中学② 失望
あのさぁ。
もう話すことはないんだけど。
まだやるの?
そろそろやめませんか?
面倒臭いから終わろうよ。
ねぇ、軽く絞めていい?
◆ ◆ ◆
大々的な例の揉め事以降、1年生の分際で校内を仕切っていたと思われる先輩方を伸した噂が瞬く間に広がると、更なる下克上を狙う輩が学年問わずやってきて、皆さんのご都合に合わせてお誘いを受けてはサラッと流しまくる日々が続いていた。
アッキーのこともあり、ギリギリのところで踏み止まろうと
そうなると、学校としては風紀を乱す者の更生を図ろうとしてくるわけで。
でも、大人しく言うことを聞くわけもなく。
最終手段が取られるわけである。
保護者、召喚!
頭を下げる親の姿を見るのは相当キツい。
いつも来るのは母さんだから、特に。
でも頭の固い先生には従いたくない。
どうにも出来ずにそっぽを向くしかない。
そんなオレに、帰り道の母さんは普段と変わらずいつも優しく声を掛ける。
その気遣いがやるせない心の行き場を失って更に口を閉ざすと判っていても。
召喚時は大概けんちゃん家も一緒なので、店に寄って先生や学校の愚痴を互いに言い合う母たち。この世で最強の存在だと改めて思う。そして今日も、食後のデザートを発注する。
「今日は実家の分も併せてだから、以上かな」
「いつもお買い上げありがとう、ちょっと待っててね」
店内に設えてある縁台に座り包装を待つ。
隣には、休憩用のほうじ茶をいただきながら同様に菓子折りを待つマダムが噂話に花を咲かせている。
「……久し振りに三駅隣の駅前診療所……質が落ちちゃって……」
聞き馴染みのある名前が耳に飛び込む。
あの駅前に診療所はひとつだけ。
サトちゃんが勤めてたところだ。
「中堅お兄ちゃんが居なくなっ……口が悪い割には上手…………」
これは、最早、間違いないよね?
「当時付き合ってた人の元カレ?……乗り込んで…」
「凄い剣幕で詰め寄っ……責任とって辞め……」
「……災難よね…………」
母さんは知らん顔で、出来上がりそうな包装の為に立ち上がる。
「ねえ……」
オレが口を開こうとしたその瞬間、周囲に見られぬよう口元にそっと指を立ててにこやかに微笑む。
「マサト……さぁ、帰ろう」
未だに〈まあちゃん〉癖が抜けない母さんがしっかりと名前で呼ぶときは有無を言わさぬ時。滅多にない事だけに、これは絶対。
言葉を飲み込むしかなかった。
どうして今になってそんな話が沸いてくるのか。診療所の評判が落ちてると言うことは、サトちゃんの技術が優れていた証拠だからそれはそれで誇らしい話だが。
オレより〈覚ラレず〉レベルが桁違いな母さんの表情からは何も見出だせない。
まさか本人に聞くわけにはいかない。
元カレが乗り込んだ、って。
彼女を奪ったって事?
真っ直ぐで心優しいサトちゃんが?
そんな事、出来る人じゃないよね。
人違いって信じていいんだよね。
突然、北海道に引っ越したのはそのせい?
ねえ、母さんは何か知ってたの?
そして、それを知る権利はオレにはないの?
恋愛の何たるかもしか知らない子どもだから?
それとも身内の恥になるから?
良くある話で済まされないぐらいの深刻さってこと?
沈黙の帰り道を、いつの間にかその背を追い越した母さんについて進んでいく。
頭の中は、ぐるぐる、ぐるぐる、駆け回る。
何か、もう、訳が判らない。
◆ ◆ ◆
帰宅しても終始モヤモヤしていると、あっという間に食事の時間が訪れる。
食卓に全員が集まれば、母さんから定時退社の父さんに召喚の旨が伝わる。
「何もかも中途半端でどうするんだ」
と、問われる。
「中
と、叱られる。
「いい加減、合気道は辞めたらどうだ」
と、提言される。
全てに無言で遣り過ごせば、
「聞いてるのか!」
と、声が荒くなる。
だって。
オレが何かを口にしたところで、どうせ昼間のように全て抹殺されるだけなんでしょ?
何か、本当に、全部、どうでもいいよ。
どうでもいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます