高校/夏 アオハルの道は、ほど、遠い

 入学式を済ませ、迷路のような校内に慣れてきたある日の昼休み、他学科と思われるツナギ姿の先輩が教室にやってきてオレの名を呼ぶ。

「えぇっと、今は居ないみたいです」

 本人が即答する違和感に周囲の視線が集まるが、オレは何とか誤魔化して遣り過ごしたい。

「あ、そう。じゃあ、お前でいいわ、来て」

 何故に?

 文字通り首根っこを捕まれて見知らぬ校舎へと連れられる。平和に過ごせば恐らく足を踏み入れることのないその場所。

(この流れはもしや、もやしってヤツかなぁ)


 予感は的中。

 名前が刺繍された作業着から身バレし、強面兄さんがわらわらとオレの周りを取り囲む。その中には中学で見知った顔が。これは大ピンチ!

 だが、中学時代の二の舞は御免被りたい。

 だって。

 恋したいのよ、ステキなお姉さんと!

 中学なんて比にならない圧が恐い、皆さん。この世界に巻き込まれたらどう考えても守りきれないでしょ?

 だから。

 スゴんで胸ぐら掴もうとしないでください、うっかりクセが出ちゃうから。

 オレのクセは(まあまあ)強いから!


「やっちゃったよ、完全に高校生活、詰んだよ」

 陽射しがめっきり強くなった日の放課後、駅ビルの本屋に併設されたコーヒーショップでアイスカフェオーレを飲みながら愚痴る。グダグタと。それはもう、みっともなく。

「わはは!又もや1年生でトップかよ、笑えるわー。色ボケした報いだな、頑張れよ、まーくん」

 アッキーの癖に強気な態度、許せん!

 でも。

「他校とイザコザだらけらしいから魔の手が伸びたら即刻逃げてよね、アッキー」

「当たり前だわ、安全に逃げるための技術だし」

 護身術としての本分を良く覚えてたね、偉い。

 中学の様に一線を画することも出来るのにこうしてツルむことを選んでくれたアッキーのことは、今度こそ無傷で守りたい。

「そういえば、けんちゃんが遅くないか?」

 真夏の期間限定商品を研究したいから(←単に好物なだけ)と集合をかけた本人が未だ現れないとは。アッキーならば未だしも。

「何だと!」

 珍しすぎて心配になり、グループトークに連絡を入れると、近距離からピココン♪と聞き慣れた着信音が鳴る。

「悪ぃ、待たせたな」

「「け、け、けんちゃん、その顔!」」

 埃っぽく薄汚れた詰襟を腕に掛け、一発殴られたような口元を苦々しく歪めながら不機嫌そうに席に着く。その手には、抜かりなく限定ドリンクを握りしめて。

「帰り際に待ち伏せされた。あぁ、面倒臭ぇ!」

 全世代に噂がのぼる我が中学。

 まさかの中1時代の大活躍は他校からも注目の的だったと聞いたのは暫く経った、近隣校とのを恙無く終えた後だった。


 オレは、またもや3年間を棒に振らねばならない。仄かな想いを漸く伝えるチャンスだったクソ真面目なけんちゃんも、間違いなく。

 理不尽極まりないっ!

 安息の日々はいつになることやら。

 何故やられっ放しにしておかなかったのかと?

 それは、やっぱり、ねえ。

 負けず嫌いだから、だよね。

 てへ。


 DKらしくサトちゃんに恋の相談をしたかった。その流れで、導きだした答えを伝えるつもりだったから。また作戦を練り直さねば。

 ちっくしょーーー!

 オレのアオハルを返せーーーっ!

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