第参幕 箱庭快楽

いざ福島へ


「私は、貴方のモノにならないよ。」


また、あたしに似た女の子が夢を見ているようだ。


相手の顔はボヤけて見えないけど、言葉を詰まらせているのは分かる。


「どうしてっ?俺はっ、こんなにも君を愛している。

どうして、分かってくれないの?桜(さくら)。」


男の人は、縋るように言葉を吐きながら、女の子に近寄る。


桜って名前なのかな、この女の子は。


「私には、あの人しか愛せないから。」


その言葉を聞いた男の人は、伸ばしかけた手を引っ込めた。


「ごめんね、ー。」


何て、言ったの?? 


よく聞こえない、聞こえなかったけど。


男の人の名前を呼んでいた事だけは、分かる。


本当に、何の夢なの?



ピピピピピピー!!!


「!?」


目覚まし時計の音で、ハッと目が覚めた。


「また…、桜って子の夢。それにあの男の人…、誰かに似ている様な…。」


どうしてだろう。


あの夢に出て来る人物は、何処かで見た事あるような気がする。


むしろ、桜って子が話す度に自分が話しているような感覚がした。



それに、顔の見えない男の人は初対面じゃない気が…、誰だろ?


コンコンッ。


「お嬢、起きましたか?」


ガチャッ。


蓮が扉を開け、軽く顔を覗かせていた。


「今、起きたよ…。とりあえず、着替える。」


「分かりました。カフェオレを淹れて。待ってますね?」 


パタンッ。


蓮はそう言って扉を閉めて行き、キッチンに向かって行く足音が聞こえた。


とりあえず、夢の事は後回しにしておこう。


今日は蓮達と一緒に、任務の為に福島に行くんだから。


ギシッ。


あたしはベットから降りて、義足を装着した。


カチャッ、カチャッ。


念の為にベルトも巻き付けておこう。


太ももと義足の付け根に、きつくベルトを巻いた。


万が一、義足がはずれてしまわないように念の為。


クローゼットから制服を取り出し、パジャマから制服に着替え、鏡で髪を整えた。


そして、机の上に置いてある妖銃を手に取る。 


カチャッ。


弾も幾つかあっても、良いよね一応。


カチャカチャッ。


妖銃の弾丸を補充しつつ、予備用の妖銃にも弾丸を装填して行く。


素早く準備を済ませて、蓮の待つリビングに向かった。


カチャッ。


「お待たせ。」


リビングのドアを開けると、コーヒーの良い匂いが鼻を通る。


ソファーに腰を下ろすと、蓮がコーヒーを飲まながらカフェオレを渡してくれた。


「ありがとう、いただきます。」


「…。お嬢、嫌な夢でも見ました?」


「え?」


「いや。お嬢の様子が少し変だったので…。」


蓮は心配そうな顔をして、あたしを見つめた。


少しの変化でも見逃さないよね…、蓮は。


「あのね…。実はー。」


あたしはカフェオレを飲みながら、夢の話をした。


「嫌な夢とかじゃなくて…。何か引っ掛かるんだよね。」


「嫌な夢じゃなくて良かったです。確かに気になりますね。」


そう言って、蓮はコーヒーを口に運ぶ。


「そうなんだよね…って、そろそろ。時間だよ蓮!!」



時計に目をやると時刻は、5時45分を指していた。


「行かないとまずいですね、行きますか。」


あたしと蓮は慌ただしく、家を出る事に。


チーンッ。


エレベーターを降りると、エントランスに楓と隼人が居た。


「おはよう、姉ちゃん。」


「おはよ。」


「二人共もおはよう。どうして、ここに?」


あたしがそう言うと、隼人が答えた。


「聖を迎えに行こうと思ったら、コイツと鉢合わせた。」


隼人が嫌そうな顔をしながら、隣にいる楓に視線を送る。


どうやら、隼人と楓は同じ事を考えていたらしい。


「あー、成る程。大介は?」


「大介は、学院の前で待ち合わせになってる。それに、俺等がいた方が大介にあやしまれないだろ?」


「あたしと蓮が一緒に、マンションから出てくるのを見たら。大介は、驚くだろうしね…。」


隼人の話を聞いて、二人が来てくれて良かったと思った。


「さ、皆んな車に乗って。」


蓮はそう言って、アルファードにエンジンをかけ、ドアを開けた。


あたしは助手席に乗り、楓と隼人が後ろの席に乗った。


「前田には早乙女と坊ちゃんを、途中で拾った事にして下さいね。」


蓮はシートベルトを付けながら、二人に声を掛けた。


「分かってるよ。」


「了解。」


二人は蓮の問いに答えると、車がゆっくりと走り出した。



校門に着くと、大介と智也さんが立っていた。


蓮は車を停車させた後、降りて行き、友也さんに頭を軽く下げる。


「おはようございますら智也さん。」


「おはよう、蓮。他のメンバーは車に乗ってるのか?」


「はい、後ろに居ますよ。ほら、前田も乗れよー。」


蓮はそう言って、後ろのドアを開けた。


「おーす!隼人、おはようー!楓君も聖ちゃんも!」


「朝からテンション高いね、大介…。」


あたしは大介のテンションの高さに驚き、つい口に出してしまった。 


早朝からこのテンション、寝起きが良いな。

 

楓と隼人も、あたしと同じようにポカーンっとしている。


「俺、寝起きは良い方だからさ!!楓君も朝は苦手かな?」


「は?」


楓は大介の顔を見て、睨み付けた。


どうやら、大介は楓と仲良くしたいみたいだな。


あたしは二人の光景を見ていると、隼人がハッとし

た。


「コイツは、お前のテンションに追い付いてないんだよ。もうちょい、下げろ。」


えぇ!?隼人が楓に気を使った!?


