秘密の共有者

楓は大きな声を出しながら、言葉を続けた。


「テメェ、姉ちゃんの事守るって、言ってたよな?守れてねぇじゃん!!右脚を喰われて…、おまけに呪いを掛けられた?何やってたんだよ!?」


「すいません、僕の力不足でした。」


「本当に、ムカつく野郎だ。ふざけんな、ふざけんな!!」


やばい、ヒートアップしそうだ。


あたしは慌てて、楓を止めに入った。


「楓!!蓮は悪く無いよ!あたしが、弱かったからいけないの。」


「姉ちゃんは、悪くないなだろ!?」


「楓、これは誰も悪くない。悪いのは…、八岐大蛇の封印を解いた人物だよ。」


この悲劇の原因は、八岐大蛇の封印を解いた人物。


あたしがそう言うと、楓は蓮の胸ぐらを離した。


「誰も見てなかったのかよ。あの部屋の管理は、誰がしてたんだ?」


ドサッ。


楓は、智也さんの隣に腰掛けた。


あの部屋と言うのは、八岐大蛇を封印していた部屋の事だ。


でも、確か…、あの部屋の管理は…。


「僕は、屋敷の外を見回りしてました。ですので、屋敷内の管理は、誰がしていたまでは…。」


蓮は思い出しながら、言葉を放った。


「あの部屋は、お婆様が管理してたよ?確か…。」


あたしの言葉を聞いた智也さんは、何かを思い付いたようだった。


「もしかしたら…、御子柴家の配下の者が…?」


「「「!!?」」」


智也さんの言葉にあたし達は、驚いた。


「陽毬様が、心を許している相手だったら、屋敷の中に通す可能性は高いな…。」


蓮が、顎に手を当てながら呟いた。


御子柴の配下とは、簡単に言うと、御子柴家の家来の陰陽師の家柄の事だ。


大阪にある鬼頭家に、東京の早乙女家(さおとめけ)、そして、名古屋の水島家(みずしまけ)の三つが傘下の家柄だ。


お婆様が気を許す相手は、この家柄の誰かって事?


