蕾の進行壱
楓に手を引かれながら、校舎裏に着いた。
運転手が車の中で待っていてたので、あたし達を見て直ぐに、後部座席を開けてくれた。
「お疲れ様です、聖様。」
「送ってくれてありがとね、楓。」
あたしは振り返り、楓にお礼を言った。
「全然良いよ、あ、そうだ。姉ちゃん、連絡交換しようぜ。」
そう言って、楓はポケットからスマホを取り出した。
「良いよ。蓮とも交換しとけば?何かと連絡する事
もあるだろうし…。」
あたしの言葉を聞いた楓は、一瞬だけ嫌そうな顔をしたが、蓮とも連絡先を交換していた。
蓮の後にあたしも交換した。
「じゃあ、俺は任務に行ってくるから。ここまでしか送れないけど気を付けて。蓮もちゃんと姉ちゃん守れよ。」
そう言って、楓はジッと蓮を見つめた。
「分かっていますよ、坊ちゃん。もう、あの時のような思いはしたくありませんから。」
「蓮…。」
「なら良いけど。じゃあな。」
楓はあたしに向かって、手を振り歩いて行った。
運転手も楓の姿を見送り、車を走らせた。
車を走らせて、15分が過ぎた時に車がマンションの前に止まった。
見た目は、凄く綺麗なマンションだな…。
引っ越し屋さんが、マンションの下で待機していた。
蓮はそれを見て、車を降り話をしていた。
このマンションで、蓮と住むのか…。
コンコンッ。
窓ガラスを叩く音が耳に響いた。
音のした方に視線を向けると、蓮が手招きをしていた。
あたしは車から降り、蓮に駆け寄った。
「お嬢、このマンションが僕達の住処です。セキュリティーも頑丈ですから、人間相手はまず大丈夫ですよ。」
「そうなんだ…。高そうなマンションだね。」
「さ、部屋に行きますか。部屋の中探検しませんか?部屋広いみたいなので。」
そんな事を言われると、早く部屋を見てみたいと言う気持ちが昂(たかぶ)った。
「え!見たい!早く行こう!」
「フッ。分かりました。」
あたしと蓮は、自分達の部屋に向かった。
マンションは10階建てで、あたし達の部屋は最上階だった。
部屋の番号は、1002号室だった。
エレベーターで10階まで登り、部屋のドアを開けた。
「うわぁ!」
部屋は、4LDKでかなり広い。
これはいわゆる、高級マンションでは…?
「凄い広い!」
「中々良いですね。綺麗ですよね。」
部屋を見渡すと、白をベースにシックなデザインが施されていた。
「この部屋が、お嬢の部屋ですよ。」
蓮に手招きされ、近寄った。
扉を開くと、プリンセスベットにドレッサー、フカフカの絨毯がひかれていた。
白のドレッサーに、花の形のシャンデリア、大きなテディベアも置いてあった。
まさに、お姫様が使っていそうな部屋だった。
「お、お姫様の部屋か!!」
「お嬢のイメージで作りました。僕の力作です
よ?」
蓮の趣味か…。
「あたしのイメージって、こんな感じなの?」
「僕には、お嬢はお姫様ですよ。」
ドキッ。
こう言う事をサラッと言うのが、蓮だよな…。
「他の女の子にそんな事言ったら、勘違いしちゃうよー。」
他の子に言わないでって、意味で言ったけど…。
「お嬢以外に言いませんよ、こんな事。」
「へ?」
ドキッ、ドキッ、ドキッ。
心臓の鼓動が速くなる。
そ、それって…、あたし以外の女の子に言わないって事?
「さっ、もう夜ですし、早めに休んでください。荷物は代々業者の方が、やってくれたみたいなので。僕は、夜ご飯を作りますから。その間に、お風呂にでも入ってください。」
蓮はそう言って、部屋を出て行った。
「蓮の奴め…。心臓がいくつあっても、足りないし…。」
蓮の背中を見つめながら、あたしは呟いた。
クローゼットを開けて見ると、何着か服が既に掛け
られている。
カジュアルな服に、フリルの付いた服、様々な種類
の服があった。
今、適当に着る物を取り、お風呂場に向かった。
お風呂場に付き、脱衣所たぬ服を脱いで、義足を外し、お風呂に入った。
既にお湯が溜められていたので、シャワーで体の汚れを落とした。
片足から湯船に入り、体も湯船に入る。
「ふぅ…。あったかい…。」
東京に来て、1番ゆっくり出来た時間だな。
「東京に八岐大蛇がいるんだ…。早く、探さないと…。」
妖怪の姿じゃなくて、人間の姿になって、過ごしている可能性が高いな…。
特定するのは、難しそうだな…。
人間に化けられたら、見分け付かないからなぁ…。
向こうは完全に、妖気を消してるだろうし。
ズキンッ!!
背中に鋭い痛みが走った。
「ッ!?な、なに…、こ、れ。」
痛過ぎて、息が出来ない。
脈が打つ度に、背中の痛みが増す。
背中と心臓に激しい痛みが襲った。
今までに感じた事のな痛いが、月下美人の入れ墨の部分からしている。
な、何で?
今まで、何にもなかったのに。
グラッ。
視界が揺れる。
やばい…、意識が。
「れ、ん…。蓮!!!」
力を振り絞り、蓮の名前を呼んだ。
本城蓮 二十四歳
僕はお嬢の部屋を後にし、簡単に食べれる物を作っていた。
手際良く、次々に品を完成させる。
「こんなものかな?」
だし巻き玉子に鯖の塩焼き、ほうれん草のお浸しに味噌汁を作った。
あとは…、作り置きに出来る物を何品か…。
「蓮!!」
お風呂場の方から、お嬢の大きな声が聞こえた。
声の質からして、只事では無いのが分かる。
僕は足速にお風呂場に向かい、ドアを開いた。
バンッ!!
「お嬢!!?」
湯船の中で、グッタリとしているお嬢が目に入った。
「お嬢!?どうし…!。」
背中が赤く腫れ上がっていた。
まさか…、月下美人の蕾が!?
10年間、全く変化が無かったのに…。
「お嬢、失礼します。」
ザパァッ!!
そう言って、僕は湯船からお嬢を出し、素早くタオルを巻きお姫様抱っこをした。
「ハク!!」
僕が大きく叫ぶと、札の中から大きな白い狐が現れた。
ボンッ!!!
白い煙が、浴室を真っ白に染めた。
「主人よ、どうされた。」
「兄貴の所に行くぞ。」
「直ぐに、私の背中に跨れよ!!」
着ていた上着をお嬢に着せ、ハクの背中に乗った。
「行くぞ!!」
僕とハクは窓を飛び出し、兄貴の所に向かった。
ハクは身軽に、空の上を掛け抜けて行く。
「お嬢…。」
ギュッ。
僕はお嬢の体を抱き締めた。
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