第14話・皇帝陛下の謝罪


「賢そうな子だ。きっとこの国を繁栄に導いてくれるに違いない」

「そうだと良いですわ」

「なあに大丈夫だろう。キラン殿下の子なら。おお、よしよし、いっぱい寝て大きくなれよ。寝る子は育つと言うからな」

「まあ。アダルさまったらまるでお父さまみたいなことを言って」

「そなたは私の義理とは言え、妹だからな。この子から見れば余は伯父になるだろう?」

「フォドラお姉さまはお変わりないですか?」

「ああ。フォドラも元気にしている。そなたがキラン殿についてゲルト国に行くと聞いて心配していたが元気な世継ぎも生まれた事だし、これで何の憂いもないな? キラン殿下」


 実はオリティエは皇帝の寵妃の妹なのだ。そのことを知るのはごく一部の者だけ。当然、キランも父王も彼女の素性は知っている。

 彼女の皇帝に対する態度は随分と慣れ慣れしかった。オリティエはシュガラフ皇帝を利用しようとしている。自分の産んだ子を皇帝にキランの子だと後押ししてもらうことで、自分の不義密通疑惑を晴らそうとしているかのようだった。


 シュガラフ皇帝も両親の見た目から、このような色を持つ子が生まれるはずはないと分かっているはずなのに彼女を批難しなかった。この茶番に付き合う理由は何だろう?

 いくらオリティエが自分のお気に入りの公妾であるフォドラ妃の妹だとしても。何か狙いがありそうな気がしてならない。フォドラ妃はルーグの書面上の妻だ。こう言った形で彼女の名前を聞くことになろうとは思わなかった。

 皇帝の言葉に同意するかと思われたキランは言葉を濁した。


「いえ。その。今後については分かりません。一応、我がゲルト国は男系存続ですが長子存続とは限らないので……」

「さようか?」


 キランがこの子が世継ぎとして認められるかどうかは分からないとなけなしの抵抗を試みているようだが、相手は大国の王。押し切られてしまえばそれまでだ。

 私は歯がゆくてならなかった。キランがオリティエのような女に引っかからなかったなら、このような事態になる事もなかったのに。


 今頃、キランも気がついただろう。自分が下手をうったことに。すました顔をしているシュガラフ皇帝が全くもって忌々しい。

 睨んでいたことで皇帝と目があった。出迎えからずっと私のことを視界に入れもせずにいた相手がようやくこちらを見た。オリティエが皇帝を独占していたのもあるが。


「おや。そちらはアリーダ王女殿下かな? 噂には聞いていたが実に美しい」

「以前、妾妃にとお求めになられた者ですわ。少しでもお心の隅に留めて頂いたようで光栄です」


 以前、父王の下へ私を妾妃に欲しいと巫山戯たことを言ってきた皇帝を良く思ってなかった。機会があれば一言、物申してやりたいと思っていた。


「妾妃? ほほう。さすが気が強いようだ。話に聞くところではかなりのじゃじゃ馬らしいが?」

「そうですね。気位が高すぎてそんじょそこらの男では乗りこなせる自信はないでしょうね。私は駿馬に番があると知りながらも言い寄る駄馬とは違いますから」


 自分を馬に例えて詰った皇帝に、オリティエの事も馬に例えてやり返したら皇帝はクックっと笑った。オリティエは睨んできた。


「なるほど。面白い。実に気に入った」

「……」

「あなたには悪いことをしたと思っている。実はこれにキラン殿下を紹介したのは余の実弟でな、許婚であったあなたにはキラン殿の裏切りは相当に許せないものだったと思う。済まない」


 皇帝が頭を下げてきた。思ってもみなかった行動に驚く。この場の皆もあ然としていた。シュガラフ帝国の皇帝と言えば、各国の王族の中でも頂点に立つ存在なのに、そのような人物が私に向かって頭を下げてくるなんて思いもしなかった。

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