決闘開始


カンッ!!!


御子柴聖と早乙女隼人の木刀が重なり合う音が、体育館に響いた。


ブンッ!!


御子柴聖は、早乙女隼人の行動を素早く交わす。


そして、早乙女隼人は木刀を振ったと思いきや、フェイントを加え、御子柴聖に回し蹴りをして来た。


ブンッ!!


早乙女隼人の蹴りを御子柴聖は、木刀で止めた。


カンッ!!


「嘘だろ…?あの隼人と互角に戦ってる。」


御子柴聖は淡々と早乙女隼人の攻撃を受け流し、次の攻撃に繋げていた。


「当たり前だろ。」


前田大介が振り返ると、太々しい顔をした鬼頭楓が立っていた。


「鬼頭楓!?」


「俺の姉ちゃんだぞ?負ける訳ねぇよ。」


「聖ちゃんは、何者なの?」


その言葉を聞いて鬼頭楓は、悲しそうな顔をした。


「俺の姉ちゃん…。ただ、それだけだよ。」


その光景を本城蓮は、静かに見ていた。




早乙女隼人十七歳


カンカンカンカンッ!!


木刀の打つかる音か体育館中に響く、周りは黙って、俺達を見ていた。


鬼頭聖は俺の攻撃を涼しい顔をして、次々に止める。


何だよ、この状況は…。


側(はた)から見たら、互角の戦いだと思うだろう。


だけど、こっちは違う。


鬼頭聖、めちゃくちゃ戦闘慣れしてやがる。


いや、俺が今まで会って来た奴等よりも強いのが分かる。


決闘が始まった瞬間、鬼頭聖から感じるプレッシャー。


それだけで、相手を萎縮させる事が出来るだろう。


何だ、この威圧感は…。


普通の女じゃないのか?


「ッハ!!」


シュッ。


鬼頭聖は木刀を持ち替え、木刀の先で俺の喉を突こうとした。


ビュンッ!!


早い!!


「ッ!?この野郎!!」


ブンッ!!


俺は木刀の先を振り払う様に、大きく振り上げた。


だが、鬼頭聖は次々と凡ゆる体勢から急所を狙って来る。


コイツ…、確実に急所に突いてきている。


木刀を素早く逆手に持ち替え、隙を見せずに近寄って来る。


交わせば再び新たな攻撃を次々に仕掛け、動きが見えない程の速さで動いていた。


鬼頭聖…、何者なんだよ!?


「大した事ないね、早乙女隼人。」


小声でボソッと呟いた。


「あ?」


「壱級だから強いのかなって思ったけど。本当は、武

器を使う戦い方じゃないよね。」


鬼頭聖は汗一つ流していなく、息も荒くなっていない。


涼しげな顔をして、俺を見下ろしている。


それに、俺の本来の戦い方まで見抜いて来た。


「何で、分かった…。」


俺は、武器を使う戦いをしない。


拳や足技を使うやり方、つまりは体術系だ。


妖怪退治専用の呪符が書かれた包帯を、拳に巻き付ける。


「手に木刀が、馴染んでないから。」


俺はそう言われて、鬼頭聖の手を見た。


手の平にしっくりと馴染んでいる。


初めて教室で見た時から、俺の中で違和感が生まれた。


何処(どこか)で、見た事があると。


俺は改めてじっと、鬼頭聖の顔をよく見た。


この顔…。


あぁ…、やっぱり俺の違和感の正体が分かった。


そうか、俺はアンタの事を…待っていたんだ。



今から、十一年前の一月一日の正月。

白い雪が町を覆い尽くす、冬の季節の頃。


早乙女隼人 六歳。


俺の家系は代々昔から、御子柴家の配下として、御子柴に仕えていた。


そんな決められたレールの上で、生きる事が嫌だった。


御子柴家に挨拶回りをしている隙に、御子柴の家を出た。


雪の降る中で、足を止める事は無かった。


タタタタタタタッ!!


やっと、自由になれた気がしたんだ。


どうして名前、や顔も知らない奴の為に、強くならいといけないの?


