第13話・皇帝とオリティエ
その日の夕刻。シュガラフ帝国皇帝が来城された。しかも突然の来訪に加え、数名の供を伴っての質素な旅装姿。騎馬でぷらりと登場。大国の王なのにそれでいいのかシュガラフ帝国皇帝。年齢は38歳だと聞いているけどフットワークが軽すぎる。
本人はキランとは義兄弟のようなものだから気を遣わないで良いと気軽に言うけど相手は長身で、どこかで見たような褐色の肌に白金の髪。瞳は金色の美丈夫。これぞザ・皇帝って感じで威圧感半端ない。
キランとは彼が身を寄せていた修道院で、同じ学士に教えを受けたのだとか。道理で似ているわけだ。前振りもなくいきなりの訪問とか。あなた達、一体何を教わってきたの? と、言いたくなる。王城の皆が気を遣いまくりだよ。
早朝に父王から早馬で皇帝の来訪を教えられ、慌てたキランに馬車に連れ込まれて私も帰城。なんで私も? と持ったけど、シュガラフ皇帝はキランや私と対面を求めて来たらしい。
昼間は久しぶりの私の帰城に女官達が喜び、気合いを入れて入浴後に着飾られて晩餐会に出席。両親である国王夫妻と会話が出来たのは嬉しかったけど、そこに産着に包まれた赤子を抱いてオリティエが登場すると皆、口を閉ざした。
「あら。お久しぶりですね。アリーダさま」
「ご出産。おめでとうございます。オリティエさま」
「ありがとうございます。アリーダさま。祝いのお品ありがとうございました。さっそく、産着やオムツなど使わせて頂いておりますの。この子も喜んでおりますわ」
「……それは良かったです」
幸せ感満載の彼女の笑みに気圧される。一応、私は産後のオリティエの元に産着やオムツなど贈っていた。オリティエは産後であるし、まだ寝付いていると聞いたのに晩餐会に出席なんてしていて良いの? と、思っているとキランが横から口を出してきた。
「オリティエ。きみは別に無理に晩餐会に出席しなくともいいよ。まだ身体を休めていた方が良いんじゃないか?」
「そんな。せっかくアダルさまがいらしているのにわたくしはのけ者ですか?」
「いや、のけ者とかではなく……」
酷いわと言いながら涙ぐむオリティエに、キランは困惑していた。一児の母親となっても、吹けば飛ぶような綿菓子のような中身は変わらないようだ。
「アダルさま」
「おお。久しぶりだな。オリティエ」
旅装から着替えてきた皇帝アダルハートに向かって彼女は声をかけた。その場にいたゲルト国王夫妻やキランを無視した形で。それに皇帝が眉を潜めたように見えたがほんの一瞬のことで、彼は鷹揚に声をかけていた。
「男児を産んだそうだな? おお、どれどれ。よおく顔を見せてくれ。ほう、何だか心なしか余に似ているような?」
「お戯れを。この子は私の曾祖父に似ているのですわ。以前、話したことがあったではないですか。曾祖父は陛下と同じ褐色の肌に白金の髪をしていたと」
皇帝アダルハートが、オリティエが抱いている赤子の顔をのぞき見て首を顰めた。
「そうだったかな? どれどれ可愛らしい子だ。抱かせてくれ」
「はい」
オリティエが差し出した赤子を抱き上げた皇帝と赤子は良く似ていた。そこだけ切り取ってみれば、皇帝とオリティエ、そして赤子が本当の家族のように見える。
二人のやり取りが私には白々しいとしか思えなかった。父王も同じ思いだろう。他の者達はどうしてオリティエとシュガラフ帝国皇帝が親しいのだろうと不思議に思っているようだ。
席についても二人の会話は続き、私達は蚊帳の外だった。
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