第10話・おまえはいい女だ。自身を持て
「初めての場所がこんなところでごめんな」
「ううん」
彼は一度小屋の前で私を降ろすと手を繋いだ。彼の側に10年もいたけどこうして異性として気にして手を繋いだことなどない。心臓がどきどきしてきた。小屋の中に入ると燭台に火を起こした彼は私をベッドに座るように促した。蝋燭の明かりで照らし出された小屋の中は小綺麗になっていて、板張りの床の上に熊の毛皮が敷かれていた。恐らく彼が仕留めたものだろう。ルーグは身を屈めて暖炉に火を起こし、部屋の中を温める。
「逃げるなら今のうちだぞ」
茶化したように背中越しに言われたが、自分には逃げる気はない。ベッドに腰掛けたまま部屋の中を見渡した。壁も天井も丸木で組まれて作られていた。木の清々しい匂いがする。
「ここは?」
「俺が時々訪れている狩猟小屋だ。そのうちおまえにも教えるつもりでいた」
この森は私のいるゲルト国とシュガラフ帝国にかかっていて、中ほどを流れる川によって境界線が別れていた。ここに来るまでに橋を渡ったからこちら側の国に入ったことになるのだろう。ここは高地なので昼間温かくとも朝晩は冷える。
私の隣に彼が腰を下ろしてきた。
「寒くないか?」
「ううん。温かい」
「アリーダ」
これから彼とすることを思ったら緊張してきた。その私をゆっくりと彼は押し倒してゆく。ベッドのシーツの上に背が触れた頃には彼の首に腕を回し、唇を自然に交わし合っていた。以前からこういう仲だったかのように彼の唇に馴染んでいた。
でも段々と服を剥かれていくことに抵抗や恥ずかしさはある。その事を素直に彼に言えないままでいたら彼が私の利き手を持ち上げそこにキスをした。
私の手はお世辞にも綺麗だとは言えない。普段から剣や槍を持って振り回していたせいで表面がガサガサしていて指先はかさついていた。それが彼の目に触れて恥ずかしさのあまり彼の手から引き抜こうとしたのに彼はそれを許さなかった。強く握りしめてきた。
「みっともないでしょう? 節くれ立って。淑女とされる白魚のような手からはほど遠い」
「いや。この手は10年必死に食らいついてきた証だ。他の者が認めなくとも俺が認めてやる。おまえは一途な可愛い女だ」
自虐的に笑えば、ルーグは私の掌や甲にキスを落とした。
「それがあいつの為に頑張って来たと思うと妬ける」
「ルーグ……」
「アリーダ。おまえはいい女だ。自身を持て」
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