大人は、御子柴家の人間に忠誠を誓ってる。


早乙女の人間は、俺の事を好いていない。


いつも修行や鍛錬をサボり、親父の事を邪険に扱っていたからだ。


親父が、御子柴の党首にヘコヘコしている姿を見たくなかった。


何で、そんなババアに頭下げてんだよ。


何で、何で、何で、何で!!!


ゾクッ!!


背中に寒気が走る。


俺は、この寒気を発してる奴を視界に捉える。


「おやおや。こんな所に坊や、一人かえ?」


目の前に現れたのは、俺より身長が高い女だった。


雛人形のような顔立ちで、古い着物を身に纏っていた。


「迷子かや?」


「お前…、妖だろ?」


この女、人間じゃない!!


バッ!!


そう言って、素早くポケットから札を取り出した。


グググッと女は首を伸ばし、不敵な笑みを浮かべる。


「こんなに早く見破られるとは、思わなんだ。若い子供の血肉は美味なのじゃ。」


そう言って、妖怪ろくろ首は舌を出して、ケラケラと笑う。


ゆらゆらと顔を動かし、俺をいやらしい目で見て来る。


気持ち悪りぃ。


「俺を甘く見んなよ、ババァ!!」


ボンッ!!


「ガァウッ!!!」


俺は式神でホワイトタイガーを出し、ろくろ首の長い首に噛み付かせた。


ガブッ!!


「ギャアアア!!!こ、このクソ餓鬼が!!!」 


ブンッ!!


「我が君!!!」


ドタドダドタドタ!!


ろくろ首が乱暴にホワイトタイガーを振り飛ばし、俺の方に突進して来た。


ドンッ!!


術式を言うのが間に合わず、俺はろくろ首の体に当たってしまい、衝撃で体が宙に浮いた。


シュルッ!!


その瞬間、ろくろ首の長い首が俺の体に巻き付いた。


「ヴェッ…。」


体をキツく締め付けられて、息が出来ない。


ギギギギッ…。


「口だけは達者だったのぉ。子供は力が無いのに、口だけは良く回る。だが…、そんな子供を食べるのが、私は好きなんよぉ。」


そう言って、顔を近付けて来た。


何なんだよ、どいつもこいつも馬鹿にしやがって。


悔しいのと苦しくて、涙が出る。


こんな奴に負けるなんて悔しい…。


違う、本当は…。


俺は強くなろうと思っていなかったから、こんな奴に負けたんだ。


だから、仕方が無い事なんだって思えた。


俺がここで死んでも、仕方ないんだって。


「大人しくなったのぉ。では…、頂くとしようかのう!!」


ガバァ…。


ろくろ首が大きく口を開け、俺の顔に近付いて来た。

食われる!!!


パンパンッ!!


銃声の音が雪景色の中で、響き渡る。


同時に白い雪の風景に、赤い血飛沫が飛び跳ねる。


「ギャアアア!!」


グラッ!!


ろくろ首の長い首が緩み、俺は地面に落ちた。


ドサッ!!


「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!!」


急に息が吸え、喉がむせ返り咳が止まらない。


酸素が一気に体や頭に周り、吐きそうになる。


「な、何だ?」


ボヤけた視線の中で見たのは、ろくろ首が沢山の血を流している姿があった。


「誰だぁぁ!?」 


怒りに満ちた声を上げ、ろくろ首はどこかに視線を送った。


「音爆螺旋。」


ジャキンッ!!


その言葉が聞こえた後、ろくろ首の体を光の鎖が拘束していた。


女の子の声がする…。


「お前にその子は食べさせないよ、急急如律令。」


パァァンッ!!


ブシャアアアア!!!


