LV11/20 ゆるゆるでうっかり

 ちゅん、ちゅちゅ、ちゅん。

 すずめがベランダに留まってるのかな、ふっと眠りから覚めた意識のなかに幾つもの鳥の歌声が聞こえます。もぞもぞと横を向いてぼーっと薄目を開けてみるとカーテンの隙間からお陽さまの光が一筋、遮光で薄暗い部屋に延びてます。まるで天使の梯子みたい。

 ふわあぁぁぁ、と寝転がったままで伸びとあくびをひとつ。でも起き上がりません。

 今日はのんびり日曜日だから。

 サトちゃんから入学祝いに貰った目覚まし時計の仕事もこの日ばかりはお休み。

 お父さんもお母さんも日頃の疲れを眠りで癒すように揃って朝寝坊。

 布団の中にはみんなの幸せが詰まってます。


 暫くするとコンコンコンと優しいノックがして、お母さんが顔を出しました。

「おはよう、まあちゃん。おそ朝ごはんは、パンとご飯のどちらにする?」

 んー、どっちがいいかなぁ。

「ゆるゆる白ごはんは、出来る?」

「お豆腐はあるから大丈夫だよ」

「ぼくも手伝うから作り方を教えて」

「オッケー」

 ではでは、シャッとカーテンを開けて早速身支度を整えましょう。


◆ ◆ ◆


 皆さんに浮かんであろう疑問『ゆるゆる白ごはん』とは、むかし、お母さんが情報バラエティー番組で見た料理のこと。

 小さい頃から作ってくれるからこういう言い方だけど、もう小学生のぼくにはちょっと照れ臭い名前。もっとおしゃれに言うと。

 何だっけ?

「チーズリゾット(仮)、ね」

 なんちゃって料理だから(仮)だってさ。

 作り方は以下の通り。


 ①鍋に豆腐の味噌汁を用意します。

 ②ご飯と牛乳を入れます。

 ③豆腐を潰してご飯をほぐしたら火にかけます。

 ④温めているうちにしてしてきたらチーズを入れます。

 ⑤火を止めて余熱でチーズを溶かしてぐるぐる混ぜたら、出来上がり。


 トロッとチーズと味噌の塩っぱさに豆腐のまったり具合が絶妙なのです。

 お母さんが作りながら、料理のポイントを教えてくれました。

「①お味噌汁は豆腐の他にも野菜を入れて栄養たっぷりにするのも良いわね。

 ②水分は多いと猫まんまになっちゃうからご飯が被るくらい。目指すのはよ。

 ③強火に掛けていると突然噴き出して焦げやすくなるから弱火でゆっくりね。

 ④とろみが出たら手早く混ぜること。チーズはスライス一枚で十分かな」

 ぼくはチーズ大好きだから一枚だけでなくもしたいくらいです。


「んー、いい匂い。今日は大賢者様のご指導だな?」

「あぁ、お父さん言っちゃダメ!」

「大賢者様?」

「もー、二人だけの秘密の呼び名だって言ったのに!」

「そうだっけ、フフン?」

 一人だけとぼけるのはズルいぞ、お父さん!

 シューティング系が得意なサトちゃんとはまた違い、ぼくたちはパーティーを組んでモンスターを倒しまくる仲なので、それになぞらえて現実世界に異世界の名称をつけてコッソリ楽しんでいるのです。

 それをあろうことかお母さんにバラしてしまうとは、お父さん、許すまじ!

「あのね、お母さんは物知りだし魔法みたいに何でも出来るから大賢者様なの。で、お父さんはぼくたちを守る聖騎士団長」

「二人ともゲームのやり過ぎ、でも単純に王さまとお妃さまじゃないのね?」

 そうでもあり、実力も存分にある。

 そういう尊敬の存在なんです。

「「まあちゃんっっ!」」

 ぎゅうっっと二人に抱き締められてしまいました。

 く、く、苦しいよぅ。


 ◆ ◆ ◆


 席につき、両手を合わせて三人揃って遅い朝ごはんです。

「「「いただきます!」」」

 今日は、豆腐の他にミックスベジタブルと冷凍小松菜も一緒に入っていて具沢山。 

 ふうふう、あちあち、ぱく、はふはふ。

 ご飯は少なめだから腹持ちはそんなに良くないけれど、たっぷりコーンの甘味と野菜の多さでいい感じにお腹が膨れそうです。

 遅く起きた朝にはちょうどいいかもね。


「「まあちゃん、いつも美味しいお味噌汁を有り難う」」

 口に入れた瞬間にお父さんとお母さんから感謝の言葉。二人に言われるとちょっとこそばゆいなぁ。

「えへへ、どういたしまして、味がいつも違うけれど大丈夫?」

「全然気にならないよ、でも健康上、味見をしてくれると助かるかな」

 それは、もしかして。

「お父さんの塩分が気になるから?」

「その通り!」

 ウフフ、とお母さんが微笑みます。

「それはお互い様だろ、ユリさ……」

「ん?何かな、シュウジくん?」

 お母さんが、それ以上の発言は禁止といわんばかりの視線を送りながらにっこりと笑います。理由はお父さんよりお母さんの方が年齢トシが上だから。

 お父さんは察するように無言で笑い返してリゾット(仮)を口に運びます。

 こう見えても、いつまでも名前で呼びあうとっても仲良し夫婦です。


「ところで師匠の腕前はどうなんだ?」

「ど素人だから怪我してなければいいのだけれど」

「大人だからぼくより出来る事ばかりだけど、包丁はまだ危ないところがあるかな?それと栄養について教えてくれる人がいるみたいで、それを嬉しそうに話すの」

 へえぇぇぇ。

 ほおぉぉぉ。

 感心しながら顔を見合わせるお父さんとお母さん。

「大切な王子を見守る大賢者としては、その師匠の動向が気になるわね」

「聖騎士団長以前に国を統べる王として、国防に関わる事態かも知れんと危惧するぞ」


「「王子、その話を是非詳しく!」」


 あ、あれ?

 ぼく、とてもマズイ事を喋っちゃった?

 ごめんね、サトちゃん!




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