LV4→5/20 いてつくやつら
市の防災スピーカーから12時の音楽が流れる30分前、腹の虫がぎゅるんと騒ぎ始めそうな予感を抱きながら教室を出ます。
「うわぐつは必ず持ち帰りましょう」
先生の声がざわざわする昇降口に響きます。
今日は1年生最後の登校日。
即ち、ぼくの一年間の学力がまるっとお見通しになって、これだ!と決定されてしまう通信簿をもらう日です。
「さぁ、一年生の評価は如何ほどかな?」
昨夜、お父さんとお母さんに期待されたからかなぁ、出席番号順に名前を呼ばれる5番も前から胸がどきどきして、いざぼくの番になったら、
「ふぁいっ!」
なんてヘンテコな返事しちゃったよ。
あぁ、恥ずかしい!
中身はどうだったかって?
みんなを真似して小さく開いて片目でこっそり見たけど、うーんうん、って感じです。じいじとばあばから成績に準じて貰えるという特別ボーナス(5=100円、4=50円で換算)にどれだけ反映されるのかは、かなり疑問で微妙な内容です。
ありゃりゃ……ガンバります。
それにしても、修了式なのに手提げバッグがてんこ盛りなのは何故なのかなぁ。鍵盤ハーモニカも絵の具セットもちゃんと持ち帰ってるはずなのに、不思議だなぁ。
「4月は教室もくつ箱もかわりますよ、置きわすれに気を付けて」
はーい、全部確認しました。
タレ目で微笑む優しい香田先生ともしばしのお別れです。学年が上がっても担任になってくれると嬉しいなぁ。
「先生さようなら、みなさんさようなら」
ぼくの家は、小さな商店街の裏手に建つ家族向けマンションにあります。
子供は中学生以上のお兄ちゃんお姉ちゃんが殆どで小学生はぼく一人です。サトちゃんが他のお家の人たちと共に学校から5分くらいのところで待ち構えるのは、そこからぼくが下校班を抜けることになり、残りの道のりを一人で歩くには危険だからです。閑静な住宅地と言った方が正しいくらい
ちなみに、学校から家まではぼくが歩いて15分くらい、大人だと10分掛からないかな?
「ねえ、お荷物、おもくない?」
「いい大人だぞ、これくらい大した事ねぇよ」
色々詰まった道具箱が手提げバッグの中でぱんぱんに陣取ってます。
サトちゃんが大きな荷物を持ってくれたので、下校班から別れてからのぼくは気楽に上靴袋だけをぶらぶらさせながら歩くのだけど、やっぱり気になって仕方がありません。
「片方もつよ?」
「そんなに言うなら頼むわ、ほらよ」
持ち手を半分こするけど、サトちゃんとの身長差で高さがびっこたっこ!
「うわあぁぁん、全然意味がない!」
「ははは!」
早く大きくなりたいなぁ。
「「ただいまー、おかえりー」」
いつものように二人でどちらも叫んで家に入ると、春休みのしおりとその他のお知らせ、そして通信簿をお便りボックスにまとめて置きます。お父さんとお母さんの反応は、今は敢えて考えないようにしてね。
普段はその流れで自分の机に荷物の片付けをして教科書の整理をするのだけど、今日はランドセルも手提げバッグも部屋にぼいーーん!
上靴も洗面所にぽいっと全部転がしっぱなし!
だって修了式だもん、特別でいいじゃない!
宿題も明日からにして、早速サトちゃんと遊びまくるぞ!
「「おーーっっ!」」
◆ ◆ ◆
時はちょっと遡りますが、即席味噌汁を作り始めてから数ヵ月経った頃、洗って千切って生で食べられる野菜に尽きてきたので、食べやすい大きさですぐに使えるようにお母さんが必要に応じて刻んだり茹でたりした野菜を冷凍するようになりました。
ありがとう、お母さん!
