新たな仲間達

御子柴聖十七歳


早乙女隼人は動きを止め、あたしの顔をジッと見つめながら、口を開いた。


「やっと会えたな、御子柴聖。」


「な!!?」


何で、御子柴の名前が出たの!!?


やっぱり、早乙女隼人は黒だったの!?


カランッ、カランッ。


そう思っていると、早乙女隼人は木刀を床に置き、あたしに跪いた。


「は?」


この状況は、何?


「早乙女隼人が、膝を付いた!?!?」


「う、嘘だろ?」


「ど、どうなってんだよ?!おい!?」


ワァァァァァ!!


ギャラリー達が、一斉に騒ぎ出すのに時間は掛からなかった。


いやいや!!!


ちょっ、ちょっと待て!?


早乙女隼人が、勝手に木刀を床に置いたんだけど!?


どうなってんのは、こっちの台詞なんですけどぉ!?


「勝者、鬼頭聖!!!!」


佐和先生が大声を上げると、ギャラリーは再び、一斉に沸いた。


ワァァァァァ!!!


「おいおい…マジかよ!!隼人が負けるなんてなぁ。」


そう言いながら大介は早乙女隼人に、楓はあたしに近寄った。


「姉ちゃん、お疲れー。」


「楓!?み、見てたの?」


「そりぁ…、姉ちゃんが喧嘩売られてんのに、見に来ない訳ねぇーじゃん?」


楓は隣に立ち、あたしの顔を覗き込んでくる。


「おーい、鬼頭。理事長室に行くぞ、早乙女も付いて来いよ。」


佐和先生が、あたし達を手招きするのが視界に入った。


あたしは、早乙女隼人を横目でチラッと見つめる。


最初見た時の印象とは全然違って、凛としていて太々しさが無くなった。


「鬼頭。」


急に、早乙女隼人に話し掛けられ、佐和先生の元に向かう足を止める。


「後で、話がある。」


「それは、あたしも思った。また、喧嘩売ったりしないよね?念の為に聞くけど。」


「しねーよ、もう確認する必要はないからな。」

 

その言葉を聞いて、早乙女隼人の教室での行動が理解出来た。


もしかして、早乙女隼人は…。

 

最初からあたしを御子柴聖だって、分かってたのかな。


「田中先生も、同席して下さい。」


「分かりました。」


佐和先生が蓮にも声を掛けていたので、蓮も一緒に行く事になった。


「姉ちゃん、終わるの待ってるから。」


「楓、待っててくれるの?」


「勿論。」


楓の言葉を聞いた大介は、早乙女隼人とあたしに向かって声をかけてきた。


「俺も隼人待ってるから!楓君と一緒に待ってるね、聖ちゃん。」


ピクッ。


大介がそう言うと、楓の眉毛がピクッと動いた。


「聖ちゃん?って?」


ゴゴゴゴゴゴゴッ…。


楓から、黒いオーラが漂っていた。


「あ…。えっと…。」


「聖ちゃんって。姉ちゃんに馴れ馴れしいんだよ、お前。」


距離を詰められた大介の顔色が悪くなっていく。


あたしはそれをスルーして、佐和先生に付いて行った。


カツカツカツ。


佐和先生と早乙女隼人の後ろを、あたしと蓮は歩るくうにした。


「お嬢、どうしましたか?さっき、一瞬だけ様子が変だったので…。」


蓮は、よくあたしの事を見てるな…。


「早乙女隼人が、あたしが御子柴だって、気付いた。」


「本当ですか!?」


小声で先程の出来事を話すと、蓮は目を丸くさせる。


「うん。この後に話をする事になったから、蓮にも同

席して欲しい。」


「分かりました。」


「おーい、理事長室に入るぞ。」

 

佐和先生が理事長室の扉を開けて、手招きしていた。


理事長室に入ると、智也さんが小さな箱を手に持っている。


何だろ、あの箱。


「理事長。鬼頭聖と早乙女隼人を連れて来ました。」


「おう、ご苦労だったな。鬼頭、こっちに来い。」


あたしはそう言われて、智也さんの前に立った。


「鬼頭聖を壱級と認定する。」


そう言って、智也さんはあたしに箱を渡して来た。


箱を開けて見ると、壱級と書かれた赤色の札の形をしたバッチが入っていた。


佐和先生があたしの方を見て、声を掛けてくる。


「早乙女隼人のグループに、鬼頭を入れる事になったから。」


「グループ?」


「学生のうちは、4人グループになって、任務を行ってもらう事になってるんだよ。お互いのスキルアップの為にな。」


「成る程。」

 

1人で任務に行く訳じゃないのか。


「俺のグループには、大介が居るから安心だろ。」


早乙女隼人が、あたしの顔を見ながら口を開いた。


「う、うん。」


「それじゃあ、各自解散で。俺は先に戻りますね。今から任務に行って来ますから、これで失礼します。」

 

