太陽と雪月花の中の君に


太陽の光に照らされた天照大神は、とても綺麗な女性だった。


神々しいって、こんな感じなのかな。


それにしても、伝承に載っていたまんまだな…。


「えっ…と、間違いだったら悪いけど。アンタもしかして…、天照大神?」


「神に向かって、アンタとはなんじゃ。まぁ…、そんな事は良い。その通りよ。」


何で、神が俺の目の前に居るんだ?


「どうして、俺の前に居るんだ?」


「見てたから。太陽を通して、其方を見てたからのぉ。」


そう言って、天照大神は俺に微笑んだ。


高天原を統治することになった天照大神は、太陽の神となり太陽の女神として降臨したと聞いた事がある。


だから、太陽をとして俺を見れたのか…。


「強くなりたいと直向きに頑張る姿に、母性を感じたのじゃ。私は其方の母となろう。」


天照大神は、俺の胸に手を当てた。


ポワポワポワンッ。


触れられた部分が、太陽の光に当てられたような、暖かさを感じた。


カサッ。


目を開けると、赤い札が右胸に置かれていた。


拾い上げて札を見ると、天照大神の絵が描かれていた。


「夢じゃ…、なさそいだな。」


この札があるって事は、さっきの出来事は夢じゃない

と悟らされる。


「…、天照大神か。本当に居たんだな、神って。」


日が暮れる前に、俺は急いで前田神社に戻る事に。


その日の夜。


大介が俺の部屋の襖を叩いてから、部屋に入って来た。


「隼人ー。親父さんから、電話が来てるって。」


「親父から?」


部屋を出て、廊下に置かれている黒電話を借りた。


ガッチャンッ。


「もしもし、親父?どうかしたの?」


「久しぶりだな。隼人に話しておかないといけない事があって、電話したんだよ。」


「話したい事?何んだよ。」


「あぁ、実は…。」


そして、親父からとんでもない事を聞かされたのだ。


なんと、御子柴家が惨殺されてしまったらしい。


親父達が御子柴家で出た死体処理と、八岐大蛇の封印されている部屋の調査をしに行っているとの事。


早乙女家は、大嶽丸を大きな岩の中で封印していた。


御子柴家と同じ様に、大妖怪の1人を閉じ込めていたが、いつの間にか封印が解かれていたらしい。


誰が、何の目的で封印を解いてるんだ?


早乙女家の戦闘部隊が、御子柴家に向かっていた時に解かれたそうだ。


俺は山に篭って修行をしていた為、早乙女家には居なかった。


向こうを離れてから、とんでもない事が起きてるようだ。


「一応、お前の耳にも入れておきたかったんだ。」


「今から、家に戻るよ。親父に聞きたい事があるから。」


「は?ちょっ、隼人!?」


ガチャンッ!!


電話を切り、急いで部屋に戻り荷物をまとめ始める。


その様子を見て、驚きながら大介が尋ねてきた。


「ど、どうしたの?そんな、急いで…っ?」


「今から家に戻るんだ。」


「え?何かあったの?」


「あったから、戻るんだよ!!」


「おい、隼人!?」


大介の問いに答え、すぐに早乙女家に向かった。


早乙女家


家に着いた瞬間、大慌てで玄関の扉を勢いよく開ける。


バンッ!!


「親父!!居るか!?」


物音を聞いた使用人が、慌てた様子で俺を出迎えた。


「は、隼人様!?修行をしていたんじゃ…?」


「それより親父は?居るの?」


「は、はい…。東伍(とうご)様は此方(こちら)の部屋に。」


早乙女東伍とは、俺の父親であり早乙女家党首だ。


「案内してくれ。話がある。」


「かしこまりました。」


使用人が親父の部屋に俺を通し、襖を軽く叩く。


親父が返事をすると、使用人はゆっくりと襖を開けた。


「隼人、本当に帰って来たのか。」


「それより親父、御子柴家の生き残りは?」


俺の言葉を聞いた親父は、一瞬だけ間を作るも、口を開ける。


「…、残念ながら居ない。」


「じゃあ…、あの女の子は死んだのか?」


「?!」


俺の言葉を聞いて、親父は驚きのあまり言葉を失った。


「親父。本当は、御子柴家に女の子が居るよな?俺と同い年の。俺達は、代々御子柴家の配下だったろ?俺は、その子に支えたいから、修行に明け暮れてた。そして、この札を手に入れた。」


