蠢く螺旋 弐
鬼頭楓 十五歳
俺達は岡山県に向かうべく、新幹線を利用して居た。
姉ちゃん達も出発している所か。
「なぁなぁ。そんなに聖ちゃんが心配なの?」
ふと、犬山が俺に話し掛けて来た。
「はい?」
「いやー楓君が聖ちゃんの事考えとるなーって思ってさ。」
不意に姉の事を突かれて俺は驚いた。
何で、俺が姉ちゃんの事を考えてるって分かったんだ?
「顔に書いてあるからさ。楓君分かりやすいね。」
「!?」
「驚く事ないじゃん。楓君達のお姫様だもんね」
「俺…達?」
コイツ…何で"俺達"って言ったんだ?
「犬ちゃん達ー。飴玉食べるー?」
前に座っていた玉村先輩が振り返って来て飴玉を差し出して来た。
紫色をした飴玉…。
俺は思わず飴玉を凝視してしまった。
すると、その視線を玉村先輩が気付き、「ブドウ味だよ。」と言った。
「サンキュー。楓君は?」
「俺は大丈夫です。」
「そっかー。先生達は?」
「ダイエット中だから要らないわ。進ちゃんも要らないってー。」
玉村先輩は前を向き直し先生達に話し掛けいた。
コロコロと口の中で飴玉を転がす犬山先輩。
何だろうこの胸騒ぎは…。
嫌な予感がする。
「楓よ。」
頭の中に誰かが囁いた。
「月詠(ツクヨミ)?どうした?」
月詠は俺に力をかしてくれている赤札の神。
良く俺の頭の中に語りかけてくる。
「彼奴には気をつけよ。」
「犬山先輩の事か?」
「彼奴は食えない男の匂いがする。」
「分かった。ありがとな。」
何だろうこの胸騒ぎは…。
嫌な予感がする。
何かが変だ。
姉ちゃん達…大丈夫かな。
御子柴聖 十七歳
和歌山 県御坊市 歴史民俗資料館。
「この資料館に鴉天狗のミイラが置いてあるっス!」
オサムさんがパンフレットを持って資料館に向かっ
て手を広げた。
レトロな資料館だな…。
人もあたし達しかいないようだ。
「今日は貸し切りにしてあるっス!さ、中に入りましょう!!」
「何か可愛い人だなー。」
美月先輩がオサムさんを見て微笑んでいた。
「え!?オレ可愛いっスか!?嬉しいっス!」
「え…っとオサムさん?だっけ?美月の可愛いは…褒めてないよ。」
「はえ!?」
雛先輩が美月先輩達の会話に割って入った。
「あははは!相変わらずだなー、雛達は。」
花先輩は二人を見て笑っていた。
「花先輩は二人とは長いんですか?」
あたしは花先輩に尋ねた。
「私と雛達は幼馴染なのよ。小学校時から二人は変わらないし…。いつも二人で闘っていた。私も役に
立ちたくて結界師になったの。」
花先輩の視線の先には美月先輩がいた。
あぁ…成る程。
「美月先輩の為なんですね。」
あたしがそう言うと花先輩の顔が真っ赤になった。
「分かりますよ。好きな人の為に強くなりたいって。」
「聖ちゃんも好きな人がいるんだ。」
「はい。あの人以外に考えられないんです。」
あたしは隼人の隣に居る蓮を見つめた。
どうしようもなく好きなあの人を。
「そっか…。お互い頑張ろう!!」
花先輩はそう言って、あたしに手を出して来た。
「はい!!」
その手を取った瞬間だった。
「箱庭快楽(はこにわかいらく)」
「え?」
誰かの声がした。
すると、時空が歪みあたしと蓮の間に透明な壁が現れた。
「お嬢!!!」
ドンドンッ!!
蓮は壁を強く叩いた。
「え、、え!!何スかコレ、!!?」
「結界術!?何で!?」
「油断した!!」
結界術がどうして!?
どうしていきなり発動した?
そしてあたしと美月先輩に花先輩、オサムさんを霧が囲った。
目を開けると一面が紫色が広がっていた。
「皆んないるか。」
「美月、いるよ。」
「オレもいるっス!!」
「あたしもいます。」
あたし達は美月先輩に駆け寄った。
「花。コレは結界術で合ってるか?」
「うん。かなり強力な結果だね…。雛達とは分裂させられちゃったね。」
「つまり…。意図的に仕組まれたか。」
美月先輩と花先輩の話を静かに聞いた。
誰か仕組んだ?
