小学⑥ だ、から準備に切り替えて

「今日は何にしようかなぁ~、るるるん♪」

 月末の金曜日と言えば、そう、プレミアムフライデー!

 お父さんもお母さんもきっかり定時で帰ってくるので、ご飯を食べたらジョイコンと手汗を握って格闘したり、リング運動を優しく見守ったり見守られたり、かつて教わった角砂糖何個分?の炭酸入り乳酸菌飲料を片手に映画を観てはツッコミ入れたりするのだ。

 しかも0時近くまで。

 この日限りは夜更かしが許される特別デー、うふふ。

 なんてウキウキしたふり見せるけど、寝たふりしてコッソリ動画を観ている小学生のオレにはいつもの金曜日と何ら変わらないんだよね、実際。

 イケナイ子、てへ。

 大人になればもっと楽しみに思えるのかな?


 さて、そろそろ帰ってくるから作ろう。

 気温が下がる晩秋あたりが最も味が良くなるというチンゲン菜を葉と芯に分けてざく切りにして芯から茹でる。

 つやつやしたら、緑鮮やかな葉とくし形切りにした通年出回るトマトを入れてひと煮立ち。

〈くし形切り〉は、へたを下にして包丁を縦横たてよこバッテンに入れるイメージ。

〈ひと煮立ち〉は、一度温度が落ちた汁を再びぷくぷく沸騰させること。

 最後に火を止めて味噌を溶かせば完成だけど今日はこれで終わりじゃない。続きはみんなが揃ってからのお楽しみ。

 ♪ピロン

 ♪ピロン

 二人からのケロケロカエルコールは既に来てるのに、誰からの連絡かな?


⇒出遅れた!お惣菜がほぼない!

⇒こっちも人が多い、嫌な予感


 おぉぅ、これは外食コースかな?

 味噌汁は明日の朝にでも回せばいいから構わないけど。


⇒⇒まあちゃん、ピザと定食と唐揚げとラーメンとファミレスとカレーと……


 いや二人とも、選択肢が多すぎるよ。

 ポチポチポチ。

「出かけるのが面倒くさいから家で食べたいな、っと」

「カレーは先週食べたから却下、っと」

「給食はソフトメン、お察しください、で送信」

 これでだいぶ絞れたね。


⇒よし、ピザにしよう!

⇒いいね、どんなのがいい?


 決断力のある家族は頼もしい。

「チーズ、チーズ、勿論チーズ!」

 メニューを見てるのかチーズに異論が有るのか、一向に返事が来ない。

 ♪ピロン

 ♪ピロン


⇒⇒チーズ一択は無理、コンビでお頼み申す


 胃もたれする年齢でも有るまいし二人とも弱気だなぁ。

 単品が理想だけど仕方がない。

「許そうではないか。あとは二人で決められよ、ってね」


 両親が帰ってきて、1/4をドカ盛りチーズで占められる最大サイズピザとシーザーサラダに味噌汁を合わせることになったので、最後の仕上げに取り掛かる。

 火を入れてぷくぷく寸前に卵をポチャン、すかさず菜箸でかき混ぜてふんわりと卵が浮かぶようになったら完成。

 じゃじゃーん!

 チンゲン菜とトマトの卵とじ味噌汁!

「具が洋風だからか、ピザにも合うな」

「まあちゃんの冒険は楽しいわね」

「「今日も有難う」」

 いいえ、どういたしまして。


「そういえばカノちゃんとは仲良くしてるの?」

 人が頬張ってる隙にさり気なく聞く癖やめてね、お母さん。

「んー、んんんっむーんん、むむん」

「「口の中を空にしなさい~」」

 誰のせいで怒られてんの、オレ、理不尽。

 で、正解は。

『んー、自然消滅した』です。

 クラスが離れてからも会いに行ったり一緒に帰ったりしてたけど、キックベース大会後から遊びに行っても気が散ってたり会話が続かないことが多くなって、察するように通うことも減って迎えた秋の遠足の土産コーナーで、カノちゃんが応援していた同じ子供会の男子とお揃いでグッズを買っていたのを目撃しまして。で、「あー、これは終わりなんだな」と確信したわけです。

