第3話 お宮参り (かつての投稿時テーマ「海外」)

「こんにちは、縁を切りに参りました」

 私は由緒正しい神社に詣でると、必ず、こう挨拶する。

 この言葉によって、私の仕事は始まる。

 本社殿に対して形だけの二礼二拍一礼をすると、すぐに、神墓へ足を向ける。

 神墓は山だったり、岩だったり、湖だったりする。この神墓のない神社は偽物だ。偽物か否かは、その筋の力がないと分からない。

 私は、その神墓の周囲を巡りながら、東北、東南、西南、西北で神墓に向かい、四拍する。

 これで、神さんは神墓と縁が切れる。

 大体、四、五分もすると、神さんは天へ向かって、発って行かれる。

 それで、その社は空っぽになる。

 二十歳を過ぎた頃から、私は、全国の社を回って、その仕事を繰り返している。

 社の大きさや格ではなく、神さんが居るか居ないかで私の仕事は決まる。

 神さんの居る社に対して、片っ端から、縁を切って回っている。

 それが私と、この国の神さん達とで交わした契約。私の様な者は、世界中に何人もいるという。

 神さん達が、この星の人間に見切りをつけて久しい。そして、この国には、この星の人間が溢れている。神さん達は、この国を囲む海の外に、新しい大地を作るという。

 元々、すべての神さん達は、放浪されていらした方々だ。

 この星の人間たちに追われて、ずっと追われ続けて、この辺境の島国に寄ってきた。

 だが、ここだって、今や安息の地ではない。

 だから、神さん達は、ここの土地すらお捨てになる。

 天空にて、この国の外にて、新しい大地の誕生を待つという。

 なに、神さん達にとって、千年や万年は数日だもの。すぐに、落ち着くべき土地は出来る。

 その頃、この国は無いという。

 正確には、この国を構成する人間が居ないという。いや、この星に人間が居ないという。

 人間の種的として寿命は、あと三千年と聞いた。神さんが大地に残っていたとしても、その寿命は変えられないという。

 私は、その話を聞いた時、本当に暗澹たる気持ちになった。あと、三千年もあるのかぁ、と。

 人間が居なくなる頃に、神さん達の新しい大地は海より浮かび上がり始めるという。

 完全な形を示すまでには、数百万年はかかるという。気の長い話だと思った。

 神さん達が、大地や大海から離れて、調和を失ったらこの星はどうなるのだろうか。訊ねてみた事がある。

 どうもならない、というのが答えだった。

 すべては今まで通りに。ただ、何かの時の「護り手」が居なくなるだけだと。

 それを聞いて「ちぇっ、なあんだぁ」と私は落胆した。

 自分自身が、人間が、大嫌いな私としては、もっと劇的な崩壊を望んでいたのに。

 三千年と言う長い年月が一気に縮んでくれたらいいのにと望んでいたのに。そうでないのだと知って深く落胆した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る