カサッ。


熱弁の後そう言って、俺は親父に赤い札を見せた。


その札を見た親父は、またしても驚きを隠せていなかった。


「天照大神の御加護を!?…、そうか、隼人は聖様を見たんだな。」


「やっぱり、いたんだな。正月の日、俺を妖から助けてくれたのが、その子だったんだ。」


「聖様が助けた?…、お前に話すつもりは無かったが…。隼人の覚悟に免じて、話してやる。」


そう言って、聖と言う少女の事を親父は話し出した。


御子柴聖と言って、御子柴家の離れに隔離され、いつも妖怪退治の時だけ外に出られていたと。


そして、御子柴家の極秘人物として隠されていたらしい。


彼女は御子柴家の必要な戦闘人形の扱いをされ、その事は本人も承知の上だったようだ。


話を聞いていて、俺は腹が立って仕方がなかった。


御子柴家の人間は、あの子を何だと思ってるんだよ。


「それに、聖様は生きている。」


「本当か、親父!?どこに居るんだ!?」


ガシッと親父の肩を掴み、乱暴に揺らした。


「お前に話せるのは、此処までだ。」


そう言って、親父は俺の手をゆっくり離す。


御子柴聖の事を話したと言う事は、配下の人間の中でも御法度の筈だ。


それなのに、親父は俺に話してくれた。


「生きてるのが分かっただけで良い。俺は、聖様を探すからな。」


「隼人は聖様に支えたいのか?誰かに使える事を拒んでいたじゃないか。」


親父は俺の意思を確かめるように、ジッと目を見つめ

て来る。


「俺はあの子に初め会った時、言ってくれたんだ。生きるのを諦めようとするなって。その時、思ったんだ。俺は、この人の為に強くならないとって。あの子、聖様の側にいてみたいって。そんな理由じゃ、ダメかな。」


「十分な理由だ、頑張れよ。」


ポンポンッ。


親父はそう言って、俺の頭を撫でた。


俺は御子柴聖を探す為、情報を探したが、手掛かりが何も無かった。


1つだけ分かったのは、八岐大蛇が東京に身を隠してると言う事。


俺は大介と共に、東京にある東京隠密学院に入学を決め、東京に移住をした。


妖怪討伐をするにあたって、級が必要だったが。


実践経験がある俺は、余裕で壱級を獲得する事が出来た。


大介には、御子柴聖の事を言わなかった。


親父が俺を信用して、極秘の情報を話してくれたからだ。


それに誠意を見せないと思い、大介には話さない事に決めた。


学院に来て一年が経ち、鬼頭楓が一年に編入してきた。


御子柴聖に似た顔立ちでだった。


もしかしたら御子柴家の生き残りかと思う程に、よく似ている。


俺は鬼頭楓にコンタクトを取ろうとしたが、任務に駆り出されていた為、学院に殆ど居なかった。


鬼頭楓は特例で学院へ入学したそうで、周りも彼を触れ物のようにしているのを感じた。


何も情報が得られないまま、春を迎え、高校二年生になった頃。


俺は任務の為に少し遅れて、教室まで向かっていた時だった。


「鬼頭聖です。」


聖!?


あの子と同じ名前!?


思わず、教室のドアの前で立ち止まってしまう。


ドアを引く手を止め、彼女の自己紹介を暫く聞いてしまった。


苗字が鬼頭…、鬼頭楓と姉弟なのか…??? 


確かめたかった、顔を見たかった。


教室のドアを乱暴に開け、鬼頭聖の姿を目にした。


あの時より大人びた、彼女が大介の隣の席に腰を下ろ

している。


似ている、御子柴聖に。


だけど、確信が得られ無かった俺は、鬼頭聖に喧嘩を振ってみた。


戦ってみたら分かるかもしれないと思ったからだ。


案の定、鬼頭聖は俺の提案を飲み、決闘する事が決定。


決闘開始と共に、俺は鬼頭聖と木刀を混じれた。


戦闘慣れした戦い方や木刀を見事に使いこなし、無駄のない動き。


やはり鬼頭聖は、御子柴聖で間違いない。


確信に変わるのは早かった、同時に嬉しくて仕方がなかった。


あぁ…、彼女は生きていた。 


あの時と変わらず、戦う姿が綺麗だった。


ようやく、ようやく、彼女と出会えたんだ。


「やっと会えたな、御子柴聖。」


「!?、な!!?」


カランッ、カランッ。


俺は木刀を床に落とし、御子柴聖に跪いく。


雪月花の中の君に、やっと届いた。

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