中学① 鬱屈

 最近のオレは、人生二度目の仮面を被っている。

 一度目は皆さんもご存じの通り、幼い寂しさや悲しさを隠しきる為の仮面。

 そして今は、不満や怒りといった暗い感情を態とらしく薄らと載せた笑みを湛える仮面。

 校内ツートップに君臨したは良いが、周辺に怖がられてばかりではさすがにメンタルが持たないので、現在は〈友好的なヤンチャくん〉というていで日常を過ごすことに徹している。お陰で離れてゆく友人たちの幾らかとは仲を保ちつつ、部活にもそこそこ参加出来ている。

 けんちゃんも同様に理解ある友人との交流を絶やすことなく過ごしているが、如何せん口数が少ないものだからオレよりは周囲の目が厳しいようだ。それでも何とかやっていけるのは、長子としての意志の強さが有るからではないかとオレは思っていたが、

「実際、凹むし、厳しいわ」

 定期テスト前で部活がない帰り道で立ち話をした時にそう聞いて猛烈に反省した。

 そうだよね、ごめんね、けんちゃん。


 さて、この仮面には意外な活用法があり、例えば、解決に消極的な先生へクラスで横行している必要以上のイジリを廊下まで響かせながら告発する時や、つまらない口喧嘩を揉み消したいときにコソッと一言添えて使うとなかなか効果的なのだ。

 この立場という付加価値のせいでもあるのだろうけど。


 好きでこうなった訳ではないが、こうなる事を受け入れたのは紛れもない事実で、それでもオレとしては恙なくやってきているので現状に不満があるわけではない。それがわかる奴らは、変わりゆくオレを見放すことなく関わってくれるし、理解力のある大人は、苦言を呈しながらも見守ってくれる。ありがたいことだ。

 その真意をわかろうとしない者たちは、一歩近付けば視線を外し俯いて蜘蛛の子を散らすようにその場を離れ、一言口を開けば掌を返すが如く易々と己の意見を違えてくる。

 生徒同士はまだいい、互いに距離を取れば済む話だから。

 問題は、大人たち。

 人の言葉に耳を傾けようともせず、ただひたすらに持論を展開し、遂には内申書を人質に取り、何とか説き伏せようと躍起になる。

 オレたちの言動が物語るとはいえ、もう少し言い分を聞いてくれやしませんかね?


 ちなみに、仕事で日々遅く帰宅する父さんも、その面倒臭い部類だ。

 クールな見た目とは違い人懐こい性格がリーダー気質そのもので、サトちゃんと同じ部活でも部長、副部長と共にまとめ役を担っていただけあって気遣いは万全なのだが、どちらかというと正義感溢れる陽の心で周りを照らし続けてきた感じが強い。

 そのせいか、オレが学校に反抗的な態度を取り始めると、言葉一つも零すことなく受け取ってくれていた昔とは明らかに扱いが変わった気がしてならないのだ。

「今日も、しでかしてきたのか」

「何のための武道だ、勘違いも甚だしい」

「ひとつくらい胸を張れるものを得たらどうだ」

 疲れのせいもあるのだろう。疲弊した身体でオレの不祥事を聞かされれば、辛辣な台詞も出るというもの。

 それでも。

 聞く耳を持たない先生よりは大事に思っていると判るように接して欲しい。

 幾つになってもそんな望みばかり持っているオレは、いい加減、親離れをしないといけないのかもね。


 反抗期真っ只中のオレの心は真っ暗闇だ。

 いつか抜け出せる時が来るのかなぁ。


◇ ◇ ◇


 仕事帰りにアパートへ向かう。

 インターフォンを鳴らすも静かな室内。

 覚悟を決めて鍵を開ける。

 備え付けのテーブルに残るブルーのスマホ。

 きみらしいね、徹底してる。

 たまの連絡さえも許されないということか。


「この手を離さないで」

「信じてる」

 言った本人が裏切っていたら意味がない。

 昨夜の稲妻は予想を覆すことなく、

 きみとの行き先を別けていった。


 残り香が籠る部屋に風を通せば、

 生温く頬を撫でるそれにふと気付く。

 そんな資格など無いくせに狡いよね。


 これからのきみの道を照らす光が

 どこかに有ることを切に願い、

 きみのスマホを胸に抱く。


 幸せにできなくてごめんなさい。

 生まれ変わってもせめて友人でいさせてね。

 ありがとう、サトル。

 僕の、永遠に愛しい初恋のひと。

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