二年零組


翌朝、あたしは清々しい気持ちで目覚められた。


ベットから降りて、クローゼットから制服を取り出す。


黒のセーラー服に袖が、浴衣の袖の様に広がっているデザインだ。


義足が分からないように、黒のニーハイソックスを履く。


鏡の前に立ち、赤いリボンを結び全体を確認した。


「こんな感じ…かな?」


フワッと味噌汁の匂いが漂った。


蓮が朝ごはんを作ってくれてるのかな?


良い匂い…。


コンコンッ。


「お嬢。支度は出来ました?」


「うん。」


あたしが返事をすると、蓮が部屋に入って来た。


黒いジャージを見事に着こなしていて、紫の瞳は黒のカラコンで隠れていた。


「凄い先生って感じだね!」


「お嬢も制服似合ってますよ。」


「あ、ありがとう。黒のカラコン入れたの?」


「はい。この瞳だと僕が本城の人間だってバレちゃいますから…。こうして、念の為に眼鏡もします。」


そう言って、蓮は眼鏡を掛けた。


何でも似合ってしまうのが蓮だ。


「朝食の用意が出来ました。」


「ありがとう、わざわざ作ってくれて…。」


「いえいえ、お弁当も作っておいたので。」

「え!?お、お弁当まで?」


会話をしながら、リビングの扉を開けた。


テーブルの上には、ワカメと豆腐の赤出汁の味噌汁、鮭の塩焼き、納豆、肉じゃがが置かれていた。


そして、黒猫の包みに入ったお弁当が2つ。


「美味しそう…。」


「お嬢は少食ですか、食べれる分だけ食べてください。残しても大丈夫ですから。」


「ありがとう、いただきます。」


椅子に座り、手を合わせてから味噌汁を口に運んだ。


「お、美味しい!!この肉じゃがも、お浸しも!!」


「ありがとうございます。」


「蓮って、料理まで出来るんだ…。」


あたしよりも女子力が高い…。


「僕が料理をしだしたのは…。恥ずかしいですけ

ど、お嬢がきっかけでした。」

 

「え?あたし?」


「はい、お嬢の胃袋を掴みたいなって。」


「へ!?」


思わず食べていた物を吐き出しそうになった。




この時、本城蓮は本当の事を言わなかった。


御子柴聖がまだ、本家にいた頃だった。


本城蓮はたまたま、使用人が御子柴聖の食事に毒を入れていた所を目撃した。


使用人の手を掴み、本城蓮は冷たく言葉を放った。


「何してるか、分かってんのか。」


「ひっ!?れ、蓮様っ!?」


「分かってんのかって聞いてんだけど。」


ゴキッ!!


本城蓮は、使用人の手を逆の方向に曲げる。


「あ、ああ、あ、あ、あ、ああ!!」

 

「二度とお嬢に近寄るな。次会ったら殺すぞ。」


「ひ、ひぃっ!?」


「消えろ。」


本城蓮の言葉を聞いた使用人は、走り去った。


毒の入った食材を捨てながら、本城蓮は思った。


この屋敷の中は、地獄だと。


御子柴聖は何故、こんなにも他人から殺意を向けられているのかと。


「蓮?どうしたの?」


痩せ細った白い手が、本城蓮の服の袖を掴んだ。


弱々しく細い体を抱き寄せ、幼い御子柴聖を抱き締めた。


「蓮ー?」


「お嬢の事、抱き締めたくなったんです。」


「ふふっ、なにそれー。」


御子柴聖の無知な笑顔が、本城蓮の目に焼き付いた。


その日を境に、御子柴聖の食事を本城蓮が作っていた。


この事は、本城克也と御子柴家の人間しか知らない事であった。



蓮はジッと、私の顔を見てから立ち上がった。


「そろそろ、行きますか。」


「う、うん。」


あたしと蓮は家を出た。


駐車場に行くと、蓮が黒のプリウスにエンジンを掛けた。


「あれ?蓮の車?」


「そうですよ。夜中のうちに運んで貰いました。さ、乗って下さい。」


パカッ。


そう言って、蓮は助手席を開けてくれた。


「ありがとう。」


「いえいえ、閉めますね。」


蓮が扉を閉め、運転席に乗り込んだ。


そして、緩やかに車が発進した。


「お嬢。学校の近くで車を止めますから、そこからは別行動になります。」


「あたしと蓮が知り合いって事は、内緒にしといた方が良いね。分かった。」

 

「すいません。お嬢をちゃんと学校まで、送りたいんですが…。」


そう言って、蓮は申し訳無さそうな顔をした。


「蓮は気にし過ぎだよ。あたしは大丈夫だしさ、学校では他人のフリよ。」


「分かりました。」

車が学園の近くで、止まった。


「じゃあ、また後で。」


「お嬢、気を付けて下さいね。」


「はーい。」


そう言って、あたしは車を降りた。


蓮は降りたのを確認してから、蓮が車を発進させた。


「姉ちゃん。」


振り返ると、黒いブレザーを着ている楓が立っていた。


一昨日は私服姿だったので、制服姿を見るのは新鮮だった。


「楓!!おはよう。」


「おはよう、姉ちゃん。学校まで、一緒に行こうぜ。」


「良いよ。」


「学校に着いたら、職員室まで案内するから。」


「それは助かる。場所分かんないから。」


校門に近付くと、他の生徒からの視線が痛かった。


見た目が不良の生徒がほとんどなので、普通だったら怖がると思う。


だけど、あたしは学校に行った事が無かったから、

これが普通なんだろうと思っていた。

 

