第32話 会議 (かつての投稿時テーマ 学校)
ある都市の、ある新興住宅地に、新しく小学校が建つことになった。
請け負ったのは中堅ゼネコン。だが、実際の現場の作業は下請けの更に下請けの我が社。
我が社は、一地方都市にあるしがない建築会社に過ぎない。だが、小学校の建築に限れば定評がある。
そんな我が社に、元請から監督が出向いて来た。分厚い設計図も抱えている。
監督は、色々と御託を並べたてるだけ並べると「じゃあ、後はよろしく」と言って帰って行った。
残された我が社の精鋭たちは、設計図を一瞥して「ふん、なかなか優等生な設計図じゃないか」等と感想を述べる。
社長が我々を見渡して、にたぁ~と笑った。
「それじゃ、我々の仕事を始めようか。アイディアがあったら、遠慮せずに言ってくれ」
「じゃぁ、俺から行くわ」
先鞭をつけたのは、技術部長。
技術部長は敷地図の北東隅の辺りに赤鉛筆で○を付ける。更にその○へ向かって、何本かの線を引く。線の出発点は、どれも浸透枡。
「この辺り、地盤が緩いんだよ。結構深くまで砂地なんよ。ここの地下に、出口のない枡を埋めてさ、中に鉄粉を敷き詰めておくんだ。その枡へ、四辺の浸透枡から地下水路を作る。するとさぁ、長雨が続くと、枡がオーバーフローして、赤さび混じりの水が表面へ染み出すんよ。差し詰め、血が湧いてくるように見えるって寸法よ」
そこまで言うと、技術部長は、いひひひひぃと下卑た笑いを漏らした。
「アイディアはいいな」社長が言った。「だが、コストの面がネックにならないか?」
「なあーに、赤字の分は、先月にやった市議会議長さま邸の改修。あん時に随分浮かしたから、そっから出るよ」
「ああ、あのふんぞり返っているだけの役立たずの家の工事か。確かに、ありゃあ、良い仕事だったなぁ。輸入材を、国産銘木っつって、材料費も結構ハネタよな」
「そうそう。だから、今回は、資金は潤沢なんだってばぁ」
「なら安心だ」
社長と技術部長は、目を見合わせると、ひぃぃぃぃと気味の悪い笑い声のハーモニーをした。
「て、ことだ。他に何か、大掛かりなのはないか」
社長は我々の方へ向くと、期待に満ちた眼差しをする。
「そうかぁ…今回は奮発できるのか」
「それは、いい事だよなぁ」
「踊り場の鏡に使う偏光ガラスの質、ワンランクあげられるかな」
などと、我々も活気づく。
「うん、そうだ。思いっきり奮発して、子供らを怖がらせてやらねばな」
「じゃあ、こんなのはどうだ?ほら、湿度と温度と光量の条件が揃うと光る塗料てのがさぁ、ある研究所で試作されたんだけどさぁ、そいつを使って…」
議論が熱を帯びてくる。
どんな小学校にも七不思議は必要だ。だから、我々は、こうやって毎回、頭をひねってはこっそりと七不思議をこさえている。
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