LV15/20 いじ意地してらんない
朝。
会社に向かうお父さんとエレベーターに乗りマンションの前で登校班を待ちます。
「「おはようございます!」」
「いってらっしゃい、みんな気をつけてな」
「「はーーい」」
登校班は、先頭と最後尾が高学年の班長さんと副班長さんで、班長の後ろには1年生から学年順に並びます。ぼくたちの班は男女が交互に入り混じっているせいか、みんな静かに歩きます。そういえば、学年の括り関係なく班分けする縦割り学習で一緒になった他の登校班のお姉ちゃんは「4年男子二人がお喋りしてて何度言っても聞かないの、腹立つ」みたいなことを言ってたっけ。
班によって違うんだね。
学校の正門をくぐると校長先生と挨拶当番のお
のんびり屋のぼくはいつものようにひとりで昇降口をあがり靴箱からポテッと上靴を落とすと、幼稚園の年長さんから昨年度までクラスが一緒だったハヅキちゃんに声をかけられました。
「おはよう、まあちゃん。昨日聞いたんだけど、ユウくん引っ越すんだって?二人、仲良しだから寂しくなるね」
え、そうなの?
初めて聞いたよ、その話。
◆ ◆ ◆
「おかえり、まあちゃん」
「うん、ただいま」
マンション近くの曲がり角で待つサトちゃんに、努めて笑顔で挨拶をします。いつもと変わらないようにしないと、悟りの目であっという間にバレちゃうからね。
あのね、ぼくはちょっと人見知りで、仲良しさんがたくさん作れないんです。
全然話せないわけじゃないんです。声をかけてくれれば楽しくお喋りするし遊びにも喜んで参加するんです。ただ、自分からはちょっと勇気が出ないだけ。
そんなぼくにとって幼稚園の年少組からずっとクラスが一緒のユウくんは性格も似てて、互いの家にも気軽に遊びに行けるようなとても大事な存在なんです。
そんなユウくんが転校しちゃう。
しかも、その事を本人の口から聞いたのは今日の帰りの会。
手招きした先生の隣で俯きながら小さな声を絞り出してユウくんが語ります。
仕事の都合です、って。
夏休みに行きます、って。
新幹線や飛行機を使うくらい遠いんです、って。
もう少し詳しく聞いてみたかったけどクラスのみんなに囲まれてるのを見てたら、時間はまだあるし後でもいいかなって思って今日はそのまま帰ってきたんです。
ハヅキちゃんはどうしてぼくより先に知ってたんだろうね。
昇るエレベーターで階数を見上げるサトちゃんが何かを感じ取ったようにぼくの頭をポンポンしながら言います。
「まあちゃん、何かあったろ」
うーん、サトちゃんには敵わないなぁ。
えへへ、と何とか誤魔化したけど優しい瞳がずっと見つめてくれてて、結局降参するしかありませんでした。
ランドセルを学習机に片付けながら今日あったことを話します。
「お父さんの転勤だって。5年生のお姉ちゃんも居るから残る予定だったけど、やっぱりみんな一緒がいいって話になったみたい。ぼくも判ったのはそれくらいだから、明日もっと詳しく聞いてみるんだ」
てへへ、大丈夫かな。
ぼく、ちゃんと笑えてるかな。
そんなぼくをじーっと見つめるサトちゃんの両手が顔の辺りにすっと延びると、
「サトちゃん?いらい、ほっぺ、いらい!」
びよびよーんと伸び縮みされてまともに喋れない、っていうか真面目に痛い!
「あのなぁ、そうやって大丈夫なフリすんな、思ったことはまんま言え、何を我慢してんだ、我が弟子よ。こね太の時もそう。こっそり布団の中で泣いてただろ、全部バレてんだよ」
「……だって、みんな心配するじゃない」
「当たり前だ、ばか。辛さや悲しみはみんなで分け合ってその人の重さを軽くしてやるんだろうが。全部聞いてやるから漏れ無く話して、泣きたいならちゃんと泣け、俺みたいに。ガキの癖にへらへら笑って自分を隠すな!」
「うー………」
涙がぽろっと出てくる。
何で先に話してくれなかったのかなぁ。
ハヅキちゃんには言うくせに、ぼくにはわざわざ言う必要のないくらいの、それほどの仲良しさだったのかったのかなぁ。
なんかね、それが悔しくて寂しくて、学校を出るときに声をかけられたんだけど、思わずユウくんのこと無視して帰ってきちゃったの、ぼく。
聞きたいこと、いっぱいあるのに。
話したいこと、たくさんあるのに。
どうしよう、サトちゃん。
ユウくんに嫌われちゃったかなぁ。
明日、いつも通り喋ってくれるかなぁ。
あれれ、何だろうね。
涙があふれちゃって前が見えないよぉ。
「ユウくんにも言えない事情があったのかも知れない。幼稚園からずっと仲良しなんだから顔を合わせれば話せるって。そんな簡単に壊れるモノじゃねぇだろ?
でも、まあちゃんは無視しちまったから、自分から話しかける為には栄養の他に勇気も蓄えなきゃだな。先ずは好きなだけ泣け、落ち着くまで待ってやる。そうしたら張り切って作るぞ、弟子よ」
「ふ、ふ、ふえぇぇぇん!」
それからぼくは、サトちゃんにがっしりしがみついて、涙、鼻水満タンでわんわん泣きました。よれよれシャツがもっと大変な事になっちゃったけど、その間何も言わず、ただただ優しく頭を撫でてくれたり背中を擦ってくれたりして、ぼくが落ち着くのをずっと待ってくれました。
「ぐすん、ありがとう、サトちゃん」
「もう我慢はするな、いつでも口に出せよ。さて今日は何を作るかな、旬じゃねぇが勇気100倍きのこ汁でも……ぐぇっ!」
「もう、そういうところだよっ!」
ぼくの中で株が爆上がりしたのに、本当に意地悪ばっかり!
残念なサトちゃん、だよ!
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