楓が周りの生徒達を睨み付けていた。


「どうしたの、楓?」


「姉ちゃん。これからはちゃんと危機感を覚えろよ。」


「?」


「はぁ…。悪い蟲(むし)が付かないか心配だ。」


「蟲?」

 

「そう言う所だよ。」


楓が何を言いたいのかは分からなかったけど、とり

あえず気をつけようと思った。


学校の中は不良高校とは思えない程の綺麗さだった。


何処かのオフィスの様な清潔さがあった。


職員室と書かれたプレートが貼られている部屋が見えた。


「この部屋が職員室な。」


「ありがとう。ここまで案内してくれたら大丈夫。」


「何かあったら連絡しろよ?今から智也さんの所に行くから、じゃあな。」


そう言って、楓は歩いて行った。


ガラガラッ。


扉を開けると、金髪の縦ロールの髪を靡かせ、色白

な肌に長いまつ毛、赤い口紅が似合う女性がこちらを見ていた。


そして、立ち上がりあたしの方に歩いて来た。


近くで見ると、凄く綺麗な女性で、世の中の男子は放っておかないだろう。


それに、めちゃくちゃスタイルが良い。


背が高いのが逆にカッコよく見える。


「貴方、もしかして、鬼頭聖さん?」


「そうですけど…。」


「やっぱり!!楓と一緒に居たから、そうだと思ったのよ!」


美女が凄く興奮していた。


「おい。ジュリエッタ、落ち着けよ。」


後ろから眼鏡をしている男性が現れた。


サラサラとした黒い髪、黒縁眼鏡の奥から黒い瞳が

見えた。


結構、キツめの顔付きなんだな。


普通に見える男性だけど、大人の男性って感じだ。


「ごめんな。俺は君の担任になる佐和進(さわしん)だ。で、コイツがジュリエッタ・Aだ。」


「宜しくー。」


ヒラヒラッと女性は、あたしに手を振った。


名前からして外国人なのかな…。


「そろそろ、時間だな。じゃあ、鬼頭さん。クラスに案内するから付いて来て。」


「あ、はい。」


「行ってらっしゃーい。」


ジュリエッタさんに見送られながら、あたしと佐和先生は教室を出た。


階段を上がり、一番奥の部屋まで歩いた。


部屋には、ニ年零組と書かれていた。


この部屋から騒がしい声が漏れていた。


ザワザワザワ。


「俺が合図したら入って来てくれ。」


「分かりました。」


佐和先生は教室に入って行った。


「あ!!佐和セン!!今日、転校生来るんだろ?」


「男!?女!?どっち!?」


「ギャハハ!!!」


「うるせぇ!テメェ等、静かにしろ。」


佐和先生がそう言うと、クラスがシーンと静まり返った。


すると、佐和先生がこちらを見て手招きをした。


入れって事かな?


あたしは教室のドアに手を伸ばした。


ガラガラ。


あたしが教室に入ると、男子の歓声が耳に響いた。


「え!!?めっちゃ可愛い!!!」


「レベル高過ぎだろ!!」


「ねぇねぇー!!彼氏居ますかー!!」


な、何だコレ!?


女子は、あたしの事睨んでるし。


学校でこんな感じなの!?


佐和先生は、スラスラとあたしの名前を黒板に書いた。


黒板の字を見て、男子は急に静かになった。


女子はヒソヒソと話し出した。


「鬼頭聖さんだ。分からない事も多いだろうから、皆んな助けてやってくれ。」


「宜しくお願いします。」


あたしは軽く頭を下げた。


「鬼頭…って。もしかして、一年の鬼頭楓の…?」


「もしかして、お姉ちゃん…とか?」


「よく見たら、顔も似てるしな。」


もしかして、楓って結構有名なのかな?


「じゃあ、鬼頭さんの席は一番後ろの窓際な。」


「はーい。」


あたしはヒソヒソ声を無視して、自分の席向かった。


「宜しくー聖ちゃん♪」


隣に目を向けた。


ミルクティアッシュの襟足の長い髪、丸めの緑目、少し白い肌に、光り輝くピアスをした男の子がいた。


可愛い顔してるな…。


「僕は前田大介(まえだだいすけ)だよ。宜しくね、聖ちゃん♪」


「聖ちゃん?」


「女の子は皆んな、ちゃん付けで呼んでるんだ。」


「へぇ…。まぁ…、宜しく。」


もしかして、この男の子は世で言う女好き?


初対面で馴れ馴れしいな…。


ガラガラッ!!


教室のドアを乱暴に開ける赤い髪の男の子が、目に入った。

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