 それを暫く経ってからアッキーに話したら、

「押し強い男子に折れたって感じ。どちらも同じクラスで気付いてたけど、言えなくて、ゴメン」

と、しょぼくれてたっけ。

 何が悪かったとか何をすべきだったかなんてのは小学生の身で反省する発想もないから、これはこれでもうお終いと割り切るけれど、やっぱり一言欲しかったなぁ。

 切り出したら責められると思ったのかな、そんなことしないのに。だって、カノちゃんと一緒にいた時間はドキドキする高鳴りとフワフワした心地で本当に楽しかったから、逆に感謝したいくらいだもの。幼い恋心を通わせるというのは、なかなかに難しいものなんだね。

 さぁ、これくらいで切り替えて次の出会いを見つけるとしよう。

 なんて、ま、せ、たガキ!だね。


 そんなしょっぱい思いを経験し、卒業と入学の準備が大詰めを迎える。


 卒業アルバムの写真撮影。お気に入りの服がなかなか見つからずに仕方なしに着たシャツでの個人写真。仲良し時代のカノちゃんとこっそり隣同士だったクラブ活動。フリーショットでアッキーとけんちゃんとの変顔選手権を激写されたっけ。


 卒業式で身につける学生服。クラスでも真ん中くらいの身長だけど男子は伸びるからとブカブカな丈で誂える採寸のお姉さん。一括予約のおまけにほくそ笑むお母さん。リュックは特別感より統一感が優先だってさ。詰襟のカラーが当たる首が苦しそうで痛そう。


 文集のテーマは、複数有るなかから『中学生になったら』に決定。ユアちゃんによれば、中学はひとクラスの人数も増えるし先生も厳しくなるそう。部活も始まるけど合気道とも両立させたい。何よりオレの性格に合う生活環境だといいな。

 お楽しみコーナーは『クラス紹介』がメイン。編集前に見せてもらった色々ランキングの〈仕草可愛い〉にしれっとオレが居るのは何故なのか、みんな視力は無事?

 〈将来の夢〉は決まっている。サトちゃんと同じ柔道整復師。もしもの時にはサトちゃんのところに転がり込んで、あの頃みたいにみんなで笑い合って暮らすつもりでいる。


 年が明ければ中学校で新入生説明会。

 保護者が詳細を聞いている間に部活見学をする。想像通り体育会系が多い。野球、サッカー、ソフトテニス、バスケ、剣道、卓球、バレー、陸上、等。吹奏楽、合唱、美術、まるちめでぃあって何をする部活?パソコン編集とかウェブ作成だってさ、今時だね。

 縦割り班で見知った人はもちろんのこと、未来の先輩がオレたちをチラ見しながら練習する。みんな優しい人たちだといいね。先生の見た目は小学校ほど若くない感じ。たまに厳ついおじさんがいる、恐そうでドキドキ。


 一日、一日が過ぎていく。

 色んな経験をした小学生のオレ。

 別れ、出会い、繋がり、発見。

 楽しみ、悲しみ、怒り、喜び。

 優しさ、恥ずかしさ、驚き、夢見心地よさ。


 人生を語るにはまだまだ足りない経験値だけど、オレ、着実に成長してるよね、サトちゃん?


◇ ◇ ◇


「もう卒業か、時が経つのは早いね」

「なのに未だに寒さに慣れねぇ、何なんだよこの痛さは!」

「ここの気温はの足元にも及ばないよ」

「噓だろ!駄目だ、温もりをくれ」

「その様子では味噌汁以外も必要かな?」

「当然だろ、熱い愛を注いでくれよ」

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