蠢く螺旋 壱

御子柴聖 十七歳


早朝6時。


カチャッカチャッ。


あたしは妖銃の手入れをしていた。


八岐大蛇の居場所も掴めていない。


それに、百鬼夜行を復活させる為に妖怪達の封印を解いている。


陰陽師達の惨殺。


「八岐大蛇は何の目的であたしに呪いを掛けたんだろう。」


それだけが未だに疑問だ。


「ー嬢。お嬢。」


「!?」


蓮があたしの顔を覗き込んでいた。


「蓮!?いつの間に?」


「さっきから何度も呼んでますよ。どうかしました?」


「へ?」


そう言うと、蓮があたしの眉間を軽く突いた。


「お嬢はすぐ一人で抱え込もうとしますから。毒抜かないと駄目ですよ。」


「蓮…。」


そうだよね…。


あたしが蓮の立場だったら話して欲しいもん。


「八岐大蛇はどうしてあたしに呪いを掛けたんだろうって思ってさ…。」


「お嬢…。」


「謎なんだよね…。」


「だけど、少しずつだけど八岐大蛇に近付いています。僕は…呪いの進行が無くて安心してるんです。お嬢が僕の目の前で生きている実感が出来ているので…。」


蓮は刀の手入れをしながら囁いた。


「そんな風に思っていたの?」


「すいません。お嬢は早く八岐大蛇を見つけたいのに、僕は…。」


下を向く蓮をあたしは抱き締めた。


「お、お嬢?」


「嬉しい。蓮にそう思われて…。ありがとう。」

こんなにもこの人が愛おしい。


体が勝手に動いてた。


蓮の事が大切過ぎて心臓が一個じゃ足りないよ。


「…。お嬢。」


「え?」


蓮の手があたしの頬に触れ顔が近付いて来た。


紫色の瞳があたしを映してる。


蓮の瞳…、綺麗…。


ずっと見ていられる…。


あたしと蓮の唇がキスの距離に近付いた。


プルルッ!!プルルッ!!


「「!?」」


蓮のスマホが鳴っていた。


「あ、!!すいません!!電話に出て来ます。」


そう言って、部屋を出て行った。


え、え?


今の何だったの?


もしかして蓮はあたしにキスをしようとしたの?


蓮はあたしの事を?


嫌われてはないと思うけど…。


カァァァァァッ!!


顔が赤くなるのが分かる。


ドクドクと早く脈を打っている。


そんな事されたら…。


「ますます好きになるじゃん…。」


あたしは顔を押さえた。



本城蓮 二十四歳


やってしまった…。


僕はその場に座り込んで顔を押さえた。


お嬢に抱き締められた途端自分の体が制御出来なかった。


ただ触れたくて仕方がなかった。


僕のモノにしたくて、初任務の後からその感情が強くなった。


兄貴が僕と同じ感情を持っているからだ。


お嬢と兄貴が仲良くしているのを見ると胸が痛んだ。


本当は好きだと言いたい。


本当は思いっきり抱き締めたい。


あの細い肩に触れたくて、お嬢の頬に触れたくて。


そんな気持ちを抑えられなかった。


だけど、八岐大蛇の件が終わるまで告げないとあの日に決めたのだから…。


電話が来て助かった…。


自分の顔が赤くなるのが分かる。


プルルッ!!プルルッ!!


「は!そうだった…。電話に出ないと…。」


僕は通話ボタンを押した。


「もしもし。」


「やっと電話に出たか。」


「智也さん?すいません、どうかしましたか?」


「いや、俺の下の奴らが車を出すって言ってな?もう学院にいるらしいんだ。」


「そうだったんですか。わざわざありがとうございます。助かります。」


「そう言う事だ。頼むな。」


「分かりました。」


ピッ


そろそろ出ないと間に合わないな。


ガチャッ


振り返るとお嬢が制服に着替え立っていた。


「智也さんから?」


「はい。車を手配していてくれたらしくって。」


「そっか。じゃあ、そろそろ出ないといけないね。

着替え待ってるから。」


「あ、はい!すぐ着替えて来ます。」


僕はそう言って自分の部屋に入った。



御子柴聖 十七歳


蓮の着替えが終わりあたし達は学院に向かった。


学院に着くと柄シャツを着たチンピラが黒のアルファードの隣に立っていた。


チンピラがあたし達を見て駆け寄って来た。


「あ!蓮さん、聖さんチャっす!!」


そう言って、頭を下げて来た。


「もしかして智也さんの?」


「ハイっす!自分はオサムって言います!鬼頭家でお世話になってます!」


「オサムさん。野々山達が来たら…。」


「蓮さん分かってますよ!アニキも言われてますのでご心配なく!」


そう言って、オサムさんは誇らしげに腰に手を当てた。


「宜しくお願いしますオサムさん。」


「聖さんにそう言って、貰えてオレ感激です!!!」


「あはは…。」


大丈夫かな…。


「おはよう聖。」


前から隼人が歩いて来た。


「おはよう隼人。」


「まだ、先輩等は来てねぇ感じ?」


「そうだよ。」


「あれ、もしかして鬼頭家の?」


隼人はオサムさんを見つめた。


「ウッス!アニキからの任務っス!」


「アニキ?あ、智也さんのか。」


「あれー。俺等が最後?」


後ろを振り返ると、野々山双子と栗色のボブヘアーの可愛らしい女の人がいた。


「おはようございます。」


「あ、おはよう。先生も。」


あたしは雛先輩に挨拶すると先輩は蓮の方を見た。


「おはよう野々山。」


ん?


何だろ…?


すると、ボブヘアーの女の子があたしに近付いて来た。


「聖ちゃん?だよね?私は山田花(やまだはな)です。結界師として今回は同行させて貰うね。」


「花先輩ですね、宜しくお願いします。」


花先輩は何級なんだろう。


胸バッチを見ると壱級と書かれていた。


壱級なのか…。


「こないだの会議にいなかったですよね?」


あたしは花先輩に尋ねた。


「結界師と陰陽師の会議は違う所で行われたの。私達はサポート役だからね。」


「そうなんですか。」


あたしがそう言うと、美月先輩が花先輩の肩を叩いた。


「花は真面目だよ」


「美月が真面目じゃないんでしょ。」


美月先輩があたし達の会話に入って来た。


「ほら、車乗るぞ!!」


蓮はあたし達を呼んだ。


「はーい。」


返事をして車に乗り込むと蓮の隣を雛先輩が座っていた。


え、何で雛先輩が蓮の隣に座ってるの?


「じゃあ、私は助手席乗るね。」


花先輩は助手席に座った。


「聖、俺と座ろうぜ?」


美月先輩があたしの背中を軽く叩いた。


「あ、はい!」


あたしと美月先輩は後ろに乗り込み、隼人は一番後ろに座った。


「それじゃあ和歌山に向かいます!」


オサムさんはそう言って車を発進させた。


この時は知らなかった。


まさか、この任務がきっかけであんな悲惨な事になるとはー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る