昨日、蓮が言った通りにしてくれてる!?


「お!悪い悪い!!」


大介は謝りながら、後部座席に乗り込んだ。


「ほい。これ警視庁の連絡先。着いたら連絡入れてやって。」


そう言って、智也さんは蓮に小さな紙切れを渡す。


「分かりました。福島に着いたら…、この駅に行けば良いんですか?」


「そうそう。この駅に行けば、刑事達が待ってるだろうよ。」


蓮のスマホを操作しながら尋ねると、智也さんは頷いた。


「分かりました。それじゃあ、行ってきます。」


「あぁ。何かあったら、連絡してくれ。」


「分かりました。」


「お前等も気を付けてな。」


智也さんは車の窓から、あたし達を覗き込んだ。


「気を引き締めます。」


あたしは、智也さんの目を見て答えた。

 

「はーい!理事長!」


大介が智也さんに向かって、敬礼のポーズをしている。


楓と隼人は黙って頷いているだけだった。


そして、蓮は再び車を走らせた。


「福島って、どれぐらい時間かかるの?」


あたしは、運転中の蓮に尋ねる。


「高速で3時間〜4時間かな?トイレに行きたくなったら、すぐ言えよ。パーキングに寄るから。」


そんな遠くなんだ、福島って…。


そう思っていると、大介が大きな声で返事をした。


「はーい!田中っち!!」


「おい、大介。遠足じゃないんだからな?もう少し…。」


「分かってるよ!だけどさ…。やっぱ遠出ってなると

ワクワクしちゃうんだよ!!」


「…ップ!!子供かよ、お前は。」


大介と楽しそうに話している隼人は、あたしと話して

いる時とは違う。


やっぱり、幼馴染だからこそ気を許せる相手なんだろうな。


あたしは二人を見て、ホッコリしていた。


途中でパーキングエリアに止まり、朝食とトイレを済ませてまた車を走らせた。


会話は途切れる事は無く、楽しい車内だった。


楓もなんとなく、大介と打ち明けられている感じだし。


良い雰囲気なんじゃないかな、最初の頃よりは。



高速道路を降り、福島県へと到着した。


東京や京都と違う街並みで、レトロな街並みが広がる。


少しだけ、気持ちが昂るのを感じた。


どうやら、知らない土地に来て興奮してるみたい。


「どこの駅に向かうの?」


「郡山駅って、所。」


あたしは蓮に聞いてみたが、名前を言われても分からなかった。


「名前を聞いてもピンと来ない…。」


「僕達は、こっちの人間じゃないから分からないよね。」


そう言って、蓮はクククッと笑っていた。



佐和進 二十九歳


プルルルルップルルルルッ。


「お疲れ様です、佐和です。」


「おう、佐和か。何か情報あったか?」


「はい。今、ジュリエッタと任務に来ているのですが…。」


ジュリエッタが、俺の隣に近寄って来た。


北海道に眠っている雪女が…。封印が解けていました。それと神社の神主が亡くなりました。」


「……、やはりか。」


「すいません。」


「いや、佐和のせいじゃ無い。ご苦労だったな。また

何かあったら連絡してくれ。」


「了解しました。」


俺は理事長との電話を切り、神社の敷地内に視線を送る。


「進ちゃん…。大丈夫?」


ジュリエッタが、心配そうに俺を見つめた。


「大丈夫だよ、心配すんな。それよりも…、ここで何があったんだ?」


山奥にある小さな神社の鳥居の中は、無惨に殺された神主や巫女さんの姿があった。


匂いだけで、吐きそうになった。


よくもまぁ、こんな殺し方が出来るなと思う。


俺達が到着した時には時は、既に遅かったようだ。


警察や救急隊が集まっており、俺は話を聞いた。


雪女の封印が、どうやら破られたらしい…と。


「何が起きてるんだ…?一体。」


「だけど…。只事では無いよね?進ちゃん。」


「もう少し調べてから、東京に戻ろう。」


「えぇ。」


もしかしたら…八岐大蛇が動き出した?


御子柴家惨殺事件から、妖怪の動きが活発になり始めている。


これだけでも大きな事件なのに、それ以来からか妖怪達の動きが活発になっていた。


そして、陰陽師の被害者が格段と増えた。


理事長も何かを察知して、俺達に任務を頼んで来のだ。


何か掴んでからじゃないと帰れないな…。


俺は再び、ジュリエッタと神社に足を踏み入れた。

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