そう言って佐和先生は、そそくさに理事長室を出て行った。


パタンッ。


理事長室には、智也さんと蓮に早乙女隼人が残された。


「早乙女隼人、話って?」


「理事長室出てからにしねぇ?」


早乙女隼人は智也さんと蓮を見て、遠慮気味に言葉を放つ。


「大丈夫、あたしの…事でしょ?ここに居る人達は知ってるから。」


「え?」


そう言うと、早乙女隼人は驚いた顔をした。


そして、意を決めたようにあたしに尋ねて来たのだ。


「じゃあ…、聞くけどさ。本当に御子柴聖なんだよな?」


「あちゃー、早乙女の坊ちゃんは、気付いちゃったかぁ。」


そう言って、智也さんは煙草に火を付けながら、頭を掻く。


「何故、お嬢が御子柴家の人間だって、気付いた。」


蓮はあたしを背中に隠して、早乙女隼人を睨み付けていた。


早乙女隼人は蓮の気迫に怯えずに、口を開く。


「俺は御子柴聖の下に付く為に、強くなった。アンタ

だって、本当は本城の人間だろ?十一年前の正月に俺達、会ってるんだよ。」


「「え!?」」


驚きのあまり、あたしと蓮の声が重なる。


会った事がある?


あたしと早乙女隼人が!?


早乙女隼人が、ゆっくりと語り出した。


「そうだったんだ…。ごめん!!あたし全然覚えてないわ…。」


「僕だって、覚えてないですよ…。」


いつの時だろう…。


あたしは頭をフル回転さえながら、記憶を呼び覚ます。


男の子…、お正月の時に会ったような…。


「えっと、もしかしてだけど。お正月の時に、御子柴家の近くで…、いた子?」


「思い出したのか!?そ、そうだよ。あの時、アンタに助けられたのが俺だ。」


「あぁ!!思い出した!!ろくろ首と戦ってた子が、早乙女隼人だったの!?」

 

「まぁ、昔の話だから、思い出すのにも時間が掛かるよな。」


「そっか、あの時の…。ごめんね、思い出せなくて。」


昔の事とは言え、思い出せなかったのは申し訳ない。


蓮もあたしと早乙女隼人の会話聞いて、思い出したらしい。


「良いよ、別に。こうして、会えたんだ。」


そう言って、早乙女隼人はあたしの前に跪いた。


「御子柴聖、俺は命を掛けてアンタを守る。俺にも守られてくれないか?聖様。」


真剣な目で、あたしを見つめる早乙女隼人。

 

あの時の男の子が、自分に使えたいって思ってくれるなんて。


あたしの事を探し続けた早乙女隼人に、誠意を見せな

きゃいけない。


隣に居る蓮を見つめると、黙って頷いてくれた。


「僕は、お嬢の意思に任せます。」


「ありがとう。早乙女隼人…、いや隼人。あたしには八岐大蛇の呪いが掛かってる。」


「え?」


「十年前のあの日、八岐大蛇に右脚を喰われたの。そして、呪いを掛けてられた。あたしは東京に居る八岐大蛇を滅するに、京都を出て来たの。」


「死ぬ、呪いなのか?」


隼人の問いに黙って頷くと、隼人は顔を歪ませる。


あたしが八岐大蛇の呪いに掛かってるとは、思はないだろう。


「呪いを解く為に、あたしと一緒に来てくれる?」


あたしはしゃがみ、隼人と目線を合わせた。


隼人は少しだけ、頬を赤く染めながら、口を開く。


「十一年前から答えは決まってる。何処までも、付いて行きます聖様。」


智也さんと蓮が、静かにあたし達を見つめた。


「おい、蓮。十七歳の男に敵対心を剥き出しにすんなよ?」


「まぁ、戦力が増えるのは良い事ですけどね。」


2人が小声で話しているが、あたしには聞こえなかった。


「それとあたしの事は、呼び捨てでお願い。大介に勘

付かれちゃうでしょ?」


バン!!!


扉が乱暴に開かれる音が、部屋に響く。


「姉ちゃん!!!」


「楓?!どうしたの?」


近付いて来た楓が、あたしと隼人を乱暴に引き離す。


「コイツに、全部話したのか!?」


「え、う、うん。隼人が…。」 


楓は怒りながら、あたしに尋ねて来た。


「鬼頭楓!?やっぱり、本当に姉弟だったんだな…。」


隼人が、あたしと楓を見て納得していた。


「坊ちゃん。早乙女隼人は、お嬢に忠誠を誓ったんですよ。」


「は!?蓮と同じって事!?姉ちゃん、コイツの事を信用してんの?」


その言葉を聞いた隼人は、眉間に皺を寄せる。


楓が怒ってるのも、あたしの為だって分かってから良いけど…。


隼人には、分からないもんなぁ…。


「鬼頭楓に言われる筋合いは無い。俺は、聖の犬なんだからお前には関係無いだろ。」


楓と隼人が顔を近付けて行き、お互いを睨み付けている。


これは喧嘩に発展するか?


