小学⑤ よ、いの祭りのあと

 ふんふんふーん、ふふんふーん。

 思わず鼻歌が出る今日この頃。

 明日は近くの商店街でお祭りがあり一方通行の車道が歩行者天国になるのだ。

 元々はちょっと離れたところに在る由緒正しい神社の豊穣祭なのだけど、境内よりもどうしても商店街の方が賑わいがちになる。広いから人が集まりやすいし、色んなイベントも目白押しだから。

 様々な屋台に警察や消防車両の展示、小さなステージでダンス披露やカラオケ大会、近隣の幼稚園・保育園児が描いたテーマに沿った絵画の掲示などは心の癒しそのもの。でも、たまに絡んでくるチョイ悪なお兄さんたちの小さな集まりは、ちょっと外れた裏の方で行われてるから近寄らないようご注意を。

 ここは小学校のお膝元だから、当然のようにみんな遊びに行くのを楽しみにしている。 

 ともなればワクワクしないで居られますかって話でしょ?

 この日は合気道教室と被るのでアッキーとけんちゃんの3人で行動することになったんだけど、道場も遠くないんだからこんな日くらいは別日に振替えてくれてもいいのにね、残念。


 商店街の西端にあるケーキ屋の店頭で見つけた、かな・むーが幼稚園で描いた可愛い絵をスマホに収めて人が行き交う車道を歩く。罪悪感の欠片も必要なく大手を振ってど真ん中に出られるのが歩行者天国の良いところ。

 歩道には美味しい匂いに混じって射的やくじ引きなどが並ぶけれど、町内会本部と書かれたテント下には有り難いお値段のヨーヨー釣りや輪投げなどの体験系が集まっていて、子供たちで大賑わいだ。

 その一画で黙々と針を刺す様子に気付き、溶けかけたかき氷をジュルジュル飲みながらアッキーが呟く。

「毎回不思議なんだけど〈型抜き〉って何が面白いんだろうな?」

 その気持ちわかる、オレにも謎だから。

「この小さな造形物を如何に美しく彫り出すか、というその課程だろ?」

 わわっ!

 けんちゃん、いつの間にか受付のおじちゃんからプレートを受け取って始めてるし!


 幼い頃から和菓子の製作風景を見てきたけんちゃんには、こうした細やかな作業は楽しくて堪らないらしい。

「絶対A型だよね」

 決めつけるように聞くと、

「アタリ」

と、返る。やっぱりね。

 丁度いてたので、オレたちはけんちゃんの両脇に座ってあれやこれやとアドバイス。

「そっちから攻めるのは厳しくない?」

「いやいや、端はもっとガッツリ行けよな」

 アドバイスだよ、助言だよ、命令じゃないよ、間違いないよね?

「あのな、口を出すなら二人もやれよ」

 おおぅ、言われてしまったけど、ごもっとも。

 ならばやってみようじゃないの!

 と息巻くも、実は生まれて初めての〈型抜き〉。これが意外と難しい。ガツンと針を入れると瞬く間にヒビが広がって大事な所まで行きかねないし、チマチマしてると一向に進まない。

 アッキーは大胆さが仇となり胴体がもげてあっさり降参。

 けんちゃんは全て抜かりなくチクチク仕上げに突入。

 オレは……ザックリやるだけでもうお腹いっぱい。

 彫り上がったヤツは出来の良さでおまけが貰えて、ついでに双子の弟妹かな・むーに見せるためにけんちゃんがオレたちの作品をもお持ち帰りした。


 しかし、屋台って本当に魅力的。

 焼きそば、たこ焼き、お好み焼きは勿論、肉巻きとかピザ玉とか牛串とかイカ焼きとかアユの塩焼きとか信州のお焼きとか、オレがあげると〈焼き物〉ばかりだけど普段食べない珍しいものがいっぱい並ぶ。

 今川焼と大判焼、皆さんはどちらで呼ぶ?やチョコバナナは見掛けなくもないけど、綿あめやリンゴ飴に至ってはあの形でスーパーにも売って無いしね。

 オレは甘いものがそんなに好きじゃないから腹を満たすものばかりに目が行きがち。特にピザ玉、最高。卵たっぷり、生地からとろーりチーズが伸びては、ケチャップの酸味が口のなかを爽やかに通り抜ける。

 みんなは目玉焼きには塩コショウやしょう油、ソースなんて言うけれど、オレはケチャップを付けたがるケチャッパーだから絶対に外せない。フライドポテトにもそうありたい人。しかもチーズLOVE!同時にマヨラーでもあるからお好み焼きやたこ焼きにはマヨネーズ必須。贅沢者だね、てへへ。

 最近は大判焼(オレはこの呼び方)の中身もしょっぱいチーズやツナとか使っちゃうから屋台って本当に侮れない。

 あ、甘いもの苦手と言っても、けんちゃんちの餡こは当然、別ね!


