第8話・どうして誤解を招くような言い方をするの?
過去に思いを馳せていた私にルーグが同情の目を向けてきた。
「おまえを馬鹿にした話だよな。10年もあいつの為に頑張って来たのにその思いを踏みにじって置きながら今度は側妃になれって?」
「そうなのよ。私を追い出したって王城で悪評が広まって使用人にソッポを向かれているらしくてね、奥さんから泣きつかれたみたい。針の筵だって。その為に私を側妃に迎えてその場を何とか凌ごうとしたみたい。馬鹿にしているわよね」
「止めろ。止めろ。そんな男。クズ男の為におまえが犠牲になることはない」
婚約解消されて行き場のなくなった私を娶ることで、キランとしては悪評を静めて、罪悪感を解消したいようだと、他人事のように言えば、ルーグはそんな男はおまえの為にならないと言ってくれた。
自分のことのように親身になってくれる彼の気持ちが嬉しかった。自分の事を理解してくれる彼が側にいてくれたから今まで何とかやってこられたのだと思う。
「別にね、キランの事なんて何とも思ってない。ただ、そんな男の為に私の貴重な10年を費やしたのかと思うと悔しくてならないのよ。私のその気持ちが分かる?」
ルーグの鼻梁の整った顔がこちらを注視していた。月明かりを浴びて輝く白銀色の髪に青い瞳。彼は月神さまのように麗しかった。美丈夫である彼を前にして私は心が落ち着かなくなった。
ルーグが私の事を思ってキランを批難してくれることは分かっている。彼にとって自分は武術を学ぶ師弟関係でそれ以上の想いがないことも。でもアルコールのせいだろうか? 気持ちが高ぶって仕方なかった。
正直、キランなんかどうでもいい。彼がオリティエを連れ帰り「この人と結婚したい」と言った時点で嫌になった。その彼を宰相と敵対関係にある将軍が擁護したことも面白くなかった。
将軍は「王女と婚姻する前に生殖に問題がないことがこれで知れて良かったじゃないか」と言い、私とキランの婚約解消には「そら見ろ。女が男の真似事なんかするから嫌われるんだ」と、軍部で嘲笑していたらしい。
そんな要因を作ったキランには思うところが多々ある。私が黙ってしまったことで自分の発言が気に障ったとでも思わせてしまったらしい。ルーグが申し訳なさそうな顔をしていた。そんな顔させたいわけじゃない。
「俺は朴念仁だからな。おまえが言いたいことが分からないことは沢山あるかもしれない。気を悪くさせたなら謝る。済まない」
「違う。ルーグは悪くない」
「……!」
私はルーグに抱きついた。彼は目を丸くしていた。そして驚きつつも優しく背に手を回してきた。
「私の気持ちの中で上手く折り合いがつかないだけなの。何か悔しすぎて。自分ばかりがどうして批難されるのかって……。それなのに都合良く元さやを望まれても気持ちが受け入れられない」
「アリーダ。辛いならいっそのこと俺の国に移って来るか?」
「ルーグは優しいのね」
「おまえにだけな。俺の屋敷で匿ってやってもいいぞ」
「またそうやって誤解を招くような言い方をする。あなたって女性受けする容姿なのは知っている?」
「何となくは」
彼の言葉に腹が立った。世の中のモテる男はどうしてこんなにも余裕があるんだろう? あなたは私のことを異性として意識しないでしょうが、これでも私は女なのよ。
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