式神血晶 赤式蘭門

御子柴楓 十七歳


俺は姉ちゃんの作戦を伝えるべく3人の元に向かった。


3人は何とか沼御前の攻撃を避けていた。


「蓮!!」


俺は近くにいた蓮を呼んだ。


「坊ちゃん!!お嬢は?」


「姉ちゃんから伝言。沼御前の気を引いて欲しいって。」


蓮は姉ちゃんの居る方向を見つめた。


「成る程…。お嬢はアレを使う気ですね。」


「アレ?」


「坊ちゃん。その事を二人に伝えて下さい。僕は少しでも沼御前の体力を消耗させます。」


そう言って蓮は沼御前の尻尾に飛び乗った。


そして全速力で走り攻撃を避けて刀で斬り付けていた。

やっぱり蓮は強い。


それも物凄く。


「おい!!早乙女、前田!!」


俺は二人を大声で呼んだ。


「「!?」」


二人が俺の方を見た。


「姉ちゃんから伝言!沼御前の気を引いて欲しいって!」


「分かった。おい!大介、行くぞ!」


「わわわ!!!待てって!!」


早乙女はそそくさに沼御前に向かって行きその後を前田が追って行った。


「ほらほら!どうした!!!これじゃあ遊びにもならんぞ!!!」


沼御前は高笑いをしながら尻尾を振り回した。


俺は避けつつ尻尾を斬り刻む。


シュッ!!!


「ッ!はっ!」


右頬に沼御前の血液の攻撃が掠れたが構わず攻撃を続ける。


周りを見ると早乙女と前田も擦り傷だらけだった。


蓮のいる方を見つめた。


言うまでもない。


蓮の独壇場だ。


尻尾や血液の攻撃を身軽に避け風の勢いを体に預け刀を一心不乱に振っていた。


「ッオラ!!!」


早乙女の回し蹴りや右ストレート、ボディなど格闘技も沼御前に効いていた。


「ギャァァァァァ!」


沼御前が早乙女と蓮の攻撃を受けよろめいた。


「「ワァオオオン!!!」」


二匹の狼の遠吠えが聞こえた。


上を見上げると姉ちゃんの式神である狼が沼御前の

上を横切った。


合図か!!


俺は素早く沼御前から距離を取った。


他の三人も離れていた。


ヒャッ


肌に冷たい感触を感じた。


今までと空気が違う…。


この涼しげだけど、何処か怖さを感じる静けさ…。


俺は姉ちゃんの方を見た。


「!?」


そこには右腕から血を流している姉ちゃんがいた。



御子柴聖 十七歳


赤札を使う時は自分の血液を赤札に垂らす…だったよね?


どれぐらい出せば良いんだろう…。


確か蓮のお父さんが言ってたような…。


「血を赤札に流した分だけ神が答えてくれます。対価を支払わなければなりません。」


「その対価が…血って事?」


「はい。血液は自分の体の中で巡っているもの。つ

まりは巡りを神に差し出すんです。」


阿修羅王はあたしに力を貸してくれる。


それには対価を支払わなければならない。


あたしは四人を見つめた。


隼人も大介も楓も傷だらけになって時間を稼いでいてくれる。


蓮も…。


あたしは近くにあった義足の破片を取り右腕の袖を捲った。


「フッ!」


あたしは右腕を破片で切り付けた。


ポタッ。


ドクドクと脈を打ちながら血が流れ落ちる。


あたしは式神のシロとクロを召喚した。


「シロ、クロ。皆んなに合図して。」


「「御意。」」


そう言って、シロとクロは沼御前のいる方に向かって行った。


赤札を取り出し血を染み込ませ目を瞑った。


自分の周りに冷たい風が吹い来た。


「さぁ主人よ。我を呼べ。」


阿修羅王があたしの背中にいる。


「式神血晶 "赤式蘭門(あかしきらもん)"。」


そう言うと空と月が真っ赤に染まり風や木、水の音さえも聞こえない。


空には真っ赤な扉が現れた。


「お嬢!!」


「蓮!!」


汗だくの蓮が走って来た。


「その傷は…!?ちょっと失礼します。」


ビリ!!


蓮は右腕の傷を見て自分の服を破り腕に巻いてくれた。


「大丈夫。コレは…。」


キィィィ。


赤い扉が開かれ現れたのは…!


「もしかして…。」


蓮は出てきた人物を見て驚いていた。


「お前か我の主人を傷つけた者は。」


「な、な、な、何故!?阿修羅が此処に居るのじゃ!?」


「五月蝿い女だ。」


そう言うと、阿修羅王は右手を振り翳した。


シュシュシュシュ!!!


