蠢く螺旋 参
同時刻 本城蓮 二十四歳
僕の手が届かなかった。
お嬢の手を掴む事が出来なかった。
「クソッ。やられた。」
箱庭快楽とは結果術の中でも最も強力な術だ。
同行していた山田花はこの術を使えない筈だ。
この術は壱級の中でも使える者が滅多にいない。
それ程までに難しい術だ。
箱庭快楽を解くには術者を見つけて解かせるしかこの結界を出る事が出来ない。
だけどこの箱の中には僕と野々山雛に早乙女隼人しかいない。
「聖達と離れちまった。この状況はかなりヤバいんじゃねぇの。」
早乙女が僕に話し掛け来た。
フワッ。
甘い香りが鼻に通って来た。
僕は素早く刀を構えた。
それは野々山達も同じだった。
ボコボコッ!!!
音を立てながら地面から現れたのは緑色の大きなアザが顔にあるガタイの良い男が現れた。
「コッチはハズレか…。」
低い声が空間に響く。
「その顔のアザは…。だいだらぼっちか。」
シュルシュルッ。
早乙女の拳に巻かれていた包帯がだいだらぼっちの体に巻き付いた。
「この結果もアンタがしたのか?」
ギュッウ。
早乙女が包帯を引っ張るとだいだらぼっちの体が締め付けられていた。
「あのお方がした事だ。俺は貴様らの相手をしろとのお申し付けしだ。」
あのお方…?
「八岐大蛇が来てるのか此処に。」
僕がそう言うとだいだらぼっちは体を大きくさせ包帯を破った。
「そう簡単にはいかねぇよな。」
早乙女は新たな包帯を拳に巻き付けた。
「良い動きしてるわよ早乙女。なら先手必勝。」
そう言って野々山雛は刀を構えだいだらぼっちに向かって行った。
だいだらぼっちは手を振りかざすと細かい岩が現れ野々山雛に放った。
野々山雛は長い刀で器用に岩を弾く。
キンキンキンッ!!!
だいだらぼっちは顔色一つ変えずに岩で色々な武器を作り上げ野々山雛に向かって放つ。
早乙女が飛んで来る武器の動きに飛びながらだいだらぼっちの元に移動し顔に拳を食らわした。
「オッラァァァ!」
だが、だいだらぼっちは隼人の首元を掴み地面に叩きつけた。
ゴキッ!!
「ッ!!!ガハッ!!!」
早乙女の骨が折れる音と共に血反吐を吐いた。
「早乙女!!」
僕は早乙女に近付いた。
気を失ってるだけ…か。
肋骨が折れてるかもしれないな…。
「野々山!!一旦下がれ!!」
「!!」
そう言うと野々山雛は下り僕の隣に来た。
「早乙女は?」
「気を失ってるだけだ。早乙女は戦える状態じゃない。医療術"菫(すみれ)"。」
僕は三角の形をしている札を早乙女を囲む様に三箇所に置いた。
早乙女の体に菫の花が巻き付き治療を開始した。
「医療術なんて使えるの…?」
「応急処置ぐらいのはね。さて…と。さっさとこの結果術を解いて貰わないと。」
僕は刀を抜きだいだらぼっちに斬り込む。
だいだらぼっちは刀を自分の腕を硬化し防いだ。
キンキンキンッ!!
何度も刀を振るい落としてみたが…。
「やっぱ硬いなぁ。」
「お前はやはり彼奴の生まれ変わりか。」
生まれ変わり?
どう言う事だ?
「それは僕の事を言っているのか?」
「お前とあの人は因縁の仲だ。」
「因縁…?」
「本城蓮!!」
野々山雛が後ろから来ていた岩の武器の攻撃を受け止めていた。
「野々山!?何で…本城の名を?」
「そんなの知ってるわよ。アンタは覚えてないでしょうが。ハッ!!」
岩の武器の攻撃を受け流し僕が野々山の後ろに回った。
いつの間にか岩で作られた様々な武器が僕達を囲んでいた。
「野々山。もしかして、僕達は会った事あるのか?」
「あるよ。忘れた事なんて無い。私と美月は貴方の影武者なんだから。」
「!?か、影武者!?」
僕の影武者…、?
「貴方が十五歳の時に野々山家に訪れた事があるのよ。」
キンキンキンッ!!
岩と刀が打つかる音が響き渡る。
九年前…?
「九年前の秋に、貴方があたしの道場に修行に来たのが始まりだったわ。」
野々山雛は闘いながら話を始めた。
野々山雛 十八歳
葉の色が色付き紅葉が舞い落ちる季節にあの人は現れた。
カン、カンカン!!
木刀が混じれ合う音が道場中に聞こえる。
あたしと美月は父に徹底的に鍛え上げられた。
桃太郎が使ったと言われる桃華月旦を使うに相応しいように。
「ハッ!」
「ッ!そうはいかねぇよ!!」
振り落とした木刀を美月は受け流し、構え直しあたしの喉を狙って来た。
「フッ!」
あたしはわざと腰を低くし攻撃を防いだ。
カーンッ!!!
木刀のぶつかる強い音が道場中に響いた。
道場に来ている生徒達の視線があたし達に突き刺さる。
「またかよ!!今のは一本取れたと思ったのに!!」
美月は頬を膨らませながら呟いた。
「美月はすぐ油断するから。癖出てるよ。」
「はー。今のは誰でも思うだろ!!」
「雛、美月。」
振り返るとお父さんが歩いて来た。
「何ですかお父様。」
あたしはお父さんに尋ねた。
家族だろうが身内だろうがあたし達はお父さんには敬語を使わなきゃいけない。
お父さんはとても厳しい人だから。
「本城蓮さんがいらした。挨拶しなさい。」
お父さんの隣に綺麗な男の子が立っていた。
紫色の瞳に吸い込まれそうになる。
凄く綺麗な男の子…。
本当に男の子?って聞きたくなるくらいの美貌だ。
「雛!!何、ボーッとしてるんだ?」
美月がツンツンと頬を突いている。
「あ!えっと…、野々山雛です。」
「美月です。」
「本城蓮です。三週間お世話になります。」
笑顔を一つも見せないで淡々と名前と目的を話した。
「この道場に修行に来たんだ。雛、美月。蓮さんのお世話をなさい。」
「え!?、俺達がですか…?」
美月が驚いた顔をしてお父さんを見つめた。
「当たり前だ。それと…だ。お前達の稽古相手は蓮さんがする。」
「え?それは…どう言う意味ですか?」
あたしはお父さんに尋ねた。
「そのままの意味だ。蓮さんに鍛えて貰いなさい。」
「マジかよ…。」
美月は髪を乱暴に掻き上げた。
あたしは本城蓮を見つめていた。
「暫く宜しく。僕は強くなる為に来たんだ。」
「強く?」
「あぁ。僕はあの人の為に強くなるんだ。」
美月の問いに本城蓮は答えた。
これが本城蓮との出会いだった。
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