「聖様は、何か心当たりはありますか?」


「お嬢は、ずっと隔離部屋に居たから…。その辺の事情は、分からないんです。」


あたしの代わりに蓮が、智也さんの問いに答えた。


「僕の方で、調査をしてみます。分かり次第、聖様に報告しますね。」


「智也さん…。よろしくお願いします。」


「それと…、聖様の苗字を変えて入学してもらいます。」


「苗字を?」


「はい。この学院には、早乙女家の坊ちゃんが通っているんです。十年前の御子柴家惨殺事件で、皆死んだと思っていますから…。」


十年前の事件に関係している人物が、居るかも知れないって事か…。


確かに、御子柴の名前は伏せていた方が良いね。


「分かりました。楓の苗字は、何にしたの?」


「俺は鬼頭家に居るから、鬼頭楓で通してるよ。」


「あ、そうだ。蓮も苗字変えろよ。ここで仕事すんだろ?」


「は?」


智也さんの言葉を聞いた楓の口から、言葉が漏れた。


あたしは当然、ここに来る前に蓮と克也さんから聞

いていたから、驚かなかった。


「何の仕事するんだよ、お前。」


「教師ですよ。」


「教師…って、教育免許持ってねーだろ。」


「持ってませんよ。」


「は?」


蓮の言葉に楓は、唖然としていた。


「智也さんに、手配して貰いました。」


そう言って、教育免許を見せて来た。


そこに表示されている名前は、田中蓮(たなかれん)と書かれていた。


偽名で作ったって事か…。


「はぁ?智也さんが手配したのかよ。」


「あたしも苗字は、どうしようかな…。」


「それでしたら、鬼頭の名前をお使い下さい。楓と聖様は、見た目が似ていますから…。他人のフリは、無理でしょう。入学の手配も出来てますから。」


「仕事が早いですね。でも、良いんですか?鬼頭の名前を使っても…。」


「別に良いんじゃね?智也さんが話を通すだろうし…。それに、いつでも姉ちゃんを守れる環境に居てくれた方が、俺が…、安心で、出来るし…。」


楓が顔を真っ赤にしながら、あたしを見た。


やっぱり、昔と変わらないな。


喋り方とか、体格が男の人になったけど。


あたしは楓を見つめ返した。


「ありがとう、頼りにしちゃうね楓。」


「いつでも頼って良いからな!」


「ふふ、可愛い。」


そう言って、思わず楓の頭を撫でてしまった。


楓も嬉しそうな顔をしてくれた。


「それと、これが学院の制服です。」


智也さんは、あたしに紙袋を渡して来た。


中を見ると、黒いセーラー服が入っていた。


「ありがとうございます、智也さん。何から、何まで…。」


「いえいえ。聖様には、快適な学園生活を送って頂きたいですから。」


智也さんは、本当に仕事が早いなぁ…。


色々準備してくれるのは、凄くありがたい。


「智也さん、ありがとうございました。それじゃあ…。そろそろ、僕達は失礼します。荷物が届く頃ですから。」


「荷物?どこに?」


あたしは蓮に尋ねた。


「僕とお嬢が住む家にですよ?」


「あ、え、?」


「あー。それで、僕に物件を探して欲しいと言ったのか。」


蓮の言葉に智也さんは納得していた。


どうやら、あたしと蓮の家を智也さんが探してくれていたらしい。


れ、蓮と一緒に住む!?


と、と言う事は…、2人暮らし!?


心の中で動揺していると、楓の方が動揺していた。


楓は慌てて、蓮に言葉をぶつけた。


「蓮と住むのか!?姉ちゃん!?」


「それは当然でしょう?坊ちゃん。」


「男女が一つ屋根の下で、暮らすんだぞ!?何かあったら、どうすんだよ!?」


「それは絶対にありません。」


ズキンッ。


胸に鋭い痛みが走った。


蓮と一緒に住む事を、何処かで、喜んでる自分が居た。


むしろ蓮になら…、なんて思っていた。


そんな、あっさり言われるとは、思わなかった。


自分がはしたない女に思えて来た。


何、考えてんだろ…。


あたしは…。


そんな事を考えていると、蓮があたしに視線を送った。


「お嬢の事を傷付けるような事はしません。むしろ…。」


スッ。


蓮の手が優しくあたしの手を握り、見つめて来た。


「大事過ぎて、触れませんよ。」


キュュンッ。


蓮の言葉一つに、感情が乱される。


舞い上がったり、落ち込んだり。


蓮…、そんなにあたしが大事なの?


瞳からも語っている。


あたしの事が大事だと。


そんな事言われて、嬉しくない訳がない。


どうしよう…。


今、凄く女の子扱いされてる。


自分の顔が赤くなるのが分かる。


「お嬢?顔が赤いですけど…、熱いですか?」


「!!う、うん…、ちょっと。」


智也さんがボソッと「蓮は天然なのか?」っと呟いた。


「この部屋で話した事は、誰にも構外はし無い事。この事を知っているのは、僕達4人。秘密の共有者と言う事を忘れないで下さい。」


あたし達は、智也さんの言葉に黙って頷いた。


「それでは、今日の所は解散で。」


「お嬢、お手をどうぞ。」


蓮はそう言って、手を差し伸ばして来て、あたしを椅子から立ち上がらせてくれた。


「楓は、今から任務だろ?」


智也さんが、楓に話し掛けていた。


「姉ちゃん送ってから行くよ。姉ちゃん、送ってくよ。」


「え、ちょ、ちょっと!!」


パシッ。


蓮の手を払い除け、楓があたしの手を引き、理事長を後にした。


「あははは!!楓は、お前に聖様を取られたく無いみたいだな?」


「そうみたいですね。可愛いものですよ。」


「ずっと、聖様に会いたがってたからな、楓は。迷惑掛けるかもしれないが、楓の事も見てやってくれ。」


「分かりました。」


あたし達の背中を見ながら、2人が話していたのに気付がなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る