阿修羅王の持っていた槍が一斉に沼御前に振りかざされた。


「こんなモノ!!」


「動くな。」


避けようとする沼御前を静止させた。


いや違う…。


動かないんじゃない…。


動けないんだ。


圧倒的な恐怖が沼御前を襲っている。


グサグサグサグサグサクザッ!!!


「ギャァァァァァ!!痛い痛い!!!」


沼御前の手や尻尾、体を槍が貫いた。


傷口がジュクジュクと音をしながら焼かれていた。


阿修羅王がクイっと指を軽く曲げると沼御前の体が浮き阿修羅王の目の前まで移動した。


遠くから見ても分かる。


カタカタと沼御前は震えそれを顔色一つ変えないで見ている阿修羅王。


「あれが…お嬢に支えている阿修羅王…。」


蓮はそう言ってあたしの肩を抱き近くに寄せた。


「本当に神様なんだ…。」


見た事が無かったから実感はしなかったけど、こうして目の前にすると神の力は凄い。


その光景を楓や隼人、大介も見ていた。


凄い光景が目の前で起きている。


「我の主人の邪魔をする者は生きる価値は無い。」


「や、やめろ…!!!」


「フッ。お前では我の遊び相手にもならぬわ。静かに逝け。赤式蘭門。」


ブクブクと沼御前の体が膨れ上がった。


「や、痛い!痛い痛い痛い!!」


そして沼御前の体が弾け飛んだ。


弾け飛んだ血が赤い花びらの様に散っていた。


阿修羅王があたしと蓮の前に降りて来た。


静かにあたしは唾を飲んだ。


すると阿修羅王が跪いた。


「主人の邪魔になる者を排除した。我は暫く眠るぞ。」


そう言って阿修羅王は赤札に戻っていった。


「ありがとう…、阿修羅王。」


あたしは赤い札を拾い上げた。


空が晴れ沼御前の気配が消え平穏が訪れた。


「姉ちゃん!!」


「聖ちゃん!無事ー!?」


「楓!隼人に大介!!皆んな無事?」


あたしがそう言うと三人共その場にへたり込んだ。


「な、何とかな…。」


隼人は頭を掻きながら呟いた。


「それよりもさっきのは…聖ちゃんが!?」


大介が興奮気味にあたしに近付いた。


「お前!姉ちゃんから離れろ!」


楓が大介の首根っこを掴み投げ飛ばした。


「痛いよ?!楓君!こっちは怪我人なんだけど!?」


「お前が変な事するからだろ!?」


「お前ら…静かに出来ねぇのかよ。」


楓と大介の口喧嘩を隼人が止めていた。


「おーい!!お前達ー!生きてるか?」


後ろから声がしたので振り返ると智也さんと総司さんがいた。


「智也さんに総司さん!?」


「どうして此処に?」


あたしと蓮は二人に尋ねた。


「どうしてって。今回の初任務、かなりヤバかっただろー?刑事さんから連絡貰ってな?お迎えに来たわけですよ。」


そっか…だから総司さんも居るのか。


「ほら!楓、早乙女に前田も行くぞ。手当して貰え。」


「怪我人を医療車にお連れして。」


「かしこまりした。」


総司さんの指示で三人は医療車に向かって行った。


智也さんも三人の後に付いて行ってしまった。


あたしと蓮、総司さんがその場に残った。


「聖様。ちょっと失礼しますね。」


「えっ?」


あたしがそう言うと総司さんが軽々とあたしを抱き上げた。


「総司さん!?」


「兄貴。僕がお嬢をお連れす…。」


「蓮も疲れてるだろ。俺がお連れするから。足は大丈夫ですか?腕の傷もかなり深い。」


ジッとあたしを見つめる総司さん。


こんな格好で見つめられれと恥ずかしい。


「は、はい。大丈夫です…。」


「そう…ですか…。念の為に検査をしましょう。聖様は大切な人ですから心配です。」


「え!?」


「!?」


総司さんはそう言うと蓮を見て軽く笑った。


「さっ、行きますか。」


「は、い…。」


「……。」


歩き出した総司さんの後を蓮は静かに歩いていた。


大切な人って…。


いやいや!総司さんの言った言葉に意味はないんだから!


だけど何で蓮を見て言ったんだろう…。


瞼が重い…。


あたしは疑問に思いながら目を瞑った。





フッ。


ロウソクの火が消えた。


「あーあ。沼御前やられちゃったのかぁ。」


一人の鬼がガッカリしながら上を向いた。


「せっかく大蛇様(オロチさま)の血を頂いたのに…。」


狐の女がクルクルと髪を弄っていた。


「まぁ実験は成功したんだし。そろそろ行動に移す時が来た。」


男は不敵な笑みを浮かべた。

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