第18話・あっけない婚姻式
アダルハートはこの宮殿の管理をしているという女官長を呼び出し私と引き合わせた。
「ロアナ。いるか? 皇妃を連れてきた」
「はい。こちらに。お待ちしておりました」
前もって彼女は皇帝から説明を受けていたらしい。快く受け入れてくれた。そしてノギオンを見て「お久しぶりでございます」と、喜びの声を上げた。
「ロアナ女官長。こちらのアリーダ殿下は、わたくしの仕える御方にございます。宜しくお願い致しますね」
「ノギオンさま。あなたさまが目に掛けた御方にこのわたくしがお仕えさせて頂けるなんて光栄にございます。命に代えましてもお仕えする気にございます」
ノギオンの言葉にロアナは深々と頭を下げてきた。ノギオンは知人が多いようだ。彼の交流の広さに驚
いているとすぐその場で「婚姻証明書」なるものにサインさせられることになった。
「証人はノギオンがいれば良いだろう。さ、アリーダ。サインをここに」
「あれ? もうアダルさまは記入済み?」
「あとはあなたが記入するだけだ」
と、事も無げにアダルハートは言う。いやいや、婚姻証明書だよ? 証人は神官長か大賢者クラスの人がいないと神殿で受理されないと聞くのに一使用人のノギオンが証人って?と、思っていたら目の前に証明書を差し出された。すでにアダルハートのサインは済んでいた。あとは私が彼の下にサインを入れるだけ。
「手際の良いことで。これでいいかしら?」
「ではわたくしめが送っておきますね」
私のサインを見届けたノギオンが婚姻証明書の用紙に触れた途端、どこかに消えた。ノギオンが魔法つかいなのを知る私は別に驚かなかったけれどマナはビックリしていた。
「えっ? アリーダさま。今のご覧になりました?」
「マナは知らなかったわね。ノギオンは魔術師なのよ」
「へぇ。そうだったのですか? 知らなかったです」
魔術師はそんなにいない。この世界の魔術師は誰でもなれるわけでもなく、大精霊と誓約を結べた者のみ力が扱えるので帝国をはじめ、ゲルト国でも貴重な存在で雲の上の存在のように崇められていた。地位としては王と同等のように考えられている。
「アリーダさま。どうして今まで教えて下さらなかったのですか?」
そのような凄い御方が姫さまの侍従としてお仕えしていた事を知らなかったなんて……とマナが悔しがる。
「ごめんなさい。ノギオンが素性を明かすのを嫌がったから言えなかったの」
マナ以外の他の皆は驚いていなかった。当たり前のように受け止めているのを見て他の人達はこの事を知っていたと思われる。
「これで婚姻が認められました」
「えっ? うそ」
ノギオンの声に先ほど消えた婚約証明書が現れ、そこに認め印らしきものが押されていた。速やかに婚姻が終わった。私にノギオンについて抗議していたマナも呆気にとられていた。
「今日は長い移動で疲れただろう? ゆっくり身体を休めてくれ。あとでプラタ宮殿の警備を任せている皇妃付きの近衛総隊長に挨拶に向かわせる。ノギオン、話がある」
「畏まりました」
アダルハートは婚約証明書を回収してノギオンを伴い足取り軽く、隣接するオウロ宮殿へと帰って行った。
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