第16話・皇帝の目的
「目的は何ですか? シュガラフ皇帝陛下」
「そう簡単に騙されてはくれないか? さすがは銀腕の王の姫。大賢者が予言しただけある。あなたが選んだ者が帝国の王になると」
「何ですか? それ、聞いたこともないです」
「そなたが生まれる前の話だ。大賢者は銀腕の王の姫に仕えるのだと張り切って帝国を去って行った」
皇帝はにやりと笑った。私は自分の与り知らぬ話に苛ついた。「銀腕の王」とは、私達の先祖の傭兵王とされる人だ。彼は鋼鉄の篭手を付けて戦っていたことから「銀腕の王」と称されていたらしい。
この場にいない大賢者とやらに文句の一つも言いたくなる。何を勝手に人の未来を決めてくれているのかと。
それと皇帝の求婚とどう結びつくのか分からなかった。仮に私と婚姻した者が王となると予言されていたとしても、皇帝はすでに皇位についている。
「その大賢者を捜して欲しいとでも?」
「いや。あやつは好きで帝国を出て行ったのだ。返せとは言わない。その代わり余の求婚を受けてはもらえないか?」
私が生まれる前のことを予言して勝手に帝国を去った人物を捜せと言われても困る。そんなことに協力は出来ないと言ったら求婚の話がぶり返した。
「どうしてそこまで私を?」
「そなたはルーグと懇意にしているのだろう? もし、断るのなら彼の身柄を抑えるまでだ」
皇帝のその一言は、私の感情を揺さぶった。
翌朝。機嫌の良さそうなアダルハートが私の部屋まで迎えに来た。私の朝の身支度が終わるまで部屋の端にある椅子に座って待っていた。
「さあ、行こうか。アリーダ王女。そのワインレッド色のドレスは良く似合っている。今度、そのドレスに会う髪飾りを贈っても良いかな?」
「お好きにどうぞ。食堂に向かうのに別にエスコートなんていりませんわ」
「そうは行かないだろう? 帰国したら正式に婚姻することになるのだから。余の婚約者どの」
皇帝は私の手を恭しく受け取る。それを見てマナが「いつのまに?!」と、驚いた顔をしていた。一晩、空けたら「自分の仕える主人と皇帝の距離が縮んでいました!」だなんて驚くよね。
昨晩、部屋に戻ってきたのは遅かったし、マナは当然寝ていた。それを起こして愚痴るほど鬼畜な主人ではないつもりだ。朝の身支度する時間に話せば良いかって考えていたら、いきなり本人来るからマナに話せなかった。
マナとしては、皇帝アダルハートの接待を私が任されたように思ったのだと思う。王太子夫婦は赤子の世話で大忙しだし、両陛下が接待なんてしないだろうし、そう考えたら皇帝の接待係は王女の私しか残らないよね。
「アリーダと呼んでも良いかな? 余の事はアダルと呼んでくれ」
「はい。アダルさま」
ルーグを人質に取られているような気分でいる私にはどうぞお好きにして下さいという気分だ。
「浮かない顔だな。そんなに昨晩のことが堪えたか?」
「ええ。私の弱い部分を責めてくるなんてあなたさまは酷い御方ですわ」
私達の会話で何かを想像したようで、マナが顔を真っ赤に染めていた。皇帝は意味深に腰に腕を回してくる。それを払いのけようにも笑いながら回された腕の力は強く無駄だった。中年男の力は半端なかった。
しかもアダルハートの行動は早く、食事の席で父王や王妃に私との結婚の許可を取り付けた。両親達は困惑しながら「おめでとう」と、言ってくる。そう言いながら二人の目には「それでいいのか?」と、問われているように思われたけど断りようもなく私は頷くだけだ。
そして皇帝はその場で私を帝国へ連れて行くと言い出した。さすがにそれには両親が反対したが、皇帝の押しに屈して渋々同意した。よって午後には私は帝国に向かっていた。私に同行したのはマナとノギオンのみ。他に同行する使用人を付けられなかったのは突然過ぎたのもあるし、アダルハートがもともとお忍びで来たので同行者は入らないと言ったのをこの二人がどうしてもと譲らなかったせいだ。
騎馬に慣れていないマナは、皇帝の護衛の馬に同乗させてもらっていた。私やノギオンは騎馬で向かう。ノギオンは、王城でアダルハートと顔を合せてなかったのに出発時に皇帝の前で紹介されて「久しぶりだな」と、声をかけられていた。ノギオンは以前、帝国にいたらしくその時にアダルハートとも顔なじみだったと、皇帝から教えられた。
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