「「!!」」
あたしと美月先輩は花先輩達を庇う様に前に立った。
そして、あたしは妖銃を構えて美月先輩は長い刀を抜いた。
「聖。」
「分かってます。」
コツコツ。
足音が空間に響き渡った。
間違いないこの気配は妖怪だ。
それもあの匂いがする。
壱級クラスの妖怪だ。
「おやおや。こっちが当たりだったか。」
真っ白な髪、真っ白な肌に白い着物の女が此方に歩いて来た。
女の纏っている冷気が肌に刺さる。
間違いない。
この女は…妖怪"雪女"だ。
「アンタ、雪女だな。何の目的でこんな事した。」
「目的?それはこの娘だよ。」
一瞬にしてあたしの目の前に移動し、冷たい手で頬に触れて来た。
「!?」
「やっぱりアンタは…あの人の。」
あの人…?
ビュンッ!!!
ボタッ
「聖に触るな。」
美月先輩が素早い動きで雪女の腕を斬り落としていた。
だが、直ぐに腕は再生された。
「やっぱなー。八岐大蛇の血を飲んでんのか。大丈夫か聖。」
「あ、はい!」
「大蛇様を呼び捨てにするな。」
そう言って、雪女は美月先輩に向かって氷の刃を放った。
ヒュンヒュンヒュンッ!!
キンキンキンキンッ!!
だが、美月先輩は見えない動きで氷の刃を粉々に斬り刻んだ。
強い…、!!
美月先輩の動き早すぎて見えなかった。
「ふーん。お前強いな。さすが酒呑童子の天敵と言った所か。」
「酒呑童子の?」
あたしが、そう言うとオサムさんが口を開いた。
「あ、そうか!!野々山家は桃太郎が鬼退治に使ったと言われた二本の長刀(ちょうがたな)、桃華月旦
(とうかげったん)を代々守って来た家系だからか!!」
「その通り。俺は桃華を使って雛は月旦を使っている。俺達の刀は二つで一つの意味を成す。先祖が酒呑童子を一度だけ、滅するまで追い込んだ事がある。」
「え!?凄いっスね!!」
まさか桃太郎の長刀を守って来た家系が野々山だったなんて知らなかった。
「フフ、坊やには用がないのよ。私は…この子にね。坊やにはお遊びに付き合って貰うわ。」
そう言って雪女が指お鳴らした。
「ゴフッ!!」
ボタボタボタッ!!!
「花!?」
「花先輩!?」
花先輩の口から大量の血が吐かれた。
「な、ナ、なに…こ、コレ…ゴフッ!!体が…痛い!!痛い!!」
ボキッ!!!
ボタボタ!!
バタバタと暴れる花先輩の背中から翼が生え人間だった体がまるで妖怪の様なツノや尻尾が体の骨を折りながら現れた。
目からは血の涙が出てさっきまでの花先輩の面影がなかった。
「ミ、ヅキ…、、に、げ。」
声までもが変わりもう花先輩は目の前にいなかった。
見た事のない妖怪の姿…。
「は、花さん!!?はえ!?」
オサムさんは花先輩の姿を見て驚いていた。
「は、花…?テメェ、花に何した!!!」
美月先輩は雪女を睨み付けた。
「何って、そこの女は大蛇様の血を飲んだ。そして妖怪に生まれ変わったのじゃ。」
「「!?」」
八岐大蛇の血を飲んだ!?
花先輩が!?
「そんな…!!どうやって花先輩に飲ませたの!?」
「フフ。これじゃ。」
雪女は紫色の飴玉をあたしに見せて来た。
「この飴玉…って。」
「おい…。う、嘘だろ…。」
見た事がある…。
だってこれはさっき…、玉村先輩が持っていた飴玉…。
「実験は成功したようじゃな。」
「実験…だと?」
美月先輩が雪女に尋ねた。
「人間に大蛇様の血を飲ませたらどうなるのかをな?まさか成功するとは思わなかったわ。これで妖怪を作り出せる。」
雪女は不敵に笑った。
ゾクッ!!!!
楓が危ない!!
玉村先輩にもしかしたら…、楓にこの飴玉を渡して
いてそれを口にしていたら…。
花先輩の代わりようを見たら。
雪女が美月先輩と花先輩を囲む氷の牢屋を作り上げた。
「そこの妖怪になった女よ。この男を殺せ。」
「っな!!」
あたしは二人を見つめた。
花先輩が叫び声を上げながら頭を押さえた。
すると、花先輩は奇声を出しながら美月先輩の体を
長い爪で斬り付けた。
「ぐぁぁぁぁ!!」
「美月先輩!!」
「アンタはこっちだよ!!」
「聖さん!!やべーっス!!」
そう言って、雪女は氷を出しあたしとオサムさんゆ攻撃してきた。
あたしを美月先輩に近付けさせないようにしてる。
酷い…、好きな人を殺させるなんて。
蓮…、楓…、隼人…、。
無事でいて!!
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