第11話 鏡の池占い (かつての投稿時テーマ 中国)
私たちは高校時代からの仲良しの四人だった。大学も一緒だった。さすがに就職先はバラバラだったけれど、ちょくちょく寄り集まって女子会や旅行なんてことをしていた。
四人の中で最初に結婚することになったのが、咲だった。一番の引っ込み思案で、他の三人の後をついて回るという感じの子だった。だから、誰咲から婚約の話を聞いた時には誰もが驚いた。そして、冗談半分にやっかみを言い募った。
咲の結婚が来月に迫った時、四人で旅行に行くことにした。結婚したら、そうそうは揃っての遠出も出来難くなるだろうからと理由だった。
行先は山陰にした。
咲以外の三人が縁結びの出雲大社詣でを強く希望したからだった。
萩、津和野から入って、出雲大社に詣でて、松江に至った。旅の最後の行先が八重垣神社だった。
八重垣神社の奥まった所に、鏡の池と呼ばれる泉がある。そこでは、縁結びに関する占いが出来る。社務所で売られている和紙の真ん中に、百円や十円、五円硬貨乗せて池に浮かべて結婚の縁について占うのだ。和紙が硬貨の重みで沈んでしまうまでの時間で結婚時期がわかるという。和紙が早く沈むほどに、結婚が近いと言われている。和紙が池の奥へと流れていけば、遠方の人と結婚するとも言われている。
私たちはきゃぁきゃぁとはしゃぎながら、和紙を鏡の池に浮かべた。
一番早く沈んだのは私の浮かべた和紙だった。
そのことを、私は友人たちに自慢すると、「当てになんないわよ」と言い返された。
友人の一人が指差す先を見ると、咲の浮かべた和紙が水面を漂っていた。沈む様子が全く見られなかった。
「咲の場合は、別よ。分かり切ったことを、わざわざ占うな、と神様が怒っているのよ」と私は反論した。
私の反論に対して、友人は「そんなことはない。あんたがこっそりと五百円を乗せたからだ」といわれのない反論を返してきた。
そんな、他愛のないおしゃべりを繰り返している間に他の二人の和紙も沈み、咲の和紙だけが取り残され水面を漂っていた。
私たちは縁占いなんて単なるお遊びと思っていたから、そのことを気にすることなく鏡の池の畔を去った。飛行機の時間が迫っていたからだ。
家に帰りつく頃には、占いをしたこと自体が、他の観光地でのイベントと同レベルの思い出に変わっていた。
でも、違った。
翌週、咲は事故に巻きこまれた。そして、あっけなく死んだ。
葬式に出ながら、私はあの鏡の池の和紙はまだ浮いたままなのだろうかと思った。
それから二年が経った。
今、私は花嫁として多くの人の前に佇んでいる。私の横にいるのは、咲の婚約者だった人。
私は、自分の右手をそっと見つめる。掌には、咲を突き落としてやった時の感覚が今でも残っている。
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