LV3/20 ひっすアイテム:残1

 最近のぼくたちのお味噌汁は攻めています。

 魔法陣あみだくじを決行したお陰で、残る野菜も試してみたくなったのです。


 トマトを皮切りに、きゅうりもスプラウトもレタスも入れてみました。

 きゅうりは、サトちゃんが全体重をかけてボリッと一旦潰してからバリバリと手で割いたせいなのか、水っぽくて独特の青臭い匂いが湯気に混ざって前面に出ちゃう。

 スプラウトは、ぶちっと種から切り離せば短いからお椀の大きさに合うし、その細さからもお湯を注げばあっという間にしなっとなって食べやすい。

 豆苗は、スプラウトより太めなのでちょっぴり葉っぱ臭くてたまに苦いけど、しばらく汁の中に浸っていれば余熱で火が入って気にならないかも。

 レタスは中華スープにも使うから無理なく使えるけど、新鮮味が落ちた葉は色がすぐに茶っぽくなるという見た目の残念さがでちゃうからご注意を。

 ちなみに、素麺に入れるシソやミョウガは、ぼくには大人すぎるから無理。

 キャベツは、手で千切ちぎるだけじゃ大きくて芯がちょっと硬いかな。春物ならば柔らかいよってお母さんが言ってたっけ。

 こうして見ると、生で食べられる野菜ってそろそろ限界なのかも知れないです。


 先週はサトちゃんが友達から聞いた納豆汁を作ったけど、ぼくはダメでした。

 なめこみたいなぬるぬるが苦手だからかも。味噌汁が微妙にとろとろするのが何だか許せないんです。あんかけラーメンは全然気にならないのに、不思議だね。

 納豆はやっぱりそのまま食べるのが一番です。

「まあちゃん、白米の上に乗せねぇの?」

 何を言ってるの、サトちゃん?

 納豆はおかずだから、乗せません。

 パックから直接食べるのです。

 ぐるぐる、まぜまぜ、ずるずる、のびーーん。


◆ ◆ ◆


 今日は初心に戻って久し振りの豆腐とわかめ。

 豆腐は、とっても小さいサイズに小分けしてあるパックが冷蔵室に有ったので、それぞれのお椀に2個ずつポンポン。これは、後からお椀の中で数多く崩す必要がない大きさだから汁の中がぼろぼろにならずに済んで見た目が綺麗だし、残りも別のタッパーに移したり後片付けもしなくていいから楽チンなんです。

「でもなぁ、そもそもデカいまんまで良くねぇか?」

 サトちゃんのその言葉に目から鱗が落ちます。豆腐は小さな四角に切り揃えて入れるものだとずっと思い込んでいたからです。お客様がいるわけでもないし、自由でいいんだ。

「好きに楽しみながら且つ美味しく食べるのが一番だろ?」

 まあ、適当とも言うけれど、師匠の寛大さが表れた瞬間でした。

 それでも、最低限のマナーは守りますよ。


 さて、お腹が空いて電池切れになる前に、冷蔵庫から取り出した乾燥ワカメをざらっと入れたら、花柄タッパーから粒だしをスプーンの先にちょっと乗せてしゃらしゃら投入。この粒だしは多めに入っても旨味が濃ゆくなるだけだから、躊躇ちゅうちょせず丁度いい量を見つけてくださいね。

 そして、入れ替えるように味噌カップを手にします。

 あれ、ちょっと軽いかな?

 蓋をぱかんと開けて乾燥防止のフィルムを退かすと。

「し、し、師匠っ!」

 お湯の準備をしようと、やかんをIHにかけたサトちゃんを呼びます。

「どうした、まあちゃん、何事だ!?」

「お味噌が、お味噌がっ!」

 た、た、足りないよ~!


「寧ろ、これだけ残す心理が謎だな」

 感心しながらぼくが差し出したゴムベラを何とか使いこなし、僅かな味噌をかき集めるけど、これはどうみても一人分。

「まあちゃん、使っとけ」

「サトちゃんは?」

「今日はお茶にする」

「じゃあ、ぼくもお茶!」

 気にすんなって言うけど、一緒じゃなきゃ嫌なんです。

「これだけ残してもなんだから、ならば二人で使いきれるものでも作るか」

「そんなの有るの?」

「簡単だけど美味いやつ、手伝ってくれ」

 はい、師匠!


◆ ◆ ◆


 味噌汁作りの時は別々の動きが多いので今まで気付かなかったけど、今回のように同じ動作を同時に行うにはキッチンの作業台はちょっと狭いので、ダイニングテーブルで向かい合いながら師匠から教えを乞うことにしました。

「まあちゃん、ラップは出せるか?」

「やってみます!」

 食器棚から取り出したパン祭りの平たいお皿いっぱいにびびーっと引き出して、山型カッターをくるっと返せば無事成功。

「じゃあ、俺の分も頼む」

 びびーっ、くるっ。

 ラップ屋さん、ぼくでも切りやすいように作ってくれてありがとう。

「出来ました、師匠!」

「我が弟子よ、なかなかやるな、鼻が高いぞ。さて、そうしたら味噌を薄く広げる。破かないよう細心の注意を払って……や、やべ、穴が!」

「師匠おぉぉ」

「おほん、たまにはこういう時もある」

 そっぽを向いて口笛でも吹きそうなわざとらしい誤魔化し方が可笑し過ぎます。

「ほれ、出来たら味噌の上にご飯を乗せろ。そうしたらラップの端を合わせて、はみ出さないように広げたご飯を集めてきゅっとにぎる。熱いから火傷しないように何かで包んどけ、ほらよ」

 びりっと渡されたキッチンペーパー越しにご飯を握ります。

 あちあち、にぎにぎ、あち、にぎにぎ。

「味噌にぎりの完成だ」


 サトちゃんやお母さんが子供の頃に、炊飯器に僅かに残る白米をばあばが握って出してくれたというおにぎり。

 経験不足のぼくたちは上手に三角にはならなかったけど、ラップを剝がしたほかほかの塊から立つ味噌の香りがお腹の虫を刺激します。

 ぐーー、ぎゅるるん。

「まあちゃん、早く席に着け、飯にするぞ」

「おーー!」

 ぱかっと出しちゃった豆腐は、わかめと粒だしがかかったままだけどお椀ごと並べて冷奴に。

 おかずが一品増えました。


「「では、お先に、いただきます!」」

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