ランジェリーショップ
「では先輩! 早速ですが───」
そう言って、睦月は近くにあった下着を二着手に取った。
「先輩は、どっちの下着がいいですか?」
「ふむ……」
睦月が手に取ったのは薄い桃色のレース付きの可愛らしい下着と、パープル柄の布面積の少ない下着であった。
デートにおいて、女性の服を選ぶという行為はよくあるイベントだ。
だが、その行為は付き合う前からでも可能な行為であり、決して『付き合ってから』という枠だけに当て嵌るものではない。
だからこそ、ワンランク上げて服ではなく下着というチョイスを選んだのだろう。
これであれば付き合う前の人間ではなく、親密になったカップルにしか起こせないイベントに変貌する。
何故なら、付き合う前の人間に下着を選ばせるような行為などするはずもないからだ。
(流石だ睦月……それを理解してのランジェリーショップだったとは)
思わず脱帽してしまいそうだ。これなら、誰が何と言おうと『付き合ってから』のラブコメである。
(となれば、経験のためにもここは真剣に考えなければいけないな)
想像しろ、女性の服を選ぶ時のように、睦月はどちらの服が似合うのかを。
思考の海に潜り込むと、脳裏に選択肢として提示された下着を身に纏った睦月の姿が浮かび上がる。
桃色のレースを身に纏った睦月は一言で言えば可愛らしかった。
服越しでも分かるクビレのあるラインと寄り添うように身についている桃色は子供らしさを残し、それでいて子供らしさの内から見え隠れする女性らしさの魅力と背徳感が己に眠る滞在的欲求を刺激する。
片やパープル柄の下着を身に纏った睦月は一言言えばエロかった。
小柄で、ほっそりしている体型であるにもかかわらず大人の魅力を醸し出す。
普段の子供らしい雰囲気とのギャップが本能をくすぐり、想像しただけで背伸びした色気の影響により胸に飛びこんでしまいそうだった。
(これは俺の好みを聞いている……となれば───)
想像の中に浮かび上がる睦月の姿を見て吟味する。
そして───
「個人的には……そうだな、そっちのレースが付いたやつがいい」
「理由は?」
「ピンクの身に纏った睦月が可愛くてエロかったから」
「しょ、正直なんですね……」
「待て、どうしてここで恥ずかしがる」
睦月は頬を染め、手に持った下着で赤くなった顔を隠す。
「ふ、普通は恥ずかしくないですか……? 下着姿を想像されるのって」
「普段はあんなに「ヤリたい」って言ってたのに、そこは恥ずかしいの?」
俺にはこの子が分からない。
「え、えーっと……もう一回言いますけど、私はビッチみたいな女の子じゃないですからね? ただ、先輩としたいなーって思ってるだけで……それに、自分から攻める分にはいいですけど、先輩から攻められるのは……恥ずかしいですし、照れちゃいます」
「攻めとらんわっ!」
ただ、睦月の下着姿を作家業で身につけた想像力をフル稼働して想像しただけなのに!
攻めた記憶は毛頭ないし、どちらかといえば先に攻めたのは睦月じゃん!
「せ、先輩……?」
「どうした?」
「これが洋服選びとかだったら、これから試着してお披露目するじゃないですか?」
確かに、こういうイベントは洋服をチョイスすればチョイスされた方が試着し、その姿を見せることが多い。
「っていうことは、私……今から試着してきた方がいいですよね?」
「ッ!?」
睦月の発言に俺は思わず顔が真っ赤になってしまう。
この行動がラブコメに乗っ取ったものであれば、試着しお披露目するのが妥当。
ただ、ワンランク上の行動をしたが故に───試着するのは服ではなく……下着。
つまり、睦月は俺に下着姿を見せなくてはならないわけで───
「こ、ここまで来ましたし……私、頑張りますねっ!」
「その意気込みはまだ早いっ!」
再度の気合を入れて、桃色の下着を持ったまま試着室に向かおうとした睦月の腕を掴んで制す。
「離してください、先輩っ! 私は先輩に『付き合ってから』のラブコメを教えなければならない義務があるんですっ!」
「その義務は生憎とこの場には存在しないんだ!」
「それに、私は先輩をからかって楽しむ小悪魔キャラで通しているんですっ! ここで恥ずかしがっていては、メディアに顔を出せません!」
「安心しろ、君はメディアという大それた看板を背負うようなレディーじゃないから!」
「それは私が可愛くないってことですか!?」
「世界一可愛いよ!」
下着を持って頑なに引き下がろうとしない睦月を、何とかして止めようとする俺。
もし、下着をつけた睦月を生で見ようものなら、俺は世間にお見せできないような描写をしなければならなくなるだろう。
だから、そのためにも睦月の行動は阻止しなくてはならない。
い、一応言っておくが……別に見たくないわけじゃないぞ? 本音は超見たい。俺、健全な男子高校生ですから。
「あ、あのー……」
「「ッ!?」」
そんな光景を繰り広げていると、おずおずといった声が耳に入る。
俺達は騒ぐ口を閉じ、恐る恐る声のする方へと向いた。
そして、そこにいたのは気まずそうにしている店員らしき女性の姿が───
「あまり店内で騒がられるのはちょっと……」
「「……ごめんなさい」」
俺達は、羞恥で顔を真っ赤にしながら頭を下げた。
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