第31話 すいっすいっと (かつての投稿時テーマ 東北・北海道)

 すすきのの街中を、来る人来る人を華麗に避けながら、彼女はすいっすいっと歩みを進めていきます。

 彼女は、この街の顔です。

 ずっと昔からこの街に居ました。

 そう、少女の頃から居ました。

 あの頃は、青少年保護条例なんて無粋なものもなくて、でも代わりに大人たちがしっかりしていて「てめぇらガキには、まだ、勿体ねぇよ」と叱り飛ばしていました。

 そして、その頃のすすきのでは、一部の子供たちも大事な働き手でした。

 いえ、働かないと冬を越せないくらいに貧しい者たちが多かったのですがね。

 そんな中で、彼女だけは別格でした。

 綺麗な着物を着て、街中を、今と同様の足取りで、すいっすいっと歩みを進めていました。

 その姿を見ても、誰も咎めだてをしませんでした。正確には、咎めるのが野暮なくらいに彼女はこの街の風景だったのです。

 だから、彼女はこの街で一番の古株です。

 誰も、彼女に異論を挟めません。

 そんな野暮をするのは、役人くらいのものです。

 彼女が大人の格好をするようになって、暫くして、粋な旦那衆の世話でお店を持つことになった時、花がずらりと通りを埋め尽くしものです。

 あれから何十年、どのくらいの時間が経ったのでしょうか。

 相変わらずに彼女は愛くるしく、そして若々しい顔つきのままなのです。

 一体、彼女はいくつなのか。それは誰も知りません。誰も知ろうとはしません。

 お店は、いつの間にか閉めてしまっていました。

 理由を尋ねたら、やっぱりカウンターのこっち側で作ってもらう方がいいや、とのこと。

 確かに、その通りです。

 彼女は、どのお店にでも自由に入っていきます。

 とはいえ、上品な彼女のこと、立ち寄るお店は自ずと限られます。

 彼女が扉を開けたお店は、それだけで格が上がります。

 だから、彼女には是非入ってもらいたいお店ばかり。でも、それはお首にも出せません。だって、野暮だもの。

 そして、当然、彼女からはお代を頂きません。

 だって、翌日から、今までの何倍ものお客が訪れるのですもの。

 そんなこんなで、彼女は、すすきのの街で、すぃっすいっと歩みを進めていきます。

 店から店へと渡っていきます。

 これ見よがしに、可愛い狐の尻尾を振りながら。これが、この街が出来てからずっと続く彼女のスタイルなのです。

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