番外編 タラジュの葉に想いをのせて


「アレ」と呼ばれるななしの皇女は、炎虎のリュウホと老騎士と一緒に北斗苑にいた。

 アレは父から存在を認められず、北斗苑の土蔵で暮らしてるのだ。


「今日は姫様にこれを見せたくてお連れしました」


 老騎士は木から一枚の葉を取って、アレに差し出した。


「これなぁに?」


 なんの変哲もない緑の葉っぱだ。


 老騎士はリュウホの前にも葉っぱをとっておいてやる。リュウホはその葉をクンクンと嗅いだ。


(なんだこれ?)


 リュウホも不思議そうだ。

 老騎士はニコニコと笑うと、落ちていた枝をとりその葉を傷付けた。


「見ていてくださいね」


 ふたりが興味津々で葉を見ていると、ジワジワと黒い文字が浮き上がってきた。


「え? すごい! どうしたの?」


 アレは驚いて葉っぱを裏返してみる。


(魔法か? 魔法か?)


 フンフンとリュウホは葉っぱと枝の匂いを嗅ぐ。


「タラジュの葉を傷付けると、こんなふうに黒くなるんです。遠い昔には手紙として使われていたようですよ」


 老騎士が言うと、アレは目をキラキラと輝かせた。


「わたしもかいてみる!」


 そういうと、足もとの枝を拾い、タラジュの葉をちぎる。絵を描いたり、文字を書いたり、アレは夢中になって遊んだ。


 アレが書き散らかした木の葉をリュウホが咥えて運ぶ。フンフンとご機嫌そうに尻尾を揺らしている。

 すべて運び終わったのか、リュウホはアレを鼻先で押した。


(なぁ、見てよ!)


 リュウホがテレパシーで訴える。

 アレは言われたままに木の葉を見にいった。


 並べられた木の葉の文字は「だ」「い」「す」「き」だ。


「だいすき?」


 アレが読み上げると、リュウホは満足げにナァンと鳴いた。


「すごい、なんてお利口なんでしょう!」


 老騎士も驚き褒める。

 アレはヨシヨシとリュウホの顎の下を撫でた。


「わたしもだいすき!!」


 アレの言葉に、リュウホはご機嫌に体をすり寄せる。アレはギュッとリュウホを抱きしめた。

 リュウホはベロリとアレを舐める。


「ザリザリしてる!」


 アレがキャッキャと喜ぶと、リュウホはごろんと腹を見せた。


(腹撫でてもいいぞ、お前だけなんだからな!)


 偉そうに言うリュウホのお腹にアレは顔を埋めた。そしてモシャモシャとお腹を撫でまわす。

 そうして子猫同士のようにコロコロと転がってひとしきり遊ぶと、電池が切れたように眠りに落ちた。


 老騎士はそんなふたりの様子を微笑ましく眺め、眠ったふたりの脇に腰を下ろした。

 すると、ひときわ大きなタラジュの葉が老騎士の頭の上に降ってきた。彼はその葉をとると、ヒラヒラとあおいでみる。


 そうして、幸せそうに眠るふたりの姿を、その葉に描いた。


 ずっとこの子たちが一緒にいられますように。

 老騎士は祈る。


 幸せにはほど遠い場所にいる姫がこれ以上傷つかないことを、老騎士は切に願った。




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