LV14/20 ありがおめでとう!
「師匠、今日はゆっくりしててください。ぼくがひとりで作ります!」
ランドセルを片付けるや否や、目の前でびしっと敬礼しながら鼻息荒く意気込むぼくを、ビックリ仰天まんまる目玉で見返すサトちゃん。この顔はちょっとレア。
さて、我ながら掴みはいい感じ!
「急にどうした、我が弟子よ。まさか、師匠と研究するのが嫌に……くっ!」
お母さんとそっくりの吊り気味眉毛をハの字にして涙ぐむのを、相変わらずお豆腐メンタルで可愛いいなぁと思いながら続けます。
「違います。師匠の手を借りずにどこまで出来るのかを試してみたいんです。是非とも披露させてください!」
何とか納得できるような理由を添えます。
「前向きだな、弟子よ!では、お言葉に甘えてのんびりするとしよう。手が必要ならいつでも言えよ」
ぼくの頭をぽんぽんしながら、ぱぁっと明るさを取り戻しソファで寛ぐのを見届けて、ぼくはとある作戦を実行します。
いししのし。
◆ ◆ ◆
昨晩、お母さんと打ち合わせをした通り、冷蔵庫から冷凍ほうれん草、豆腐、ジャガイモ、玉ねぎ、牛乳を取り出します。
先ずは中くらいの鍋で味噌汁を作ります。
今日は4人分+α =ちょっと少な目の5人分。
ジャガイモは、すでにお母さんが凹みをほじくってくれたからピーラーを当ててしゃっしゃっと皮を剥き、ダンと半分にした後、ダダンと6個くらいの一口大に切ります。
玉ねぎは、半分に切ってラップに包んだ二つをゆっくり薄切りに。(←上手になったよ)
鍋に切った材料を入れたら粒だしで煮始めます。ぷくぷくしたら火を弱めて、野菜からアクっていう泡の塊が出るのでお湯が無くならないように丁寧に掬います。
ジャガイモが、菜箸を刺せる柔らかさになったら味噌を入れて、まずはひとつ出来上がり。
続けて小鍋に一人分の味噌汁の汁だけを取り分けて、パックの中でぐちゃぐちゃに崩した(←お行儀悪くてごめんなさい!)豆腐と冷凍ほうれん草を入れて温めます。
ご飯をレンチンしたらお鍋に加えて
具が被るくらいに牛乳を注ぎ再びぷくぷくさせます。沸騰が過ぎると突然もわもわ~っと
あとは火力を弱めて、ぐるぐるぐるぐる。ひたすら、ぐるぐるぐる。おじやみたいにトロトロしてきたら最後にチーズを混ぜて溶かして→→→フィニッシュ!
「おぉ!スゲェ、美味そうな匂いがするな」
鼻をくんくんさせながら上機嫌でサトちゃんがこちらの様子を窺うと同時にガチャッと鍵が開いて、お父さんとお母さんが帰ってきました。それぞれの手にはこっそりリクエストの品々を携えて。
「あれ、今日はふたりして早くねぇか?」
そりゃそうですよ、師匠。
「その箱ってケーキか?何だよ、俺に忖度したって揉み返し無しのマッサージぐらいしか出来ねぇぞ?」
ぎくっ、なかなか鋭いですな、師匠。
「ふたりともお帰りなさい、タイミング、バッチリだよ!」
ウフフ、ムフフとぼくたち家族は顔を見合わせ、あれやこれやと指示や相談をしながらダイニングテーブルをセッティングします。
「???」
忙しく動き回るそんなぼくたちをソファの向こう側から頬杖をついてじーっと見つめるサトちゃん。
「お待たせしました、師匠、完成です!」
見慣れない細長いグラスやランチョンマットに豪奢な取り皿、小粋なおかずがずらりと並び、一輪挿しには感謝の意を表す真っ赤なポピー。
何の事やら事態が飲み込めないサトちゃんを呼び寄せて席に着かせると、目配せしたみんなで、せーので声を発します。
「「「ハッピーバースディ!」」」
一拍置いて、ぱーーん、とお父さんが引いたクラッカーに「うおっ!」とビビって紙テープを頭から垂らしたままで暫し呆然としたかと思うと、
「な、何だよこれーー、やめてくれよ、泣くぞ、俺ーーっ!」
急に立ち上がって大騒ぎのサトちゃん。
あはは、大成功みたい。
では、改めて。
「仕事が休みなのにいつもぼくにつきあってくれて、ありがとうね。今日はサトちゃんの好きなジャガイモ玉ねぎの味噌汁とお母さん直伝の特製リゾット(仮)でお祝いです。どうぞ召し上がれ」
「う……うわーーーん!」
わわっ、ぼくに駆け寄ってきた!
ぎゅっとハグするのは良いんだけど、サトちゃん、苦しいし、ひげが痛いよ!
「ありがとう、まあちゃん~~!!」
「感激屋の泣き虫さん、誕生日おめでとう。これからもよろしくね」
〈本日のメニュー〉
じゃがいもと玉ねぎの味噌汁
ほうれん草のチーズリゾット(仮)
塩から揚げ
コールスローサラダ
かぼちゃグラタン
チョコスポンジとイチゴのバースデーケーキ
◆ ◆ ◆
「ちょっと待て、ケーキ頼んだの誰だよ!何だ、この〈サトル せいしんage14〉って!」
「「間違ってない、だろ?」でしょ?」
「そういうとこなんだよ、アンタら!」
あはは、仲良し姉弟・仲間だね!
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