ぼくたちはそれらを使ってお湯を注ぎ、いつものように味噌汁を作っているのですが、ぼく、知らなかったの。切り方っていっぱい有るんだね。
人参とか大根を根菜っていうんだけど、そういう細長いものを短くするように薄めに丸いまま切るのが、〈輪切り〉。
輪切りの丸を半分こするように切るのが、〈半月切り〉。
半月切りをまた半分こしたら臭ーい
ピーマンとか薄く広げて切ったものを縦に細長く切るのが、〈ほそ切り〉。
もっと細く切ったら豚かつキャベツの、〈せん切り〉。
七夕の願い事みたいに逆に平たくすると、〈短冊切り〉。
あとは、あとは、何だっけお母さん?
(↑この説明でわかるかな?)
こうして下拵えを施して保存してくれたお陰で具に幅が出来たんだけど。
「「冷凍物に湯を注ぐだけは汁が
即席味噌汁の枠から飛び出して、わざわざレンジで温める手間が面倒臭いぼくたち。伏し目がちに腕組みをした師匠から、とある提案が飛び出ます。
「そろそろレベルアップに伴う新規アイテム所持の時期かもな」
「おぉ、もしやあれですか、師匠!」
満を持して、どどんと出てきたのは、もちろん鍋!
この日の為に、ぼくがお母さんに聞いたやり方はこんな感じ。
①食べたい野菜を、ザザッ。
②水を人数分の線(※)まで、トクトク。
③粒つぶだしを、シャラン。
④IHに乗せて、ピピッ。
⑤ぐつぐつしたら火を弱めて、硬い野菜が柔らかくなったら味噌を、ドボン。
これで出来上がる、はず!
(※我が家の鍋には水量の目盛りがあるのでそれを利用しています。水は一人当たり150mlくらいを目安にすればいいかも知れません、でも適当だよ!)
◆ ◆ ◆
今日の具は大根とお揚げさんにしました。
これはぼくが一番好きな組み合わせ。
明朝の分までたくさん作って味噌が染み染みの大根に絡めるように卵を落とすと、これがまたとーーっても美味しいんです。希望は黄身がとろとろ半熟だけど、しっかり火が入ってもゆで卵みたいにパサパサせずにしっとりしているから、それもまた舌触りが良くて捨てがたい硬さなのです。
なーんて、明日のことを想像してウキウキしながら鍋を覗くと、短冊切りの大根とお揚げが沸騰した湯の中で激しく暴れだし、同時にプカプカ油の膜が現れて、汁の色が徐々に変わっていきます。
「白っぽくなってるけど大丈夫かなぁ?」
「お揚げから出た何かが混ぜられちゃってるんだろ、まあ、大丈夫じゃねぇかな」
味噌を入れるタイミングを待つ間に、師匠の好みも聞いてみます。
「ねぇ、サトちゃんは何の具が好き?」
「そうだな、俺はジャガイモと玉ねぎだな」
何と初耳です!
お芋って味噌汁向きなのでしょうか。
「次の日に冷蔵庫から出すと、ほろほろした周りに味噌が染みて美味いんだよ」
なる程、ぼくの大根みたいな存在なんですね。
共に染み染み好きとは、血が繋がっている証拠です。
「まあちゃんは皮剥き出来るか?」
「サトちゃんは?」
「出来るわけねぇじゃん」
「じゃあ、聞かないでよズルいなぁ。でも、ぼくは幼稚園でやったことあるよ」
「マジかよ、出来た弟子だな、師匠の未来は安泰だ」
てへへ、〈ピーラー遣い〉だけれど、いつでもご用命ください。
「火を通せば色んな野菜が入れられるな、好きなものも、当然苦手なものも。アレルギーがないから遠慮なく使うぞ」
「えっ!?そこはひとつお手柔らかに!」
「甘え禁止だ!」
もうー、意地悪師匠!
大根は鍋の中でぷわぷわ踊り出して透明になってきたら火が通った証拠だって。
是非、卵も入れて食べてみてください!
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