 次は何を食べようかとフランクフルトの最後の一口を頬張り辺りを見回していると、

「まあちゃん、来てたんだ」

 背中をポンと叩かれ飯塚さん(『LV15』に登場のハヅキちゃん)に声を掛けられる。


(ちなみに一人称を変えてから女子の呼び方も変化しました、スルーしてね!)


 しかも、その後ろに居るのはもしかして!

 学校では下ろしてることが多い肩丈の髪を高めに纏めて、色白なほっぺが丸見えになってる同じクラスの女子に思わず目がいく。

 飯塚さんとはクラスが違うのに一緒なのは何故?という疑問に、そういえばスポーツ少年団(任意の部活みたいなもの)の仲間だと以前聞いたんだと思い出した。オレたちみたいに運動系の横の繋がりは他のスポーツでも仲の良さが顕著になるんだね。

 それにしても。

 学校では滅多に見せない両肩出しの服がとても新鮮、というか、ちょっと大胆すぎて心臓が、心臓がっ!いや、スゴく似合っていて、髪型とも絶妙にマッチしていて超可愛いけど。

 そんな事をボーッと頭の中で巡らして、ハッと我にかえる。

 しまった、いま、完全に見入ってたよ!

 ニヤニヤするけんちゃんとアッキーが、女子に気付かぬように背中を突っついたり足を踏んだりしてくる。頼むから、やめてください。

「みんな来たばかりなら、一緒にまわろうぜ」

 ちょっと待ってアッキー、何言ってんの?

「いいね、面白いの有った?」

 こらこら、飯塚さんも乗らないで!


 女子5人、男子3人の大所帯でワイワイはしゃぎながら歩行者天国をぞろぞろと練り歩き、あれやろうか、これ美味しいよとエスコートする。したつもり。頑張ったと思う。我ながら。

「ありがとう、じゃあね」

 そして女子たちとは軽く一周して別れました。

 はぁ、本当に心臓に悪い。

 でも。

 学校とはガラッと違う賑わいと雰囲気の中を一緒に楽しめたのは、胸の辺りがムズムズしつつもドキドキが止まらず、この上なく嬉しい事実でした、はい。

「まーくん、今イケたじゃんよ!」

「いい加減、告れよ。じれじれ男子か」

 以前、男子ならではの恋バナをしてもろバレしていた彼女の存在。まあまあな期間の片想いっぷりなので、二人にとっては気になって仕方がないらしい。

 だからといって先程のような突発的な協力はやめてほしいし、放っといてほしい。いやでも、相談には乗っていただきたい。

 って、矛盾してるね。

「あのね、祭りの中を歩きながらとか、ガヤガヤし過ぎで出来るわけないでしょ」

 小学生だけど、もう少しムードってものを考えようよ。

「来週の金曜日は大安吉日だから、これを機に一気にいっちまえよ」

 はぁ?何言ってんの、お日柄に詳しい和菓子屋けんちゃん。(何故かゴロがいいな?)

「登校班が隣だから、朝のうちにお呼び出しを伝えとくわ」

 頼むから、もう余計な事しないで、アッキー。


 皆さん、聞いてね。

 オレを置いて勝手に進めないでください!


◆ ◆ ◆


 翌週の帰り。

 遅咲きの金木犀の香りが微かに残る、人もまばらな裏門そば。自力で彼女を呼び止める前に、まさかの逆呼び出しを受けると人生初の告白をいただき、この度めでたくカノちゃんが出来ました。

 てへ、てへへ、てへへへ。

 しかも聞いて。

 オレが祭りに行くと聞いたから、有りっ丈の勇気をふり絞ってお姉ちゃんのオシャレ服を借りてオレを探してたんだって。

 嘘でしょーーーっ!超、嬉しいんだけどっ!

 オレを見つけてくれてありがとうね!


 この日の味噌汁はお付き合い始め記念にカノちゃんの大好物、なめこと豆腐に即決。偶然冷蔵庫に入ってるなんてお母さん、ナイスです!

 絶対作らない筈の味噌汁に何事かと驚くだろうけど、当然ながらこのことはカンストしたスキル〈覚ラレ〉で全て両親には内緒にしておきます。いつかサトちゃんが言ってた「バレるとうるさい」を回避するためにね。

 え、きのこ大丈夫なのかって?

 何ヲ言ッテルノ、ダイスキデスヨ、当然デショ?

 カノちゃんが大好きって言うんだもん!


「「わかりやすーっ!」」

 うるさいよ、お二人さん。


◇ ◇ ◇


「あのね、今日職場で大事件が……」

「それは災難で。心身ともにほぐしてやるからこっちへ来い」

「真面目に聞いてくれないかな?」

「たまには俺も愚痴りてぇなぁ」

「むぅ……」

「俺は何処に癒しを求めりゃいいんだか」

「……目の前にいるでしょ?」

「いいんだな、これでもかと甘えるぞ?」

「お好きにどうぞ」


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