?」
軍服らしきものに身を包んだ相手に見覚えがあった。普段会うときとは違って前髪を上げていたので一瞬、別人かと思ってしまった。驚いているうちに彼は跪いていた。
「ただ今、お茶をご用意致します。手伝ってもらえますか? マナ」
と、何を悟った感じのロアナ女官長はマナを連れて退出して行ってしまった。マナとしては私の反応から彼が初対面ではないらしいと悟ったようで彼とどのような関係ですか? と、疑いの眼差しを向けながら渋々退出していった。
立ち上がったルーグは抱きしめてきた。
「ルーグ」
「大丈夫だ。誰も見ていない」
批難の声をあげれば彼はけろりとして言う。
「会いたかった。アリー」
「私も会いたかった……」
「皇帝に何かされたか?」
「ううん。何も……」
答える前に唇が奪われていた。ルーグってこんなに情熱的だった? 別人のように思える。キスが終わっても彼は抱擁を解かなかった。
「ここまで来る途中に陛下からあなたが将軍になったって聞いていたけど、将軍のあなたがどうして近衛総隊長に?」
「将軍に就任したら内部で問題が起きて近衛総隊長が首にされた。その座が空いて後任が決まるまで俺が兼任することになった」
「あなたは相変わらずアダルさまに振り回されているのね?」
「あいつと随分と親しいんだな。もう愛称呼びか?」
むすっとして言うルーグが何だか可笑しい。嫉妬している?
「あいつって陛下? そう呼ぶように陛下に言われたの。でも安心してね。私、陛下とは仮の夫婦で何も無いから。あなた達夫婦と同じ書面上の夫婦よ」
「分かっている。陛下からさっき説明は受けたからな」
「じゃあ、あなたとの仲を容認するって話も?」
ルーグの胸元で言えばぎゅっと抱きしめる腕に力がこもった。
「勿論だ。陛下は書面上の妻を俺に押しつけてきたからな。少しは俺の身になって考えてみろと言ったらまさか本当に行動に出るとは思わなかった」
「どういうこと?」
アダルハートのいきなりゲルト国表敬訪問と、私を脅して契約婚約を持ちかけた裏にはルーグとの間で何かあったようだ。
「俺はあれからおまえを正式な妻に迎えるためにフォドラと離婚しようとしていた。それなのにあいつが待ったをかけてきた」
その言葉で何となく察した。皇帝に止められたルーグは面白くなかったのだろう。
「フォドラとの離婚を認めないと言うから、じゃあ、俺は妻に迎えたい女を側に置くことも出来ないのか?と、つい言ってしまった。それに分かった。どうにかしてやるというから何かやらかしそうな気はしていたんだが……」
ルーグがあり得ないよなと苦笑する。ルーグの失言によりアダルハートが行動を起こしたらしい。
「もしかして説明を受けたのってさっき?」
「ああ」
「アダルさまっていつもあんななの?」
「まあな」
「ご愁傷様」
「慰めてくれるか?」
「いいわよ」
アダルハートは考えるよりも動いてから考えるタイプのようだ。厄介な主人を抱えたわねと慰めようとしていたらノック音がした。女官長達が戻って来たようだ。
「この続きは後でな」
意味深な囁きを耳元でされる。その理由が分かったのは数時間後の事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます