中学③ 光明
いよいよ始まる高校受験。
前述通りの生活のお陰で勉学の方は一歩どころか五十歩以上出遅れている。2年生から通わされた塾でも未だに最底辺。だが、隣に座るけんちゃんに先を越されてやっと自覚してきた。
超ヤバイ!
マジでヤバイ!
アッキーはしれっと上位クラスなんかに入っていて、それでもヒイヒイ言っている。
おーい、オレ、100点を三つも取った小学校時代の頭の良さはどこ行った?
こんな調子なのに肝心の定期テスト前に風邪を引く。二日休んだその分も当然範囲内で、自力で教科書を読むだけじゃさすがに知力が足りなくて。今回は捨てるしかないとベッドで嘆いていたら、ピコン♪とアッキーからのお見舞い連絡がきた。
⇒おぉい、無事?
「はいはい、熱も引いたし元気になったお、と」
⇒今からけんちゃんと寄るけど欲しいもの有る?
「えぇと、甘くない苦くないのど飴、よろ」
⇒そんなの有るかよwコンビニ経由で行く
「きおつけて、ほい」
んー、寝癖も部屋着もこのままでいいか。
忘れちゃいけない、マスクだね。
「ほれ、見舞い。元気そうで良かったわ」
スポーツドリンクまで有る、けんちゃん、あざ。
「ノート貸したる、明日必ず返せよ」
アッキー、気が利くじゃない。
「もう帰るの?」
「「移りたくないんで!」」
そうですよね、テスト近いもんね。
「ありがとうね」
残念ながら二人とは玄関先で別れた。
昔から共働きのため慣れているはずだが、調子が悪いときに一人というのは成長しても寂しいもので、そういう時の優しさはとても身に沁みてくる。ちょっとくらい話したかったな。
のど飴は二つの条件が揃わなかったのか、甘くないか苦くないかのどちらかの二種類だった。封を開けて口に放る。
「うわ、これ酸っぱい!」
袋にはノートだけじゃなくアッキーの教科書も入っていて、板書内容とリンクするように判りやすく書き込みがしてあった。
変な所でマメなんだよね、アッキーって。
「あざーす」
二人に感謝。
テストは、意外にも頑張ったね、という出来だった。オレは天才?
そして最近、気が付いたことがある。
学校でアッキーに教科書を借りに行くと、風邪をひいた時の様に書き込みときっちり纏めたルーズリーフが添えてあるのだ。必ず。しかも必須ポイントも解りやすく丁寧に解説してるものだから、これ幸いと授業や塾(父さんもね)と併せてこっそり利用することにし、事ある毎に隣の教室に踏み入っては机の中から笑顔で教科書チャンとおデートがてら我が家にご一泊いただく日々を続けていたら……。
あら不思議!
塾テストで何と最底辺から見事脱出を果たしたのだ。
うっそーーん、やっぱり天才だった?
これ、種を明かすと、ある日アッキーが
「試したいことがある」
と、けんちゃんに教科書を突き付けて学力向上が見込めるかの実験を始め、言うとおりにしたらオレを追い越して成績が上がったという事前検証の賜物だったようだ。
そんな時間があるなら直接教えてよ。
「説明する暇はねぇとよ」
何じゃそりゃ。
「成績だってけんちゃんの飲み込みがいいから上がったんでしょ?」
と言えばフッと格好良く笑い、
「それもあるが、俺が試して結果が出れば、まーくんなら余裕だろうから、だとよ」
と、返ってきた。
この二人は、オレのツボを完全に心得ている。
「何だかんだでアッキーに助けられてばかりで癪だなぁ」
こうして二人で笑っているうちにガチで人様に出しても恥ずかしくない成績になったのは、アッキーのお陰?
いやいや、これはオレの実力発揮ってことでいいよね?
◆ ◆ ◆
ところで肝心の志望校は?
「行けるところで最上位」
選んだのは県立工業高校情報技術科。情報通信技術(ICT)やプログラミング等をソフト・ハード両面で学ぶらしい。
ゲーム好きだしIT学べるからいいかなと。
まだちょっと足りないから、より一層の努力を重ねなければ。
と、改めて固い決意をみなぎらせてるうちに迎える県立高校受験。
片田舎は私立より公立重視だから、ここで受かっとかないと大変なのだ!
朝は早めに起きだして時間通りに頭の回転をフル稼働できるよう準備をし、持ち物を確認、到着時間に余裕を持って家を出て。
いざ、出陣!
そして(話をすっ飛ばしたい作者の思惑に乗っかり)とうとう合否発表の前日となり卒業式が粛々と執り行われる。
式の終盤で堪えきれずに号泣しまくった担任は、1年生からずっと持ち上がりで指導してくれた話の分かる先生。部活でお世話になった顧問とも挨拶を交わす。こういう先生がいてくれるから、はみ出した心に絶望せずに続けられたのだ。ただひたすら感謝だ。
卒業式の看板前で写真を撮りまくる同学年。それは部活仲間であり、友人同士であり、カレカノ同士であったりする。
恋心は抱きつつも立場的なものもありハッキリさせずにきたオレたち三人組(?)も、自分のスマホで撮影禁止という謎ルールに基づき両親の手を借りてこそっと記念に収める。
「♪仰げば尊し~和菓子の恩~、ってずっと思ってた」
アッキーが卒業証書を振り回して高らかに歌う。
「オレもその度にけんちゃんの顔が浮かんでた」
ここにきてごめんね、と白状する。
「小学校でも散々言われたわ」
ぷぷっ、と吹き出しながら中学から30分かけて帰路を歩く。
みな同じ制服で肩を並べるのはこれが最後、まだ実感がない。
明日の合否で進学先が決まる。
アッキーは普通科。
けんちゃんは商業科。
オレは工業科。
当然バラバラにはなるが、この三校は駅近くに有るので全員公立に受かれば一緒に登校が可能だ。
これはオレの希望。
いつまでも可能な限りツルんでたい。
女々しい?
いいじゃない。
離れがたい大切な仲間が居るって事だもん。
何とでも言ってください。
◆ ◆ ◆
< チーム MAK
――――――――――――――――――
ア⇒受かった!
け⇒受かった!
「オレも受かったよ、と」
送信。
今日の味噌汁は何にしようかな。
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