ろくろ首の頭が弾け、飛び霧となって消えた。


ポタポタと赤い血が、白い雪に溶け込む。


雪月花の中で、白い袴姿の女の子が血で赤く染まっていた。


「大丈夫?」


小さな手を差し伸ばして来た。


雪のように白い肌に、茶金の大きな瞳、ピンクアッシュのふわふわの髪。


俺は、女の子の姿を綺麗だと思った。


白い袴に付着した血が赤い椿の花の様に、綺麗に咲いている様に見える。


お人形みたいな女の子は、冷たい目をしていた。


「あ、ありがとう…。」


俺は女の子の手を掴み、ゆっくりと立ち上がる。


俺よりも背の小さい女の子、御子柴家に居たか?


こんな子、見た事がない。


「危ないよ、一人でこんな所に居たら。」


女の子は側に居た黒い狼を撫でていた。


「グルル…。」


狼は女の子に撫でられて、気持ち良いのか小さな鳴き声を発する。


「助けてくれてありがとう。助かった…。」


「君さ。どうして、諦めようとしたの?」


「!?」


確信を急に突かれた。


女の子の茶黄の瞳が真っ直ぐ、俺を視界にとらえる。


何故だろう、見透かされているような気がした。


俺が今、嘘を言ったとしても、女の子にはお見通しだろう。


震える唇を噛みながら、言葉を放つ。


「お、俺は…。逃げたかったんだ。家の式たりで御子柴家に支えたくも無い人間の為に命を捧げなきゃいけないとか。顔も名前も知らない奴なんかに…。」


そう言うと、女の子はゆっくりと俺を見つめて来た。


さっきよりも優しくなった目付きで、口を開く。


「貴方にも…、大切な人が出来たら変わるよ。無理に支えなくたってさ、本当に自分が支えたい人が現れたら、支えればいいよ。」


「君は一体…。」

 

「内緒。」


女の子は意地悪な表情をして、フッと笑った。


ドキッ。


この子の表情の一つ一つに、心臓が高鳴ってしまう。


何だ、この感じ…。


タタタタタタタッ!!


そう思っていると、女の子の背後から誰かが走って来るのが見えた。


「お嬢!!やっと見つけたって、その血は!?」


中学生くらいの男の子が、女の子の体に優しく触れていた。


紫色の瞳…、本城家の人間だ。


「これは返り血だよ、妖怪が居たから滅したの。」


「それなら良かった。さ、戻りましょう。そろそろ、陽毬様が。」


「分かった。お婆様が来る前に戻らないと。」


ヒョイッ。


そう言って、女の子は黒い狼に跨った。


「君も、早く見つけてね。」


「何か言いましたか、お嬢?」


「ううん、何にも。」


二人は雪の降る白い世界の中、消えて行った。



その日から、俺は修行に精を出す日々を送っていた。


妖怪退治にも率先して行ったし、鍛錬も怠る事は無くなった。


親父や早乙女家の人達は、俺の代わりように驚いてい

たが、気にする暇がない。


もしかしたら、あの子は御子柴家の人間かもしれない。


また、あの子に会いたい。


その気持ちだけが、俺を突き動かすには十分なりゆうだ。


親父に御子柴家に女の子は居るかと聞いたら、居ないと言われた。



あの強さを持った女の子は、一体何者なんだ?


御子柴の人間が隠している?


陽毬と言う名前を出した時に女の子は、お婆様と言っていた。


だから、御子柴の人間で間違いない。


御子柴家はあの子をかくしているのか?




数日後


山に篭り修行をする為、早乙女と昔から縁のある前田神社に世話になる事に。


神社の息子の前田大介と修行に明け暮れている中、疲れ果てたまま山中を歩いていた。


大介は一足先に神社に戻っていた為、1人でボロボロな身体を引きずる。



「はぁ、疲れた…。少し、休むか。」


俺は近くにあった木に背をもたれさせ、座り込む。


瞼が段々と重くなり、目を開ける事が出来なくなってしまった。


夢なのか現実なのか分からない夢を見た。


「起きぬか、若者よ。」


誰かに声を掛けられ、重たい瞼をゆっくりと開いた。


すると、そこに居たのは太々しく顔を覗き込む、天照大神(あまてらすおおみのかみ)が居た。

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