「おいおい。お前達いい加減にいろよ?それより、聖様達にお話しがあります。」


智也さんが、真面目な顔をしてあたし達を見つめた。


楓と隼人も、智也さんの方に視線を向ける。


「何ですか?智也さん。」


「はい、聖様達に任務が来ました。」


「任務が?」


蓮が智也さんに尋ねると、智也さんは説明を始める。


「八岐大蛇の配下、沼御前(ぬまごぜん)と大蛇を滅すると言う任務です。八岐大蛇達が、百鬼夜行を作る前に滅して欲しい事です。」


「まだ、八岐大蛇と接触はしていないって事か?」


隼人はそう言って、智也さんに尋ねた。


「そうだ、その前にこちらが先に接触し、封印する。福島県庁からの直々の任務だ。未成年の男性が連続行方不明事件が、一週間前から起きている。行方不明者は15人に登った。」


「15人!?」


智也さんの言葉に早乙女隼人は、驚いていた。


沼御前は、美女に化けて人を騙し人を惑わす妖怪だったかな?


成る程、沼御前が男の子達を誘拐して、何かをしようとしてるのか。


「つまり、僕達が沼御前を滅し。行方不明者を助け出すって事ですね?」


「その通りだ、蓮。聖様に早乙女に前田。そして、楓も同行させる。」


「「コイツも!!?」」


隼人と楓の声がハモった。


「問題無いだろ?楓も早乙女と同じ、壱級だ。そして、沼御前は弐級妖怪だ。一応、油断だけはするなよ。」


「楓の同行は賛成よ。大介は弐級だし…。戦力は多い方が良いよね。」


あたしのグループに楓が入ってくれる事に、何も問題ない。


ただなぁ、楓が嫌がるだろうなぁ…。


「お嬢の言う通りです。二人とも仲良くしろとは言わ

ないけど、喧嘩はすんな。それでお、嬢に迷惑掛けな

いでくださいね。」


蓮は二人にビシッと喝を入れると、二人は蓮の言葉を黙って聞いていた。


「明日の早朝に出発してもらう、蓮も同行させる。」


「蓮も連れてって、良いんですか?」


「はい、聖様は慣れていますが。形上、この学院では初任務と言う事になっていますから…。初任務の時は教師が同行するんです。」


「成る程…。」


智也さんの言葉を聞いて、学院のシステムを理解した。


そうか、学院の人からしたら。


あたしは普通の学生に見えてるから、先生も同行させるのは当然だ。


「お嬢が行くのに、僕が行かないなんて有り得ないよ。」


蓮があたしの顔を見ながら、優しく微笑む。


ドキッ。


「蓮が居てくれるなら…あ、安心。」


「そう言ってもらえると、嬉しいですね。」


蓮の優しい紫色の瞳が、あたしを写してる。


綺麗な瞳に吸い込まれそう、ずっと見ていられる。


「コホン!!」


「「っ!?」」


智也さんの咳払いで、ハッと我に帰った。


「す、すみません。」


蓮は慌ててあたしから目を逸らし、智也さんに視線を向ける。


「2人の空間は、2人の時にな?。じゃあ、明日は六時に学院に来いよ蓮。」


「分かりました。」


智也さんはそう言って、あたし達に視線を向ける。


「聖様達も、六時にお願いしますね?」


「了解です。」


「分かった。」


「はーい。」


それぞれが、智也さんに返事をした。


東京で、初の妖怪討伐の任務か。


「それじゃ、今日は解散。ゆっくり体を休めてくれ。」


「分かりました。それじゃあ、失礼します。」


あたし達は、智也さんに頭を下げてから理事長室を出る。


「それじゃあ、隼人。任務の事、話しといてね。」


クルッと隼人の方を振り返り、大介に任務の事を言うように頼んだ。


「分かった。俺はクラスに戻って、大介に話してくるから。」


「お願いね。」


あたしは背を向けた隼人に言うと、手を軽く振っていた。


「早乙女隼人の事を信頼したなら、俺は信じる。だけど、俺はアイツが少しでも可笑しな行動をしたら殺す。」


「楓…。」


「心配なんだよ。」


楓は不安そうな顔をして、視線をあたしの義足に視線を落とす。


相当、あたしが八岐大蛇に右足を食べられた事が、堪えてるみたい。


これは誰の所為でもないのに、責任に感じなくて良いのに。


「楓が付いてるなら、心強いよ。頼りにしてる。」


ポンポンッ。


そう言って、楓の頭を撫でた。


「坊ちゃん。僕も付いてますから、大丈夫ですよ。」


「ま、まぁ蓮の方が、姉ちゃんの周りに目を配ってるよな。分かったよ。」


「さ、行きましょうか。」


「うん。」


あたし達は、長い廊下を歩き始めた。


八岐大蛇の仲間を滅する、百鬼夜行を作られる前に止

めないと。


これが、八岐大蛇を滅する為の第一歩となる任務だ。


あたしは絶対に、八岐大蛇の企みを止める。




「う、ぅぅぅっ。」


「た、助けてくれ…っ。」


「だ、誰か…。」


ポチャン、ポチャン、ポチャン。


夜の静かな湖で、水の弾く音と男達の呻き声が響く。


沼御前は、いやらしい笑みを浮かべながら、苦しむ男達を見ていた。


「大蛇様、早くお会いしたいですわ。」


八岐大蛇に恋焦がれるように、夜空に浮かぶ星々達を見上げる。


そう、恋焦がれるように。



 第弐幕   完

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