2-5
モンタナ食堂を出て、食堂前の坂を上り芸術学部方面へ向かう。
途中にある分かれ道から、講堂と芸術学部生がよく使う小洒落た食堂〝ハナマキ〟に挟まれた道に出たところで、海江田は
「惜しかったね!」
と、大きな声で僕に言った。
「ダメだったけど、揺らいでいる感じはあったよねっ!」
「そうかぁ……?」
空手部と学生会の活動が忙しいから、と犀川にはあっさり断られた。なのに海江田はいつにも増して元気だ。その前向きさ加減だけは見習いたい。
「弱味とかないかなぁ……犀川くん。彼、要っちと違ってゴリ押しは効かなそうだし」
……手段を選ばないところはクズだと思うが。
「ってかさ、勧誘するのは実里沢だろ。何で犀川まで誘ったんだよ?」
「あれ、もしかして嫉妬かな?」
口元に手をやり、にひひと笑って海江田は言う。
「バカ言うなっ。知人に迷惑をかけて、僕が悪く思われるのが嫌なだけだ」
「友達じゃないの? 秋吉くん」
馴れ馴れしく名前で呼ぶ。
歳はこいつの方が上だし、犀川は気にもしなさそうだが。
「友達、というほどの付き合いでもないからな……」
「ふーん。そもそも、要っちって大学で友達いるの?」
「………………」
返事の代わりに目を背けた。答え辛いことを訊くな。
「まあそれはどうでもいいんだけどさ。――秋吉くんを誘ったのは、彼が加わってくれれば何かと有利と思ったから。学生会所属ならそっち方面に顔が利くし、空手部であの身体つきなら体力要員としても頼れるでしょ。一石二鳥じゃない」
打算的というか、悪びれる様子もなく海江田は言う。
「それにレイミーも、彼にはいくらか信頼あるみたいだし。秋吉くんを入れておけば誘いやすくなりそうじゃん」
「行き当たりばったりでよくそこまで頭が回るな……」
悪知恵だが。怪訝な顔を向けてやると、海江田はニヤリと口元を歪めた。
「ま、そのためには、もうひと手間かけないといけなそうだけどねぇ」
喋っているうちに芸術学部棟に着いた。僕の次の講義はここである。
「君はこのあとどうするんだ?」
「あたしは学生会館の方に用があるから」
学生会館の事務課は学部棟前の階段を下った先だ。
「サークル申請書の提出か?」
「や、まだメンツ足りないし。ちょっと空手部の部員簿を見せてもらいにね」
「部員簿?」
訝しげにつぶやいた僕へ、海江田は、じゃねっ! と軽く手を上げ、パタパタと階段を下ってゆく。
そのうしろ姿を見送り、僕は学部棟に入った。
棟一階のエントランスには去年の四年生による卒業制作が展示してある。どれも中々奇抜で前衛的だ。
というか……何というか、はっきり言って、〝これで将来メシ食えるのかっ?〟と揶揄したくなるような作品ばかりである。
――が、それは結果の出ない自分の小説にも言えることだと気づき、僕は肩を落として展示物の前を通り過ぎるのだった……。
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