第49話 ブルーな月曜日 (かつての投稿時テーマ 青色)

 最近は月曜日の朝が憂鬱です。

 原因はひとつです。職場のメーラーを開きたくないのです。

 私は、雑誌の編集部に勤めています。

 この編集部は、インタ―ネットを通じての読者投稿のコーナーを持っています。

 毎月テーマを示して、それに見合った掌編を投稿してもらっています。私は、この読者投稿の担当も受け持っています。寄せられた玉石混合の中から、希少な玉と、まだましな方の石を拾い上げて、ホームページに掲載します。

 まあ、大変ではありますが、どちらかと言うと好きな仕事でした。元来が、物語を読むのは好きですから。

 でも、最近は、月曜日の朝だけは違います。

 ある投稿者から大量の作品が届くようになったのです。

 最初は、一遍でした。

 頑張った跡は見られるのですが、掲載できるレベルではありませんでした。

 次の月曜日には二編届いていました。

 やはり、没にするしかないレベルの作品でした。

 その後も、毎月曜日に投稿作品が届きました。

 掲載されたいらしく、必死に書いている様が垣間見えました。

 三週目には四編、その次は八編、そして十六編と、一度に投稿してくる作品の数は倍々に増えて行きました。

 六十四編に達した時に私は怒りに襲われました。やってはいけないこととは分っていながらも、開封もしないままに全編を削除しました。

 次の週、私は、感情を深いブルーに染めながらメーラーを開きました。送られてきていた作品の数は百二十八編。予想通りの数でした。

 私は、がっくりとうなだれて、敗北しました。

 仕方がないので、「て」「に」「を」「は」の用法が滅茶苦茶で、慣用句の使い方がなっていなくて、使用する漢字に統一性がなくて、ストーリーも破綻している百二十八編の作品群の中から、とりあえずは一番「まともかな?」と思える物を探し出して、渋々とホームページにアップしました。

 それが先週の事でした。

 今日は月曜日です。

 先週の掲載で満足してくれると嬉しいのですが。それとも、更に図に乗せてしまうのでしょうか。

 私は、淡い期待と、濃い恐怖を抱きながら、パソコンを立ち上げ、メーラーを立ち上げました。

「ぎゃっ」

 私は悲鳴をあげました。

 画面には、未読の投稿作品がずらぁぁと並んでいました。

 私は顔を引きつらせ、メールを自分のパソコンへと転送しました。

 転送は何時まで経っても終わりません。無限とも思える数の投稿作品がハードディスクに保存されていきます。見る見るうちに、空き容量が減って行きます。

 数時間かかって転送が終わり、更にフォルダー分けをして、件の方からの投稿作品の数をカウントさせました。

 表示された数字を見て、私は真っ青になり、椅子を蹴倒して、飛び上がりました。

 一万六千三百八十四編。

 それは、百二十八を二乗した数字でした。

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