第46話 黒体 その3 (かつての投稿時テーマ 黒色)

 黒体と言う概念がある。

 純粋な真の黒色で覆われた物は、一切の反射をしないという物だ。

 熱も電磁波も黒体に触れた物は吸収される。代わりに、黒体からは熱や電磁波が放射される。必ず、一旦は黒体と言う物を介しての伝搬が行われるというものだ。

 こんな事を言うと、最初に頭に浮かぶのはブラックホールの存在かもしれないが、あれは違う。あれは、強い引力により電磁波が抜け出せなくなるだけである。

 様々な用途や実験の為に限りなく黒体に近い物体は数多作られてきているが、完全な黒体はまだ地球上には存在していないと言われている。それが世間一般の通説の様だ。

 だが、我が家の神棚には完全な黒体が奉られている。確かめたことはないが、昔からそう言い伝えられてきた。その黒体は古い神棚の奥に、古い小さな座布団の上に鎮座している。直径十センチ程度の真球で、周囲に三重の注連縄が張られている。注連縄は古くからあるのに一本たりとも切れていない。なんでも、名のある祓い師が張ってくれたものらしい。黒体は名の通り真っ黒で、何故か埃ひとつ積もらないでいる。

 我が家では、黒体には絶対に触れてはならないと言われてきた。

 そんな話を我が家以外の者にすると、大体は一笑に付されてしまうのだが。

 だが、事実は奇妙なものである。

 ある朝、私は神棚の掃除をしていて、誤って指先が黒体に触れてしまったのだ。

 すると黒体が小さな音をたてた。

「9時15分」

 そんな音だった。

 腕時計を見ると、まさにその時刻だった。

 その時、私は合点した。

 「こくたい」とは「告るタイム」だったのか、と。

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