東京陰陽学院の理事長


学校の裏に回ると、裏門の前に男の人が立っていた。


焦茶色のパーマヘアーに、少し焼けた肌と切れ長の目、黒のスーツが似合う、ダンディな男性がいた。


蓮が男の人の姿を見て車を降り、男の人と話していた。


もしかして、理事長かな?


運転手が来るから降り。後部打席のドアを開けた。 


パカッ。


降りろって事かな…?


あたしは車を降り、蓮の元に向かった。


「お嬢。こちらが親父の知り合いで、学院の理事長です。」


「聖様だよね?初めまして、僕は鬼頭智也(きとうともや)です。」


鬼頭家の…。


鬼頭家は、御子柴家の傘下に入ってる一族の事だ。


あたし達と同じ、陰陽師の仕事を生業としている。


「初めまして、聖です。今日は、宜しくお願いします。」


「こちらこそ、理事長に行こうか。」


あたしと蓮は、智也さんの後を付いて行った。


裏門を潜り人気の無い道を通り、理事長室に着いた。


生徒の1人とも、顔を合わせずに学院内に入れた

な…。


学院内はとても綺麗で、学校とは思えない造りだった。


大きな病院みたいな感じで。


学校を見たのは、妖が出て任務に行った時だけど…。


理事長室と書かれた部屋前に到着した。


智也さんが中に入った後に、あたし達も理事長室の中に入った。


すると、智也さんは札を取り出し、扉に貼った。


ペチッ。


何をしてるんだろ?


「あ、あの…、一体何を?」


あたしは、智也さんに尋ねた。


「結界ですよ。誰も通れないようにしておくんです。」


用事深いな…。


流石、克也さんの知り合いだけあるな…。


札を貼り終えた智也さんは、ソファーに腰を下ろした。


そして、ゆっくりと話を始めた。


「単刀直入に聞きます。御子柴家の人間は、誰が生き残って居ますか?」


「智也さん!!」


ガタッ!!


隣に座っていた蓮が、体を乗り出した。


「蓮、あたしは大丈夫だよ。」


トントンッ。


蓮の体を優しく、叩いた。


智也さんは間違った事を聞いて来てない。


当然の事だ。


傘下の人間なら使えている御子柴家に、生き残っている人が居るか確認したい筈だ。


蓮は、あたしに気を遣ってくれたんだろうな。


「弟と本城家に居る母、それと、あたしだけです。お婆様とお父さんは、酒呑童子に殺されました。」


「成る程…。御子柴家の生き残りが居ると分かれば、妖怪達は聖様達を血眼(ちまなこ)になって探すでしょう。」


「どうして?」

 

不思議に思い、智也さんに質問をした。


「八岐大蛇と御子柴家は、因縁の中なのはご存知ですか?」


「お婆様が話してたのを聞いた事があります。八岐大蛇の率いる大妖怪と御子柴家率いる陰陽師達が、争い続けていると。」


「智也さんが言うのは、お嬢の母上と弟が危険な目に遭うって事ですか?」


「!!?」


蓮の言う事が、本当なら…。


「それは、大丈夫だ。聖様のお母さんの護衛だけで、良いだろう。」


「え?」


「本城家に身を置いているのなら安全ですよ。実は、聖様のお母上は、鬼頭家の人間で…。つまりは、僕の姉です。僕と聖様と楓君は血縁者なんです。」


「「えぇぇぇ!!?」」


智也さんが、まさかの叔父!?


信じられないんだけど…!?


「智也さんが、お嬢の叔父だって…。親父は…、何で、教えてくれなかったんだ?」


「蓮、それは僕が口止めしたんだ。」

  

智也さんが、口止めした?

 

「どうして?」

 

あたしは、智也さんに尋ねた。

  

「僕も克也に聞くまで、聖様の存在を知らなかった。御子柴家は、聖様を隠していたから。」

 

「外部の人間が、お嬢の命を狙っていたしな…。」


「克也から聖様が、この学院に来る事を聞いた。僕は親父からの任務で、理事長をしているんです。」


「任務…。」


そう言えば、お婆様は何で…。


あたしを隔離してまで、外部に情報が漏れないようにしたんだろう…。


今更なんだけと。


「それと、楓(かえで)は今、壱級陰陽師なんですよ。」


「「えぇぇぇ!!?」」


あたしと、蓮は驚いた。


「壱級陰陽師って、蓮と同じ壱級って事だよね…?」


「坊ちゃんが、壱級…。」


蓮は楓の事を"坊ちゃん"と呼ぶ。


まさか、楓が陰陽師になってたなんて…。


最後に会ったのは、四歳の時だった。


今の楓は、十四歳になるよね。


東京にいるなら、いつかは会えるかな…。


「楓は特例で、この学院に通っています。」


「楓が!?」


コンコンッ。


扉のノック音が、部屋に響く。


スッ。


蓮があたしを背中に隠すように、前に立った。


智也さんは、スタスタと扉の前に歩いて行った。


そして、ゆっくりと扉を開けた。


ギィィ…。

 

現れたのは、あたしと同じ髪色と瞳の男の子が立っていた。


ドクンッ。


心臓が高鳴った。


だって、目の前に現れたのは…。


背が伸びてて、耳には沢山のピアス、可愛らしい顔付きは変わっていなかった。

 

見た瞬間に、確信した。


見間違えるはずが無い。


男の子も、あたしを見て驚いていた。


「ね、姉ちゃん…?」


「久しぶり…、楓。」


楓はズタズタと、あたしの前まで歩いて来た。


「ぼ、坊ちゃん?」


「か、楓…?」


ポロポロッ…。


楓の瞳から、綺麗な涙が溢れていた。


「姉ちゃん生きてたんだ…。良かった…、俺…、姉ちゃんが死んじゃったかと思ったから…。」


「楓…、ごめんね。あたしは、ちゃんと生きてるよ。だから、泣かないで。」


そう言って、あたしは楓を抱き締めた。


楓は力強く、あたしの体を抱き締め返した。


まるで、自分の手で生きている事を確認するかのように。


「悪いな楓。聖様の情報を漏らすなって、上からの命令だったから。」


ポンポンッ。


智也さんは、楓の頭を優しく撫でた。


「智也さん。坊ちゃんを呼んだ理由は?」

 

蓮が、智也さんに尋ねた。


「聖様の情報を共有する為に呼んだんだ。」


「あたしの情報?」

 

「また、姉ちゃんの事縛るのかよ…。」


そう言って、あたしの体を離し、楓は拳を強く握った。

 

「親父や婆ちゃん、御子柴家の人間が死んだ事は悲しい。だけど、やっと姉ちゃんは外に出られたのに…。」


「楓。聖様は、八岐大蛇の呪いを掛けられた。」


「!?」


智也さんの言葉に楓は驚いた。

 

「姉ちゃんの右脚…、どうしたの?」


楓はあたしの右脚を見つめた。

 

義足の付いた脚を見て、楓は声を震わせた。

 

「これは…、八岐大蛇に…。」


「っ!!」


ガシッ!!


あたしがそう言うと、楓は蓮の胸ぐらを掴んだ。


「楓!?」


「テメェ…。姉ちゃんの事、守るって言ったよな!?何してんだよ、お前!!」


楓は蓮を怒鳴り付けた。

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