シュガラフ帝国皇妃になりました
第17話・私が皇妃でした
「それにしてもオリティエの顔は見物だったな」
「陛下?」
騎馬で皇帝が私と馬を並べる。
「あれは余を利用して、してやったつもりでいたのだろうが、あなたに余が求婚したことで分が悪いと思ったのだろうな?」
クックックと笑う皇帝に違和感を覚える。
「アダルさまはオリティエさまと仲が良いのでは? 彼女はあなた様の寵妃さまの妹なのですよね?」
「いいや。知り合いだからといって仲が良いとは限らないぞ。余はカッコウのような托卵女は嫌いだからな。キラン殿下が気の毒だ」
「ご存じだったのですか?」
「ああ。寵妃の妹だから嫌な面も目につく。あれは姉の事を妬ましく思っていてよく嫌がらせをしていた。そんな女を好きになるわけがない」
「ええっ。じゃあ、知っていてそんな彼女をキランに押しつけたの?」
「押しつけたとは言葉が悪いな。それに尻軽女をキラン殿下に紹介したのは余の愚弟であって、あなたとの婚約を破棄してあの女を選んだのはキラン殿下だ」
「……!」
オリティエは尻軽? その女性をゲルト国では王太子妃にしてしまったの? 気持ちが暗くなってくると気休めのように言われた。
「キラン殿下にはあれの産んだ子の父親の名前を教えてやったから今頃、騒ぎになっているだろうな」
出立前にアダルハートが、キランに耳打ちしていたのはこの事かと納得した。
「狡猾な御方ですね。あなた様は」
「余を利用しようとした罰だ。それに余も驚いた。あんなに似ているとはな。誤魔化しようがない」
「あなた様に良く似ておいででしたね」
「余の子ではないぞ。余はフォドラにぞっこんだからな」
「聞き及んでおります」
「ルーグからか?」
愛する男性の名前をあげられて睨むと、笑いが返ってきた。
「心配するな。そう悪いようにはしない」
皇帝がそう言えば言うほど心配しかない。気が重いまま馬を走らせ続けた。
長期移動に慣れていないマナを連れているので途中、途中休憩を挟みながら帝国に向かったので宮殿に着いたのは3日後の夕刻の事だった。
宮殿はゲルト国の王城と比べものにならないほど広く、大きな真珠色した外壁を持つ二大宮殿が並び立っていた。その宮殿は一つが金色の屋根を持ち、もう一つは銀色の屋根をしていた。対の宮殿のようで金の屋根を持つ宮殿は皇帝が居城としているオウロ宮殿で、銀の屋根を持つ宮殿は皇妃に与えられるプラタ宮殿だそうだ。
巨大な建物を前にして言葉も出ない私を皇帝はプラダ宮殿へと連れてきた。プラダ宮殿の中は白を主体とした壁に、銀色の装飾が施された内部となっていて思ったよりも華美ではなくて落ち着いた趣に感じられた。
「素敵な宮殿ですね」
「気に入ったか? これからあなたがここに住むことになる」
「ええっ? 良いのですか? 私がここに住んで?」
「あなたでなかったら誰が住む? ここは皇妃に与えられる宮殿だ」
「そうでした。私が皇妃でしたね」
こんな立派な宮殿に住むなんて夢みたいな話だ。お客さま気分でいる私をアダルハートが笑う。同行しているノギオンは平静だけどマナは目を剥いていた。小国のあの王城しか知らない私達には、このような大きな宮殿なんて馴染みがないから圧倒されるよね。
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